表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
First Single「ラクリマ」
26/83

Track25「優しい日々」

「じゃあ、やってくれるってことでいい?」


「はい。よろしくお願いします」


「ピアノは無理して弾かなくていい。音が聞こえるようになるまで俺達が協力するからね!」


「虫のいいこと言ってんじゃねぇよ! 幸に謝れ!」


「あ、大丈夫です。ちゃんと分かってますから」


「幸君は頭がいいねー」


「どういうことだよ」


「二階堂さんは僕にずっと優しかったですから。本音を言わせる為ですよね。僕がやりたいって思ってるのを気付いてたんですよね」


「彩斗と幸君は似てるよ。好きなものを好きって言えなくて、やりたいことをやりたいって言えないところがね。好きなものに嘘を吐くのは苦しいよ。彩斗に似てるから、幸君も見捨てられなかったんだ」


 温かい言葉が染み渡る。俺は羞恥を隠すように、首の後ろへ手を置き誤魔化した。


「でも〝弾かなくていい〟って、どうするんだ?」


「スタジオミュージシャンって手もあるんだけど、幸君には自分の音に自信を持って欲しいからね。打ち込みにするよ。弾けるようになったら差し替える」


「そうか」


「でもライブでは、そんなこと出来ない。ゲリラライブは弾いてるフリで誤魔化してあげる。だけど本物には本物で応えなきゃいけない。お金を取るようなライブでは、そんなことさせられないからね」


「はい」


「プレッシャー掛けんな」


「痛っ!?」


 四季の後頭部目掛けて手刀を決める。苦痛に顔を歪めながら患部をさする彼は間抜けそのものだった。


「よろしくな、幸」


「よろしくお願いします。彩斗さん」


「俺も入れてよー」


 寂しがり屋の四季が俺達の間に割って入る。それを貶していれば、いつも通りの彼がそこにはいた。お気楽で、お調子者で、変人で、しかし誰よりも優しい彼が。先程のアレは全て演技だったのだろう。冷徹な面差しも、極点の氷のような眼差しも、きっと演じていたに違いない。そう思うのに、思いたいのに、先程の彼が脳漿の片隅で繰り返し反芻された。


 何故。そんな疑問すら見ないフリをしながら、頭の片隅に追いやる。俺はただ壊したくなかったのだ。〝日常〟になりかけの優しい日々を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ