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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
First Single「ラクリマ」
21/83

Track20「小さな肩」

 さて、どうしたものか、と少年を見下ろす。未だ扉を眺め続ける少年が動く気配はない。ずっとこのままにしておくのも可哀想だ。その考えが導き出す答えなど一つしかなかった。


「はじめまして。俺、須黒彩斗な。とりあえずよろしく」


「……はい……」


「紫藤幸君?」


「……はい」


「そっか。単刀直入に聞くよ。一緒にバンドする気ある?」


 俺の問いに間を置きながらも答えてくれていた彼が黙り込む。すぐさま頭を振らないあたり、勝機はあるように思えた。


「分かった。じゃあ、とりあえず自己紹介しない?」


「え?」


「俺は歌を。君はピアノを弾く。どう?」


「……ピアノは弾けません」


「ピアノ嫌い?」


 すぐさま頭を振る彼が顔を顰める。小さな肩が大袈裟に揺れるものだから、いっそう可哀想に見えた。


「じゃあ弾かない? ココには俺と、あの兄ちゃんしかいない。君に何があったかは知らないけど、これは自己紹介。上手く弾こうとしなくていいんだよ」


 精一杯の優しさを織り交ぜながら語りかける。それでも動こうとしない彼の手を取り、俺は収録用のブースに移動した。


 四季が何も言わないと言うことは、俺にどうにかしろということなのだろう。俺に何が出来るかは分からないけれど、彼が〝傷付いた少年〟だということは分かった。


「座って」


 ピアノの椅子に腰かけるよう言えば、繋いだ右手が微かに動く。嫌だ、と言外に告げる様に、俺は溜息を吐きたくなった。


「別に無理に弾けなんて言わねぇよ。ほらよっと」


「え? えぇ!?」


「俺とお前じゃ身長差あんだろ。顔が見えないと分かんないことだらけで困んだよ」


「僕はチビじゃないです!」


「そこの意思表示は出来んのかよ。てか俺なんも言ってねぇだろ。子供が大人より小さいのは当たり前だっての」


「だから! 僕はチビじゃないです!」


「わーったよ。ちょっと話しようぜ。ココだとアイツにも聞かれないし、本当に二人きりだ」


「え?」


「四季と知り合いなんだろ? 顔見知りに知られたくないことってあるもんな」


「二階堂さんとは別に……そこまで親しいわけじゃ……」


「そうなのか?」


「はい。叔父の仕事の関係で何度か顔を合わせたことがあるくらいで……」


「へぇー」


 相槌を打ちながら地べたに腰を下ろす。見上げると幸の顏があった。癖のない黒髪から覗く藤紫の瞳が印象的に揺れている。少女と見紛うような顔立ちは、美しいと形容するに相応しかった。シャツにベストを合わせた服装も落ち着いた雰囲気に合っている。長い前髪が整った顔立ちを隠すものだから勿体無く思えた。


「じゃあ、アイツは居ても居なくても変わんない感じ?」


「まぁ、そうですね」


「そうか!」


 噴出すれば彼の雰囲気が幾許か緩む。それに合わせて笑っていると、まじまじと顔を覗き込まれた。


「どうした?」


「その目、どうなってるんですか?」


「ああ、珍しいだろ? 自前なんだぜ」


「凄いです。星が爆発したみたいですね」


「星が爆発?」


「はい! 黄色に水色で地球が爆発したみたいです!」


「フハッ! そんなこと言われたの初めてだわ!」


「本当に爆発すればいいのに……」


 闇は深そうだ。光のない目で、ぼやくものだから将来が心配になる。


「学校行ってないんだっけ?」


「……叔父に聞いたんですか?」


「四季にかな」


 彼が黙り込むことで重苦しい空気に変わる。大人の言葉に怯えているだろうことが容易に分かった。

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