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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
Third Single「サーカズム」
38/83

Track37「今」

「本当はそんなこと思ってないんだからさー! モモちゃんは素直じゃないなー」


「やめてよ!」


 お道化た四季さんが私の頬を突く。薙ぎ払う右手に軽い痛みが走るも、彼がそれを気にする様子は無かった。


「ハリネズミみたーい」


「なによそれ!」


「あ、それだと彩斗に捕食されるか」


「さっきから何よ!?」


「でもハリネズミなんてお腹壊すし食べないか」


「バカにしてんの!?」


「してない、してない」


「どうせ……子供なんて相手にされないわよ。そんなこと分かってるもん……」


 自分で言っていて悲しくなる。それほど彼が好きだった。この歳にして愛しさを知ってしまったら、この後の恋愛にどれほど差し支えるのだろう。淡く散るだろう初恋は苦く、甘さなどこれっぽっちも無かった。


「モモちゃん今何歳?」


「十四」


「じゃあ彩斗とは十一差か……結構あるね」


「四季さんは私を慰めたいの!? 傷付けたいの!?」


「慰めようと思ったんだけど、自分で言ってて結構あるなと思ってね」


「慰める気なら、そこらへん包み隠しなさいよね!?」


「怒んないでよ!?」


「怒るわよ!?」


「んー、でもさ、モモちゃんが二十歳になったら彩斗は……えーっと」


「三十一歳よ」


「絶対計算してたでしょ?」


「したわよ! 悪い!?」


「だから怒んないでよ! 俺が言いたいのはさ! それくらいになったらどうせ若い子のが好きなんだから見て貰えるよってこと!」


「なに、それ」


「男なんて皆若い子が好きなんだよー、モモちゃんなら可愛いし、二十歳越したら歳の差なんてないの。歳を言い訳にするのは、ただの言い訳。諦めるかどうかは自由だけど。泣くほど好きなのに諦められるんだ?」


「うるさいわね!」


 私にとっては〝今〟が大切なのだ。〝今〟見て貰わないと意味がない。私は私を愛して欲しい。けれども、彼が子供を愛することは罪になるし、そもそも彼の好みは大人の女性だ。今、好きになって欲しいのに様々な障害が私の恋を遮る。それを他人の言葉で分かったように語られるのは不快だった。


 頬を伝う雫を拭い、落涙を隠すよう窓の外へ目をやる。知らない景色が傷付いた心を癒してくれることはない。けれども私は、それをやめたりしなかった。


「諦めることはないと思うよ。恋に区切りをつけるのは自分自身。恋に限ったことじゃないね。なんでも区切りをつけるのは自分自身なんだからさ。そんなに思い詰めたりする必要はないんだよ」


「勝手なことばっかり……彩斗さんは透子さんが好きじゃない」


「え?」


「四季さんは知らないかもしれないけど、彩斗さんが透子さんの頭を撫でてたのよ。ただのメンバーにそんなことする? それに……いつも二人で楽しそうに話してるじゃない。初めてのゲリラライブの日だってガスに紛れて姿を消す時イチャついてたのよ! ただのメンバーなわけないじゃない!」


 半ば叫ぶように吐き出す。一気に捲し立てた為、息が上がっていた。


「いやいやいや、そんなわけないでしょー」


「気付かないとか鈍いんじゃない?」


「そもそもバンド内で恋愛しないなんて基礎中の基礎でしょー、まさか彩斗が」


「四季さん実は動揺してるわね?」


「そんなわけないじゃーん」


「動揺し過ぎじゃない!? ウインカー逆に出してたけど!?」


 どこからか聞こえてくるクラクションに肩を揺らし彼を仰ぐ。先程までシートに凭れていた彼が、直立不動でハンドルに齧り付いていた。紳士さの欠片もない運転の仕方に心が冷めていく。


「四季さんも、透子さんが好きなの?」


「どうして女子は皆すぐ恋愛に変換したがるわけ!? そんなわけないじゃん!? 二人が付き合ってたら大問題だから慌ててるんだよ!?」


「動揺の仕方がおかしいのよ」


「仕方ないじゃん!? ニートが突然恋愛するなんて思わないし……そう言えばあの人、元リア充だった……」


 ぶつぶつと呪詛のように繰り出される独り言が恐ろしい。炎天下の午前中にも関わらず背筋が粟立った。

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