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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
First Single「ラクリマ」
16/83

Track15「言わない約束」

「俺は須黒彩斗、ボーカルな」


「知ってるわ。彩斗さん、透子さん、隼さんでしょ」


「前もって皆の写真を見せてたからね」


「俺、写真撮られた覚えはないんだけど」


「盗撮写真だったわ」


「犯罪」


「わー! それは言わない約束でしょ! 彩斗も暴力はんたーい!」


 振り上げた拳に慌てる四季が俺の手首を掴む。相変わらずMOMOは鼻を鳴らしていたけれど、嫌な感じはしなかった。


「マリアでいい?」


「可愛いよね〝マリア〟って名前」


「ですよね。女の子らしくて」


「……嫌」


「え?」


「絶対、嫌。呼ぶならモモにして」


 吃驚を零し透子さんと目を合わせる。そのまま四季の様子を伺えば黙って頷いていた。


「分かった。じゃあよろしくなモモ」


「よろしくお願いしますね。モモちゃん」


「ほら、隼も挨拶」


「……よろしく」


 気だるげに欠伸を噛み殺した隼が口先だけの挨拶を告げる。まぁ、しないよりはいいだろう、とモモを見下ろせば、晴れぬ表情を携えていた。透子さんは困ったように口を開いては閉じを繰り返している。声にならない言葉が、か弱い少女に届く筈もなく俺達は暫し緘黙した。


 モモは〝名前原因か〟と思惟し、喉元に溜まった溜息を呑み込む。何か言いたげにする四季に「あとで話聞かせろよ」と合図を送った俺は口を開いた。


「んで、次はキーボードだろ? 目星は付いてんのか?」


「うん。紫藤(しどう) (ゆき)って子ね。この子も中学生なんだけど、ちょっと気難しい子でさ。まだOKを貰ってなくて」


「このバンド年齢層広すぎねぇか? ジェネレーションギャップとか大丈夫?」


「主に私が中学生とコミュニケーションを取れるかどうかって問題が出てくるわね」


「いや、透子さん俺達とあんま変わんないっすから」


「そうかしら?」


「そうです」


 神妙な面持ちで切り出した透子さんが蒼褪めている。俺がそれに言葉を返せば、僅かながら強張った表情を緩めていた。


「まぁ何はともあれココは狭いから、ミーティングルームに移動しようかー」


「そんなもんがあんのか」


「あるに決まってんじゃん。次からは招集かかったらそっちに来てねー、ちゃんと押さえとくから」


「ああ」


 レコーディングスタジオを後にした俺達は廊下を歩む。エレベーターに乗り地下から三階に移動すると扉が沢山在った。


「すげぇな」


「一番奥のがノアブル専用だから」


「ノアブル?」


「まだ言ってなかったねー、バンド名はNoir(ノアール) Brute(ブルート)。略してノアブル」


「ノアールって黒か?」


「ブルートは獣かしら?」


「黒の獣……」


「なんだか凄く中二臭いわね」


「ちゅ、中二……他にもノアールには〝正体不明〟なんて意味もあるんだよー。ま、詳しい話は中に入ってからね」


 気障にも片目を瞑った彼が扉を開ける。エスコートするかのような彼に誘われ中に入れば、楕円形のテーブルと十の椅子のみが、ど真ん中に配置されていた。簡素な出で立ちは〝如何にも〟という印象を抱かざるを得ない。ブラインドを上げると、オフィス街に相応しい景色が広がっていた。


「天気いいな」


「彩斗も適当に座って。今後の方針を話すから」


「いいのか? もう一人のメンバーいねぇぞ」


「いいの。もう少しで連れてきてくれるみたいだから」


「尚更、待ってた方がいいんじゃね?」


「大丈夫。俺が説明するより適任な人がいるから」


 疑問符を浮かべながら席に着く。俺の左隣には四季、一つ飛ばして右隣には透子さん。更に二つ飛ばしてモモ。目の前には隼がいた。

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