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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
Second Single「ルシッドドリーミング」
29/83

Track28「別れは辛い」

 *


「おはよー、暑い中お疲れ様! そして打ち合わせ始めます!」


 見慣れたミーティングルームには、いつものメンバーが揃っている。四季君は彩斗君と幸君を迎えに行っていたとかで最後に登場した。既に揃っていたメンバーがスマホをテーブルの上に置く。私もそれに倣い、扉前の四季君に視線を向けた。


 出逢いは初夏。今はそれから二ヶ月ほど経過し七月である。空気はすっかり夏で、皆の服装も薄着に変わっていた。しかし、その中で彩斗君は服装を変えることがない。一貫して黒のパーカーのフードを深く被り、ジーンズを身に付けているのだ。モモちゃんがノースリーブを身に付けているだけあって、その光景は異様に思えた。


「今迄、曲とシルエットだけでサイトを運営してきましたが、ネットでも順調に話題になってるので、予定通りゲリラライブをやろうと思います。前話してた通り駅前でやろうと思ってるんだけど、これを機にメンバーを明かしていきたいと思います。と、いうことで芸名を考えたいと……てか皆、下の名前をローマ字にしちゃえばいいよね?」


「別にいいんじゃね?」


「……俺も異議なし」


「あ、私もないです」


「私はMOMOのままでいい?」


 腕を組んだモモちゃんが凛とした声で告げる。四季さんの「別にいいんじゃない?」の声に今度は幸君が手を上げた。


「僕も名前変えて欲しいです」


「え? 幸君も?」


「なによ、チビのクセに。アンタなんか〝ユキちゃん〟がお似合いよ」


「モモさんだって〝マリアちゃん〟の方がキャッチ―でいいんじゃないですか?」


「モモはMOMO。幸は何がいいんだ?」


 向かいあうような席順のせいで二人が火花を散らす。今にも吠え出しそうな二人は彩斗君の声で矛を収めていた。


 思えば出逢いが最悪だった。幸君との顔合わせで対面した二人だったが、唐突に彩斗君の取り合いが勃発したのだ。四季君は「子供手懐けるの上手だねー!」と笑っていたが、ことあるごとに競い合いが勃発するものだから、私は正直呆れていた。人に好かれ過ぎるのも考えものである。


「僕〝ユキ〟って読み方嫌いなんです。〝コウ〟にして貰えませんか?」


「それカッコイイじゃん! じゃあ〝Koh〟でどう?」


 ホワイトボードに綴った文字を指しながら四季さんが笑う。それに笑みを咲かせた幸君は可愛らしかった。


「それでお願いします!」


「無駄にカッコよくしやがって」


「何か言いましたか? マリアさん?」


「マリアって呼ばないでって言ってるでしょ!?」


「喧嘩すんな!」


 鶴の一声とばかりに彩斗君が声を張る。不満げに口を噤んだ二人は彩斗君の顔色を窺うと、衝動のまま立ち上がっていた自身を諫めた。


「えーっと、じゃあ〝Ayato〟〝Toko〟〝Syun〟〝Momo〟〝Koh〟でいいかな?」


「MOMOは初め以外小文字になるのね」


「一人だけってのは、どうしても変だからねー、これで許して?」


「別にいいわよ」


 名前を読み上げながらホワイトボードに書き記していた四季君が、満足気に腰へ手を当てた。「じゃあ車に乗って現場に行きますか!」と告げた彼に、凄まじいブーイングが飛んだのは言わずもがな。苦笑を浮かべるだけに止めた私もクーラーとの別れは辛い。溜息は誰にも聞こえぬよう小さく吐いた。

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