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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
First Single「ラクリマ」
15/83

Track14「重そうな前髪」

「ちょっと、バンド内恋愛やめてくださいね」


「おはよ、隼」


「なんで突然、下の名前で呼び捨てなんすか」


「だって芸名? 下の名前だろ?」


「まぁ、そうなるだろうけど」


「じゃあ今から慣れてた方が良くない? 俺も彩斗でいいから」


「……アヤさんで」


「了解」


「私も隼君って呼んでいいかしら?」


「どうぞ」


 不愛想に告げた彼がリュックをパイプ椅子に下ろす。やたら高い身長が羨ましく思えた。


「今日だよね」


「え?」


「MOMO」


「MOMOか。お前ちゃんと主語と述語使えよ。今、四季が出迎えに行った」


「そう」


 返答はないが、さして問題もない。眠そうに眼を擦る彼の指先は長い袖口に覆われていた。


「会議室とかじゃなくていいのかしら」


「何がですか?」


「顔合わせとかするには、ここは不向きでしょう? 三人掛けのソファにパイプ椅子はあるけど、そんなに広くないから十人も入らないうちに息苦しくなるし」


「まぁ、今の人数でちょっと余裕あるくらいですけど、そこは四季がなんとか……」


「お待たせー! MOMOが来たよー!」


「うっせぇな! 普通に入ってこれねぇのかよ!?」


 扉を開け放った四季に苦言を呈す。さすれば意に介さない彼は、腰に手を当てたまま続きを紡いだ。


「いやぁ、もう絶対皆ビックリするから! サプライズする為に俺は生きている!」


「ネタばらししたら終わりじゃね?」


「ネタばらししても絶対驚く」


「ちょっと、いつまで女の子を廊下に立たせとくつもりよ」


 幼さを孕んだ高い声が響く。何故、少女の声がするのだろう、と四季の背後に目を向けると、中学生くらいの女の子が腕を組んでいた。


 腰までの黒髪はツインテールになっており、彼女の動きに合わせて揺れている。重そうな前髪は真っ直ぐ切り揃えられ、桃色の大きな瞳を縁取る睫毛は長かった。


「え? 子供?」


「なにか文句でも?」


「いや、文句はないけど」


「そうよ、私がMOMOよ」


「なにも言ってないけど?」


「可愛くてビックリしたでしょ?」


「なにも言ってないけど?」


「皆そうなのよね。私が中三だって知ればビックリして……」


「だから何も言ってないって言ってんじゃん」


「なにコイツ!? 腹立つんだけど!?」


「指を差すな!」


 顔を赤黒くした彼女が俺を指差す。思わず叩き落とすと、四季を睨み付けていた。


「どうしても私がいいって言うから来てあげたのよ!」


「どうしてもMOMOちゃんがいいんだよー」


「いい大人が〝ちゃん〟付けするな! キモイ!」


「まぁ、この辛辣な子がMОMОこと桃枝(ももえだ) |マリアちゃんです! 因みに中三ねー」


「中三って! 受験大丈夫なのかよ!?」


「問題ないわ! 不登校だから!」


「じゃあ問題ないな」


「少しは心配しなさいよ! ダメな大人ね!」


「いや、だってここダメな大人の巣窟だしな。それこそ隼は学校どうしたんだ?」


「行ってません」


「高校生なのに出席日数大丈夫なのかよ」


「大丈夫」


「根拠のない自信って、どうしてこうも頼もしいのか。まぁ、そういうことだよ。親の許可下りてんならいいんじゃね?」


「そうね。MOMOの腕は確かだったもの」


 同意を求めるかのように透子さんに目配せする。察しが良い彼女は、すぐさま言葉を紡いでくれた。


「アンタ達おかしいんじゃない?」


「バンドやろーなんて人間は大抵どこかロックなもんなんだよ」


 そう言った四季がMOMOの頭を撫でる。気恥ずかしそうに目を逸らす様は、まだまだ年端のいかない少女だった。

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