Track23「軋んだ想い」
「お前、俺に何させるつもりでいたんだよ?」
「別に。俺はただ紫藤さんに頼まれて、幸君にピアノを弾かせようとしてただけだよ」
「コイツの意思に反してもか?」
「彩斗、コレはビジネスなんだよ? 上からやれと言われたら、やるしかないんだ」
「散々、公私混同してた奴の台詞じゃないよな? 俺にボーカルをやって欲しいって言ったお前は、ビジネスのこと考えてたのかよ!?」
「勿論。俺の好きなものがビジネスとして使えたってだけの話でしょ。何か問題ある?」
「文句しかねぇよ!? お前そんな奴じゃないだろ!?」
「俺の何を知ってるわけ? 俺は一緒にやってくれる仲間に優しくしてるだけ。別に彩斗を特別に思ってるわけじゃないんだよ。そこ勘違いしないでくれる?」
「俺のファンなのに?」
「ファンだけどね」
「幸の気持ちを考えられないほど、お前は落ちぶれてるのかよ!?」
「彩斗がそう思うんならそうなんじゃない? で、弾く気にはなった?」
「そんな言い方されたら萎縮するだろ!? お前馬鹿なのか!?」
「馬鹿は彩斗なんじゃない? 俺は初めからビジネスだって言ってんじゃん。どっちにしろ答えは出して貰わないと困るんだよ」
「お前みたいなクソな大人がいるから子供は主張する場を失くしてくんだよ!!」
「で? 彩斗が優しいのは知ってるけどさ、それだけじゃ困るんだよね」
鼻で笑う四季が意地悪い表情を浮かべている。奥歯を噛むと、軋んだ想いが顎骨を伝った。気に食わない。穢れた言葉で此方の心を濁そうとしているかのようじゃないか。俺は睥睨を飛ばすと、深い呼気を吐き出してから幸と向き直り膝を折った。
「幸、嫌なら弾かなくていい」
「え……」
「勘違いするなよ。俺がお前とやりたくないとかじゃない。幸がやりたいなら何とかしてやる。楽しくピアノと向き合えるように、また音と向き合えるようにしてやる。でも弾きたくないなら、今はそういう時期じゃないんだ。無理をする時期じゃない。だから、自分で決めろ。お前はどうしたい?」
引き攣った表情が罪悪感を煽った。正しい大人の姿としては「弾かなくていいよ」と言うべきなのだろう。けれども俺は、そう言えなかった。
頼りない肩に「楽器を奏でる資格」などという言葉を背負わせるには心許ない。弾けないことを、そんな理由で片付けて欲しくなかった。
四季が外の世界に連れ出してくれたのがキッカケだったが、今なら分かる。ほんの少しの手招きが大きな一歩になることもあるのだ。けれども、自身の足で歩くのが覚束ない彼では、手を引っ張っただけで転んでしまう恐れがある。本当は、じっくり時間をかけて決断してほしかったのだが、そうも言っていられなかった。




