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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
Third Single「サーカズム」
41/83

Track40「光」

「自分の為に生きるってのはさ、心を守るってことでしょ。心を守ろうとするのは、まだ戦う時期じゃないってこと。人を傷付けるのが怖い? 大いに結構! 逃げたい? どうぞお好きなだけ! でもね、逃げたら戻ってこなきゃダメだよ。ちゃんと待ってる人のもとに戻ってきてあげて。これが二十数年生きて俺が学んだことかな。彩斗さー、今日一日心配してたんだよ」


「え?」


「大成功じゃん。好きな人の心、占拠出来たよ」


 大成功? と反芻し思惟する。胸懐を満たしたのは——。


「嬉しくないわ」


 嬉しくなどなかった。好きな人の心には留まりたい。けれども心配させたいわけじゃかった。


「私は心配して欲しかったんじゃない。ただ褒めて欲しかったのよ。好きな人に心配されても嬉しくなんかない……!」


「偉い、偉い。モモちゃんは凄いね!」


 唐突に頭を撫でまわされ目を瞠る。片手でハンドルを握り、もう片方の手で私の頭を握っているものだから面白くない気分になった。勿論、精一杯の力で彼の手を叩き落とす。


「なに、よ!」


「だって凄いじゃん! その年で好きな人の幸せ願えるんだよ! 尊敬するわー」


「馬鹿にしてんの!?」


「褒めてるんだよ」


「私は彩斗さんに褒めて欲しいのよ!」


「いいじゃん、俺でもさ」


「嫌よ。でも、ありがとう」


「モモちゃん、学校に行かなくても学べることは沢山あるよ。でもね、学校でしか学べないもの、昇華出来ないものもある。でも今の学校には学ぶことはないんだと思うんだよね。だからさ、モモちゃんが前に進む為の道具にしない?」


「どういう意味?」


「ゲリラライブ、本当はちょっと怖かったでしょ?」


「そ、そんなわけないでしょ」


「折角、素直になれたんだから強がらないの。大方、同級生に見られたらどうしよう、ってとこじゃない?」


「なんで分かるのよ……」


「言ったでしょ。一緒だったって。俺も同級生には会いたくないんだよ。でも、それを変えてくれたのが彩斗なわけ」


「前から思ってたけど彩斗さんと四季さんって、どういう関係なわけ? 私達と出会った時期変わらないわりに仲良過ぎない?」


「え? ホントに? 俺、彩斗と仲良い!?」


「……気のせいだったかもしれないわ」


 食い気味で訊ねてくる彼に内心引きつつ言葉を繰り出す。彼は「えー」と不満げに唇を尖らせていた。


「俺さー、学生時代、地味中の地味だったの。学校嫌い、でもサボる勇気もない。居場所もない。つまんない。まぁ、そうなると世界を恨みにかかるわけ」


「怖い」


「知ってる。でも、それを変えてくれたのが彩斗だった。彩斗の歌には光がある。誰かを照らす光になれる。だから、もう一度歌って欲しかった。好きだったから」


「本当にファンだったのね」


「信じてなきゃ、こんなこと出来ないよ。まぁ、だからさ分かるんだよ。人が怖いとか、学校行きたくないとか、同級生には死んでも会いたくない、とかね」


「私が……私がノアブルのドラムだって分かったら、どんな顏するかしら」


「モモちゃんは、どんな顔すると思うの?」


「驚く」


「驚く、他には?」


「蔑む」


「どうして?」


「学校にも来ないで何してんのよ、って私なら思うから」


「モモちゃんにとって〝学校に行かない〟ってのはダメなことなんだね」


「当たり前でしょ。普通の人が出来ることをしてこそ、他人と違うことをする権利を与えられるのよ」


「でも、ノアブルにはモモちゃんが必要だよ。ノアブルのMomoには学校より大切なものがある」


「それじゃダメなのよ!」


「真面目だねぇ。じゃあ学業も頑張ってみる?」


 いくら理想を語っても、学校になど行きたくない。私はいつも口先だけの臆病者だ。正しさを語って正しく生きたいのに、それが出来ないはみ出し者。だからこそ募る後ろめたさが、胸裏を満たしてどのくらいになるのだろう。返事が出来ない、それが答えだった。

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