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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
Fourth Single「Rejection」
49/83

Track48「空気」

「はいはーい! じゃあ一段落ついたところで、今日は合わせをして貰います。久しぶりにゲリラライブをしようと思ってるので、ライブ告知も兼ねて『Rejection』から始めようかと計画中です」


「ライブ告知?」


「ライブの日が決まったの?」


 普段は口を開かない隼さんが逸早く反応する。それに続くようにモモさんが言葉を連ねた。


「若い子達は察しが良いねぇ! メジャーデビューはライブでって話はしたよね? キャパは五千人。日付は四月七日。それまでに何回かゲリラライブをしようと思ってます」


「ゲリラライブなんてして大丈夫なのかしら?」


「そうね、混乱が起こるから禁止って話だったでしょ?」


「今回は警備をつけて厳かにやる予定です。下積みは十分しました。デビューライブに向けて頑張りましょう」


「なんで箱じゃないんすか?」


「不特定多数に対する宣伝を行いたいからだよ」


「ふーん」


 隼さんの問いに彩斗さんが答える。平然とした物言いは、うるさい四季さんと対照的だった。


「そういうこと! まぁ、そういうわけで一つ提案があるんだよね。隼君」


「え?」


「その長い前髪上げさせて貰うよ!」


「……は?」


「だーかーらー、そのままじゃ顔が見えないし根暗な印象ついちゃうでしょ? 隼君だけ地味だし」


「じ、み……?」


 吃驚を象った隼さんが目を瞠って反芻する。彩斗さんは笑いを堪えているようで肩が震えていた。


「そう、地味。彩斗は金髪だし目が綺麗。なによりボーカルとして大事な声が素晴らしい」


「どうも」


「透子さんは、そのままで美しさに溢れてる。のに、ギターの素晴らしい腕!」


「褒め過ぎな気がするわ……」


「モモちゃんには知る人ぞ知るネームバリューがあるし、ツインテールの美少女がギターでもベースでもなくドラムだよ? 個性しかないよね」


「当たり前でしょ」


「幸君には少年独特の危うさがある。その歳でバンドのキーボードなんて話題性抜群だよね」


「どういうコンセプトで売り出すつもりなんですか……」


「でも隼君の売りは? 高校生? イケメン? 普通過ぎるんだよ! だったら、その長い髪活かしてかなきゃ! 必要なのは個性だよ」


「い、いや……そういう人が一人くらい居た方が親近感覚えるんじゃ……」


「なに? 隼君は空気になりたいの?」


「ベースなんて地味だし空気ぐらいでいいんじゃない?」


「甘い! ベースは土台なんだよ。ケーキだってスポンジやタルト生地がマズかったら最悪じゃん!」


「俺、甘い物嫌いなんで」


「オムライスのオムレツがマズかったら最悪でしょ!?」


「卵アレルギーなんで」


「嘘……」


「嘘です」


「嘘までしょーもないよ! とにかく髪のアレンジします。マネージャー命令です。彩斗、隼君を押さえて」


「俺?」


「お前には無理矢理拘束された恨みがあるだろ!」


「いや、あれ四季の命令だろ?」


「いいからスタンダップ!」


「いや、俺ずっと立ってるし」


「黙ってカモン!」


「はぁ……ま、隼の前髪はどうにかした方がいいと俺も思ってたんだよね」


「髪型にまで口を出される謂れは……」


「隼君、君達は玩具屋の人形と同じなんだ。芸能界で生きるってことは自分の身体や能力を商品にするってことなんだから」


「……ッ……マネージャーにそんな権限は……」


「じゃあ作曲者命令です。曲のイメージに合わないので変えさせて貰います。彩斗、Go!」


「イエッサー」


「この腐った大人どもがぁぁぁぁ!」


 隼さんってこんな大きな声が出たんですね、と胸裏で呟き手を合わせる。彩斗さんに拘束され、四季さんに何かしらされている様は憐れでならなかった。


「私達はお勉強でもしていましょうか?」


「はい」


 この人も大概マイペースな人だ。透子さんに誘われソファに座ると、色々と質問された。いつから学校に行っていないのか、どこからが分からないのか、不安なところはあるか。何も持って来ていない僕にアレコレ聞く様は真剣そのもの。僕がそれに真摯に向き合っている最中も、隼さんの断末魔が止むことはなかった。

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