Track31「人の目」
「俺、車がダメなんです」
「なんとなくそんな気はしてたけど……」
邂逅を思い出しながら言葉を紡ぐ。「なら話は早いですね」と彼は力なく笑っていた。
「バンドメンバーが目の前で事故にあって死にました。それから車が苦手なんです。それが原因で外にもずっと出られなくて。でも四季の曲を聞きながら目を瞑ってると車には乗れるようになったんですよ」
「だからあの日、目隠しを……」
「あの時はお世話になりました」
「あ、いえ、その……」
「冗談ですよ」
吃音を繰り出す私に彼が笑う。幾許か緩む空気に、肩の荷が下りた気がした。
「それから色々練習して車の音くらいになら耐えられるようになったんですけど、やっぱり喉が詰まるような感覚があって」
「さっき四季君に怒ってたのは、もしかしてそういうことなの?」
「アイツ……分かってるクセに一々、声掛けてくるんです。いい加減、鬱陶しくて」
「二人は仲がいいわよね」
「出逢ったのは最近なんですけどね。俺、四季に言われて少しずつリハビリしてるんです。でも透子さんには、そんな時間ない。だから、とりあえず〝恐怖の対象〟をハッキリさせませんか?」
「恐怖の対象?」
「はい。俺の場合は〝車〟です。透子さんは自分の怖いモノがちゃんと分かってますか?」
自身の怖いモノ。暫し逡巡するも答えは出てこない。ジッと待ってくれている彼に申し訳なくて、中々申告出来なかった。
「……ごめんなさい」
「自分だとそんなもんですよ。四季はさっき〝人が怖いじゃ困る〟って言っていました。単刀直入に訊きます。透子さんは人が怖いんですか?」
「どう、かしら……でも確かに目立つことは苦手ね。人と接するのも得意ではないわ」
「前、仲の良い人がいないって言ってたじゃないですか? 学生時代もですか?」
「ええ」
「透子さんは、どんな人生を送ってきたんですか?」
「私?」
「はい。なにか克服する為のヒントがあるかもしれないので、差し支えなければ」
「……私の両親は子供が中々出来なかったみたいで。だから私は大切に育てて貰ったわ。習い事をしたり、勉強することは嫌いじゃなかったけれど、人見知りで人と接するのが苦手だったわね。イジメられたりすることはなかったんだけど、とっつきにくいみたいで、いつも一人だった。有名大学を出て就職をして、でも……人間関係が上手くいかなくて、ベッドから起きられなくなってしまったの。所謂、鬱病ね。それで今迄は『頑張り屋ね』って褒めてくれてた両親が『もう頑張らなくていいよ』って言うようになったの。引き籠りの娘に期待なんて出来なくなったのね」
「そう言われたんですか?」
「いいえ、でも目は口程に物を言う、なんて言うでしょう? だから私、人の目を見るのが苦手なのよね。本心が透けて見える気がして……」
「俺の目も怖かったですか?」
「いいえ。彩斗君は私を傷付けるようなことは言わないもの。それに、あまりにも綺麗な目だから見てしまったのよ。その眼差し通り、彩斗君は優しい人だった。金髪だし、ぶっきらぼうに見られがちだけど面倒見もいいわよね。モモちゃんと幸君が懐くのも分かるわ」
「そうですかね?」
「ええ」
笑みを交わした後、彼が考え込む。居心地の悪さを覚えながら外に目を向ければ、相変わらず人が行き交っていた。




