表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
First Single「ラクリマ」
14/83

Track13「少女」

 *


「その頭どうしたの!?」


「あー、気分転換的な?」


「ビックリですよねー! 俺も今朝会った時どこのヤンキーかと!」


「殴るぞ」


「MOMOさん出迎えてきまーす」


「逃げやがった」


 右手を上げながらレコーディングスタジオから姿を消した四季を睨み付ける。そんな俺にクスクスと控えめな笑みを向けるのは、肩の力が抜けた碧井さんだった。


 彼女と出会ってから四日。俺は訓練も兼ねてレコーディングスタジオを往復する日々を過ごしていた。碧井さんと青郷は、その間レコーディングがあったらしく毎日顔を出している。すっかり俺に慣れた彼女は怯える様子もなかった。


「何笑ってんですか?」


「ごめんなさい。仲が良いなと思って」


「アイツがお調子者なんですよ」


「そうかしら。凄く仲が良いコンビに見えるわ」


「そうっすか?」


「ええ。須黒君、その髪似合うわね」


「昔はこうだったんです。黒髪だと余計目立つから」


「目のこと?」


「ああ。俺の目変でしょ?」


「そんなことないわ。万華鏡みたいで綺麗よ?」


「万華鏡って言われたのは初めてですね」


 俺は虹彩異色症という病のせいで、瞳孔の周りが円環状に異なる色彩になっていた。金色の瞳には孔雀青が差し込んでいる。見た目は綺麗なのだが、目立つか否かと言われると言わずもがな。故に俺は、地毛の黒髪を金色に染めていた。


 引き籠ってからは適当に切っていた髪も、今朝自身で整えた。それから金色に染め上げ今に至る。少しばかり清潔な印象になっただろう様相を隠すように、俺はフードを深く被った。


「隠しちゃうの?」


「落ち着かないんです。フードとコレがないと」


 黒のフードからは言うことを訊かない癖毛が覗いていることだろう。首元に掛けたヘッドフォンを軽く持ち上げ笑うと、微笑を返してくれる碧井さんがいた。


「てか須黒君って他人行儀じゃないですか? アヤとか気軽に呼んでくれていいんですよ?」


「あ、私、仲の良い人とかっていないから。上の名前で呼ぶ方がしっくりくるのよね。変かしら?」


「変ってことじゃないですけど。ライブとかしたら困るんじゃないかなってね」


「ライブ……」


「ほら碧井さんだってフルネームでは出さないでしょ? 俺も前は〝彩斗〟だったし」


「私だと〝透子〟かしら?」


「そうっすね。じゃあ俺が透子さんって呼びます?」


「え?」


「俺だけじゃアレでしょ? 俺も透子さんて呼ぶから〝彩斗〟って呼んでくださいよ」


 彼女の顔が熟れた林檎のように染まる。疑問符を浮かべていると、口元を両の掌で覆った碧井さんが、はにかんでいた。


「どうしたんすか?」


「私、今迄下の名前で呼ばれることってなかったから嬉しくて」


 これからは下の名前で呼ぼう。そう決意した俺は頬を緩めながら「なにそれ」と零した。


「じゃあ、これからは透子さんって呼びますね」


「うん、私は彩斗君でいいかな?」


「呼び捨てでもいいですよ?」


「呼び捨てはハードルが高いから!」


 慌てふためく様に「可愛い」との言葉が漏れる。その言葉に赤面した透子さんは「揶揄わないでよ」と剥れていた。歳上の女性には、おおよそ似つかわしくないかもしれない。それでもこの瞬間の透子さんは少女のようで可愛かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ