Track39「真珠」
「学校は、どういう場所だと思う?」
「なによ突然」
「まぁまぁ、答えてよ」
「勉強する場所」
「半分正解かな。俺はね、協調性を学ぶ場所だと思うんだ」
「協調性?」
「うん。集団生活って言ってもいいかな。学校は誰かと共に居ることに慣れる場所。訓練場みたいなものなんだよ。でも世の中には、人とずっと一緒にいるのが苦痛な人もいるわけじゃん? そういうのが〝学校に行けない人〟だと思うんだよねー」
「私が、そのはみ出し者だって言いたいの?」
「違う、違う。俺もさー、モモちゃんと一緒で学校大嫌いだったんだよ」
「嘘でしょ」
「なんで決めつけんのさ」
「だって四季さんは人と普通に話せるじゃない。普通に話して、誰を傷付けることもない。普通に人が集まってくる〝人気者〟だったでしょ」
「俺、さっきモモちゃんを傷付けたよ」
慌てて瞼を上げ、彼を仰ぐ。私をチラリと見やった彼は、前方に視線を戻すと更に続けた。
「人を傷付けない人なんていないよ。生きていれば人を傷付けることも、傷付けられることもある。大事なのは、その経験をどう生かすか。一緒に居たいと思った人と、どういう関係を築きたいかってことじゃないかな。モモちゃんは彩斗と、どうなりたいの?」
「恋人」
「恋人なんてさ、距離は近いし、傷付くわ、傷付けられるわで大変なんだよー、恋愛自体面倒くさくて大変なんだし」
「そんなこと分かってるわよ! でも私は誰も傷付けたくないの!」
「モモちゃんは、それが優しさだと思うの?」
「当たり前でしょ!? 傷はお互い少ない方がいいに決まってるじゃない!」
「傷付くのが怖い、これは自分の為だよね?」
「そうね」
「でも傷付けるのが怖いってのも自分の為なんじゃないの?」
「なん……」
「本当に怖いのは傷付けた後に嫌われること、でしょ?」
「なに、言っ、て」
「分かるよ。俺もモモちゃんぐらいの時は、そうだったから」
何も言い返せない。魚のように口を開いては閉じを繰り返す私は、相当間抜けな面をしていることだろう。まさしく意表を突かれたと評するに相応しい。けれども、それが正しいのか否か、私には分からなかった。
「思春期って一番、生きにくいよね。容姿の優劣、成績、友人関係に上下関係。ちょっとした一言が引鉄でイジメに変わってしまったり……それこそ仲間外れなんて日常茶飯事。周りに合わせていれば〝自分がないのか〟と言われ、〝どうせ独りになるから〟と一人を選んでも糾弾される。生きることは選択の連続だけど、迷うのはも、目隠ししてくるのも、他人の無責任な言葉でさ。だからと言って〝子供〟に選択肢なんて無いも同然で、息をするのが苦しくなる。そんな状態で魚の群れに突っ込まれたら〝どう生きればいいんだ〟ってなるよね」
何が言いたいのだろうか。抽象的で、それでも確信を突いてくる言葉達が降り注いでくる。よく分からないと告げる脳漿が「それでも彼は味方なのだ」と告げていた。寄り添ってくれる〝大人〟なのだ、と。
頬から零れる月の雫。分かって欲しいとは思っていなかった。それでも思いやりが胸を打つ。波打った感情が治まってくれるわけもなく、私は双眸から真珠を零した。
「『泣きたい時は泣いたらいいんじゃない?』彩斗なら多分そう言うよ」
「知ってるわよ……彩斗さんは優しいもの……」
だから好きになったのよ——そこまで言えない私は、差し出された箱ティッシュを受け取り唇を噛んだ。




