Track12「雷」
「男? 女?」
「それが分かんないんだよねー。でも男だと思うよ。肩幅あるし力強いサウンドが売りだしね。お尻の形が見えないから判別出来ないけど、足の細さ的にジェンダーレス男子ってやつじゃない?」
「若いのか?」
「年齢も公開されてないよ。でもね、この指の綺麗さは若い」
「お前は、さっきから何見てんだ。ケツとか指とか変態か」
「自然とそうなるんだよー! ギタリストの指が綺麗だと好きになる」
「マニアかよ」
「あ、でも私もそれ分かります」
「分かんのかよ!?」
「ご、ごめんなさい!」
「いや、謝んなくていいけどさ!?」
「はいはーい、じゃあお口ミッフィーね」
「え、お口ミッフィーってなんですか?」
「お口チャックってことです」
「成る程。これがジェネレーションギャップというやつですね」
この人、絶対天然だ。そんなことを思いながらも口には出さない。パソコンに視線を落とすと、灰色のパーカーを纏った彼がスティックを持ち音を鳴らしていた。試しに叩いているのだろう。サウンドが鳴り響くと同時に、動画の中の彼は雷を落とした。
「え、す、すごい」
碧井さんが感嘆を漏らすのも納得だ。彼は紛れもない天才ドラマーだった。
高速で動く繊細かつ滑らかな四肢。正確な律動はメトロノームのように狂うことを知らない。一目惚れとは恐らくこういうことを言うのだろう、と溜飲を下げざるを得なかった。
「コイツがいい」
「性格は分かんないよ?」
「いいぜ。どんな暴れ馬も乗りこなしてみせるよ」
「ウチのボーカルは強気だねぇ。二人は?」
「私もこの人がいいです!」
「俺は、どっちでも。でもMOMOには会ってみたいかも」
「りょーかい。じゃあ、交渉しますか! あ、碧井さんと青郷君は弾けそう? 良かったら、もう録りたいなーなんて」
「時間だけはありますから。〝ラクリマ〟弾けますよ」
「俺も余裕」
「じゃあ碧井さんからで」
「はい! いい歌ですよね。〝ラクリマ〟って涙のことですけど、最後には笑って進む。私、この歌詞大好きです」
「ありがとうございます。俺、コレを彩斗に歌って欲しくて頑張ったので、そう言って貰えると嬉しいです。青郷君も褒めていいんだよ!」
「まぁ、嫌いじゃないよ」
「素直でよろしい」
バンドは相性が大切だ。どんなに音の相性が良くても、擦り切れるような間柄では永く続かない。どうやら俺達の相性は悪くないようで、音楽的センスにも多大なズレはないようだった。
「彩斗は見てく?」
「見てくもなにも俺は一人じゃ帰れねぇよ。バーカ」
「あ、そうだった。じゃあお付き合い願えますか?」
「仕方ねぇから付き合ってやるよ」
「素直じゃないんだから」
「黙れ」
「いたっ!?」
鼻で笑う四季の頭を軽く叩く。笑声が響く室内は、心地良い音で溢れていた。