表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
First Single「ラクリマ」
5/83

Track4「唯一の秘密」

「どうして俺の歌、歌うって言ってくれないんですか?」


 痛いところを突かれ緘黙する。そんな俺を見つめる瞳が、やたら優しいものだから胸が痛んだ。


「俺、音痴なんです」


「あ?」


「音痴なんですけど歌を作るのは好きで、だから彩斗さんに歌って欲しいんです。俺、大好きだったんですよ。彩斗さんが歌う高低差の激しいラブソング」


「……送ってきたのはラブソングじゃねぇだろ」


「好きなのと作れるのは別物なんです。作り手の性というやつですかね。歌詞を言えるってことは曲を聞いてくれたんですよね? メール読んでくれました?」


「ああ」


「じゃあ、そういうことなんです。俺と一緒にバンドやってくれませんか?」


「嫌だ」


「何故?」


「俺は歌えない」


「歌えるじゃないですか。毎日、歌ってるでしょう? 知ってるんですよ」


「だからなんで知ってるんだよ……」


「引かないでくださいよー、だって外まで聞こえるんですもん」


「この部屋は防音だ」


「いくら防音でも窓開けてたら意味ないんですよ」


 何も言い返せない。けれども、この話は断るしかなかった。


「あの事故が原因ですか?」


 ほら、やはり彼もそのこと(・・・・)を口にする。歪んだ貌で彼を見下ろせば「別にいいじゃないですか」と告げる彼がいた。


「彩斗さんが歌っても〝24〟(ツーフォー)の皆さんは責めたりしませんよ」


「何も知らないくせに勝手なことを言うな!!」


 湧いて出たのは怒り。俺の大切なメンバーを貶す彼が許せなかった。


「知りませんよ。俺は、ただのファンですから、バンド内がどうだったかなんて知りません。でも、それを知ってる人達は彩斗さんに、どう接していましたか? いいことありました? なかったですよね」


「そんなことない……!」


 真摯な表情を象り、ロフトの階段を上がってくる彼。逃げようにも逃げ場は無かった。


「防音室じゃ誰にも彩斗さんの声は聞こえませんよ。でも外に出れば違う」


「お、まえ……」


「すみません。お家に上がる時に、ご両親に話を聞いてしまいました。引き籠ってもう五年以上なんですよね?」


 知られてしまった。誰にも知られたくない唯一の秘密を知られてしまった。腰を抜かし、へたり込む。そんな俺の手を握る彼の手は温かかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ