Track25「優しい日々」
「じゃあ、やってくれるってことでいい?」
「はい。よろしくお願いします」
「ピアノは無理して弾かなくていい。音が聞こえるようになるまで俺達が協力するからね!」
「虫のいいこと言ってんじゃねぇよ! 幸に謝れ!」
「あ、大丈夫です。ちゃんと分かってますから」
「幸君は頭がいいねー」
「どういうことだよ」
「二階堂さんは僕にずっと優しかったですから。本音を言わせる為ですよね。僕がやりたいって思ってるのを気付いてたんですよね」
「彩斗と幸君は似てるよ。好きなものを好きって言えなくて、やりたいことをやりたいって言えないところがね。好きなものに嘘を吐くのは苦しいよ。彩斗に似てるから、幸君も見捨てられなかったんだ」
温かい言葉が染み渡る。俺は羞恥を隠すように、首の後ろへ手を置き誤魔化した。
「でも〝弾かなくていい〟って、どうするんだ?」
「スタジオミュージシャンって手もあるんだけど、幸君には自分の音に自信を持って欲しいからね。打ち込みにするよ。弾けるようになったら差し替える」
「そうか」
「でもライブでは、そんなこと出来ない。ゲリラライブは弾いてるフリで誤魔化してあげる。だけど本物には本物で応えなきゃいけない。お金を取るようなライブでは、そんなことさせられないからね」
「はい」
「プレッシャー掛けんな」
「痛っ!?」
四季の後頭部目掛けて手刀を決める。苦痛に顔を歪めながら患部をさする彼は間抜けそのものだった。
「よろしくな、幸」
「よろしくお願いします。彩斗さん」
「俺も入れてよー」
寂しがり屋の四季が俺達の間に割って入る。それを貶していれば、いつも通りの彼がそこにはいた。お気楽で、お調子者で、変人で、しかし誰よりも優しい彼が。先程のアレは全て演技だったのだろう。冷徹な面差しも、極点の氷のような眼差しも、きっと演じていたに違いない。そう思うのに、思いたいのに、先程の彼が脳漿の片隅で繰り返し反芻された。
何故。そんな疑問すら見ないフリをしながら、頭の片隅に追いやる。俺はただ壊したくなかったのだ。〝日常〟になりかけの優しい日々を。




