Track36「ギルティ」
このまま家に帰れば両親が慰めてくれるのだろう。けれども、それに縋る気にはなれない。かと言って、不健全にも不登校な幸が、彩斗さんを独り占めしているのかと思えば面白くない。わざわざ確認しに行くのは癪だし、口の達者な幸のことだ。尻尾を巻いて逃げ出してきたことを知った瞬間、自分を棚上げし馬鹿にしてくることだろう。わざわざネタを与えてやるつもりはない。だからと言って行き場もなかった。
「モーモちゃん!」
「四季、さん?」
けたたましいクラクションが鳴り響く。視線を音の在り処へ向ければ、車の窓から顔を出す四季さんが居た。ということは彩斗さんも!? なんて車の後部座席目掛けて走る。マジックミラーを見通す為、手で影を作るも、そこには誰もいなかった。
「はぁ~~~~」
「溜息ふっかいねぇー、そんなに彩斗に会いたかったわけ?」
「当たり前じゃない! 彩斗さんは私の心のオアシスなのよ!」
「見た目ヤンキーじゃん」
「ヤンキーじゃないわ! 彩斗さんを馬鹿にするのは四季さんでもユルサナイ」
「最後カタコトなのが絶妙に怖い」
そう言いながら優しく笑った彼が「乗りな」と言う。車に乗り込むと、冷え切った車内が私を歓迎した。
「この涼しさギルティだわ」
「君、本当に中三?」
「なによ。制服が似合わないとでも?」
「いーや、でもモモちゃんはラフな服着て、ドラム叩いてんのが似合うね」
車を発進させた彼が、人好きのする笑みを浮かべる。それに頬を染めたりはしないが、照れ臭さから目を逸らした。飾り気のない褒め言葉は素直に嬉しい。けれども「ありがとう」と象ることは出来なかった。
「事務所に行くんじゃなかったの?」
「んー、だって今、会いたくないでしょ? 家にも帰りたくないだろうし」
「……なんで分かるのよ」
「俺も同じだったからね」
通り過ぎた事務所を目で追い訊ねる。振り仰いだ彼の目は郷愁に染まっていた。
「どういう意味?」
「モモちゃんさ、彩斗と透子さん以外に敬語使わないよね」
「だから何よ? 私は、あの二人以外メンバーとは認めてないんだから」
こんなことを言いたかったわけではない。口から零れる言葉は本心ではないし、語弊がある。けれども、それを主張する気にはなれなかった。
「そういうこと言わない方がいいよ」
ほら、この人も、こうやって否定するのだ。正しさは毒でしかない。私の言い方も悪かったが、一方的に毒薬を飲まされるのだけは懲り懲りだった。
息を止め、生唾を呑み込む。スカートの襞を握り締め眼を固く閉じれば、彼の声が降り注いできた。




