表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
Second Single「ルシッドドリーミング」
33/83

Track32「ライナスの毛布」

「ギターはいつから?」


「え? 学生の時に叔父がくれたのよ。やめていたんだけど、起きられるようになってからまた始めたの。時間だけは沢山あったから」


「さっきも人の目が怖かった……?」


 独る彼に答えるべきなのか戸惑う。結局、口を開かずいれば、視線がかち合った。


「透子さん、さっき楽器弾いてた時どうでした?」


「えっ、どうって?」


「気持ちよくなかったですか?」


「たしかに、そうね。気分が上がると言うか……」


「ライブする時ってハイになるんですよね。透子さん……イントロのギターは音が綺麗だったのに、途中から濁ってたんです。もしかして人が気になって集中力が切れてたんじゃないですか?」


「そうかもしれないわ……人がコッチを見てたから……」


「ライブで人に見られないってことは無理ですよ」


「そう、よね。自分でもこんなになるとは思ってなくて」


 力一杯スカートを握る。足元に視線を追いやっていれば、右手に温もりを感じた。


「透子さんにとって精神安定剤ってなんですか?」


「え?」


「好きなものとか、落ち着くおまじない、好きな人。なんでもいいんです。透子さんにはライナスの毛布ってありますか?」


「……手」


「手?」


「いつも……頭を撫でて貰ったの。小さい頃、私は母の背に隠れてばっかりだったから。それをして貰うとね、不思議と不安が消えていつも成功するのよ。だから……え?」


「頭、撫でて貰うんでしょ?」


「そ、そうだけど……!」


 万華鏡のような瞳が間近にある。それに頬を染め俯くも、彼が頭を撫でるのをやめることはなかった。そういえば、パニックになった時も彼に頭を撫でて貰った気がする。そう思うと更に身体が熱くなった。


「効きそうですか?」


 正直、それどころじゃないです。なんて言えるわけもなく黙り込む。心臓は激しく律動を告げているし、心は落ち着くどころか慌ただしく波打っていた。


「透子さん?」


 こんな時に自覚するなんて、と羞恥に襲われる。恋というのは、こんなに簡単に落ちてしまえるものだったのか。〝恋は落ちるもの〟と自身の辞書に記す。なんとか取り戻そうとした平常心は遥か彼方へ飛んで行き、代わりに津波のような愛しさが押し寄せた。


 年下の男の子に恋をするだなんて、はしたない。そう思うのに、髪を撫ぜる手は優しく私の心を解いていく。思った以上に大きな掌は頭を覆い隠してしまえそうで、間近に迫る彼は精悍さを醸し出していた。


 いい匂い、とは違う気がする。けれども彼独特の匂いは、けして嫌なものではない。腕に抱いて欲しいと伸ばしそうになる手を必死に諫める。これがモモちゃんなら迷いなく抱き付いたことだろう。けれども、全て好意から動いてくれているだけの彼に何が出来る。否、してはいけない。ましてや二十七の女のアプローチなど迷惑でしかない筈だ。


 自身で出した答えに胸が痛む。針でも刺したかのような、チクリという感覚が疼痛に変わっていった。恋が痛いというのは、こんな感じなのか、と力なく口端を吊り上げる。それを見止めた彩斗君は何かを勘違いしたようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ