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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
Third Single「サーカズム」
40/83

Track39「真珠」

「学校は、どういう場所だと思う?」


「なによ突然」


「まぁまぁ、答えてよ」


「勉強する場所」


「半分正解かな。俺はね、協調性を学ぶ場所だと思うんだ」


「協調性?」


「うん。集団生活って言ってもいいかな。学校は誰かと共に居ることに慣れる場所。訓練場みたいなものなんだよ。でも世の中には、人とずっと一緒にいるのが苦痛な人もいるわけじゃん? そういうのが〝学校に行けない人〟だと思うんだよねー」


「私が、そのはみ出し者だって言いたいの?」


「違う、違う。俺もさー、モモちゃんと一緒で学校大嫌いだったんだよ」


「嘘でしょ」


「なんで決めつけんのさ」


「だって四季さんは人と普通に話せるじゃない。普通に話して、誰を傷付けることもない。普通に人が集まってくる〝人気者〟だったでしょ」


「俺、さっきモモちゃんを傷付けたよ」


 慌てて瞼を上げ、彼を仰ぐ。私をチラリと見やった彼は、前方に視線を戻すと更に続けた。


「人を傷付けない人なんていないよ。生きていれば人を傷付けることも、傷付けられることもある。大事なのは、その経験をどう生かすか。一緒に居たいと思った人と、どういう関係を築きたいかってことじゃないかな。モモちゃんは彩斗と、どうなりたいの?」


「恋人」


「恋人なんてさ、距離は近いし、傷付くわ、傷付けられるわで大変なんだよー、恋愛自体面倒くさくて大変なんだし」


「そんなこと分かってるわよ! でも私は誰も傷付けたくないの!」


「モモちゃんは、それが優しさだと思うの?」


「当たり前でしょ!? 傷はお互い少ない方がいいに決まってるじゃない!」


「傷付くのが怖い、これは自分の為だよね?」


「そうね」


「でも傷付けるのが怖いってのも自分の為なんじゃないの?」


「なん……」


「本当に怖いのは傷付けた後に嫌われること、でしょ?」


「なに、言っ、て」


「分かるよ。俺もモモちゃんぐらいの時は、そうだったから」


 何も言い返せない。魚のように口を開いては閉じを繰り返す私は、相当間抜けな面をしていることだろう。まさしく意表を突かれたと評するに相応しい。けれども、それが正しいのか否か、私には分からなかった。


「思春期って一番、生きにくいよね。容姿の優劣、成績、友人関係に上下関係。ちょっとした一言が引鉄でイジメに変わってしまったり……それこそ仲間外れなんて日常茶飯事。周りに合わせていれば〝自分がないのか〟と言われ、〝どうせ独りになるから〟と一人を選んでも糾弾される。生きることは選択の連続だけど、迷うのはも、目隠ししてくるのも、他人の無責任な言葉でさ。だからと言って〝子供〟に選択肢なんて無いも同然で、息をするのが苦しくなる。そんな状態で魚の群れに突っ込まれたら〝どう生きればいいんだ〟ってなるよね」


 何が言いたいのだろうか。抽象的で、それでも確信を突いてくる言葉達が降り注いでくる。よく分からないと告げる脳漿が「それでも彼は味方なのだ」と告げていた。寄り添ってくれる〝大人〟なのだ、と。


 頬から零れる月の雫。分かって欲しいとは思っていなかった。それでも思いやりが胸を打つ。波打った感情が治まってくれるわけもなく、私は双眸から真珠を零した。


「『泣きたい時は泣いたらいいんじゃない?』彩斗なら多分そう言うよ」


「知ってるわよ……彩斗さんは優しいもの……」


 だから好きになったのよ——そこまで言えない私は、差し出された箱ティッシュを受け取り唇を噛んだ。

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