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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
Fourth Single「Rejection」
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Track49「あの頃に」

「よーし! こんな感じでどう?」


「隼君、可愛いわ!」


「結構いい感じですよね」


 四季さんの号令に皆が視線を上げる。そこにいたのは長い前髪をピンで留めた隼さんだった。額の上にあるアメリカピンがバツ印を象っている。先程まで隠れていた顔は精悍と称するに相応しい様相をしていた。


 終わったのをいいことに彩斗さんに近付く。彼は僕に気付かず、隼さんを眺めながら切なそうな色を瞳に宿していた。


「そっくりだな……」


 そっくり? 誰に? 何に? そんな疑問を脳漿一杯に広げ、掴もうとした右手を引っ込める。袖の中で冷たいままの掌に、温もりが宿ることはなかった。


「そっくりでしょ?」


 そんな僕の傍らを通り過ぎた二階堂さんが彼に耳打ちする。僕にも聞こえるくらいの声音が、隠し立てするつもりはないと告げていた。けれども他のメンバーは気付かない。透子さんもモモさんも隼さんに夢中で、隼さん自身も自らの額を隠すことに懸命だった。


「ああ、あの頃に戻ったみたいだ」


「そう。大丈夫?」


「ああ、隼は(ゆう)じゃない。だから今度は大切にするよ」


 そう紡いだ彩斗さんが賑やかな輪に混ざる。儚さが毒とばかりに二階堂さんが歪んだ表情を携えて、唇を動かしていた。しかし、それが音になることはない。ジッと見つめ過ぎていたのだろう。僕を仰いだ彼は先程と違えた言葉を発した。


「幸君。リミットは春だよ」


「……はい」


「彩斗に話してみない? きっとアイツは君を抱きしめてくれるよ」


「そう、ですね。でも僕はまだこうしていたい」


「どうして?」


「また繰り返しそうで怖いから」


「幸君、彩斗の声は楽器じゃないよ」


 なにを当たり前のことを。そう思って真意を確かめようとするも、彼は指の先からスルリと抜けていってしまった。賑やかな輪に、また一人加わる。僕がいない方がいいのではないか、と思えるほど調和の取れた空間に息苦しさを覚えた。


 咽頭を上下する歪んだ欲望を吐き出してしまいたい。けれども、それをしたら全てが終わりなのだ。だから僕は——。


 ——もう少し、このままで。


 それだけを祈っていた。

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