Track49「あの頃に」
「よーし! こんな感じでどう?」
「隼君、可愛いわ!」
「結構いい感じですよね」
四季さんの号令に皆が視線を上げる。そこにいたのは長い前髪をピンで留めた隼さんだった。額の上にあるアメリカピンがバツ印を象っている。先程まで隠れていた顔は精悍と称するに相応しい様相をしていた。
終わったのをいいことに彩斗さんに近付く。彼は僕に気付かず、隼さんを眺めながら切なそうな色を瞳に宿していた。
「そっくりだな……」
そっくり? 誰に? 何に? そんな疑問を脳漿一杯に広げ、掴もうとした右手を引っ込める。袖の中で冷たいままの掌に、温もりが宿ることはなかった。
「そっくりでしょ?」
そんな僕の傍らを通り過ぎた二階堂さんが彼に耳打ちする。僕にも聞こえるくらいの声音が、隠し立てするつもりはないと告げていた。けれども他のメンバーは気付かない。透子さんもモモさんも隼さんに夢中で、隼さん自身も自らの額を隠すことに懸命だった。
「ああ、あの頃に戻ったみたいだ」
「そう。大丈夫?」
「ああ、隼は悠じゃない。だから今度は大切にするよ」
そう紡いだ彩斗さんが賑やかな輪に混ざる。儚さが毒とばかりに二階堂さんが歪んだ表情を携えて、唇を動かしていた。しかし、それが音になることはない。ジッと見つめ過ぎていたのだろう。僕を仰いだ彼は先程と違えた言葉を発した。
「幸君。リミットは春だよ」
「……はい」
「彩斗に話してみない? きっとアイツは君を抱きしめてくれるよ」
「そう、ですね。でも僕はまだこうしていたい」
「どうして?」
「また繰り返しそうで怖いから」
「幸君、彩斗の声は楽器じゃないよ」
なにを当たり前のことを。そう思って真意を確かめようとするも、彼は指の先からスルリと抜けていってしまった。賑やかな輪に、また一人加わる。僕がいない方がいいのではないか、と思えるほど調和の取れた空間に息苦しさを覚えた。
咽頭を上下する歪んだ欲望を吐き出してしまいたい。けれども、それをしたら全てが終わりなのだ。だから僕は——。
——もう少し、このままで。
それだけを祈っていた。




