Track11「灰色」
「ココお前の持ち物なのか?」
「そんなわけないでしょ。事務所のって言ったじゃん」
「事務所って……お前何者なわけ?」
「大したことないよ。俺は、ただの一般人。ちょっとスカウトされただけのね」
「スカウト?」
「そ、ウチで作曲家しない? ってスカウトされたの。だから俺、彩斗がボーカルのバンドならいいよって言ったんだ」
「なんで俺?」
「ファンだって言ったじゃん」
相変わらず魔法の言葉を使う四季に溜息を吐く。さして気にする様子もない彼は、スーツのポケットに両手を突っ込むと話を続けた。
「まぁでも、彩斗一人じゃバンドになんないじゃん? だから募集をかけたわけ。それで来たのが、この二人」
目配せの先には碧井さんと青郷。成る程、と唇の裏で紡いだ俺は、不安を隠すかのようにパーカーのフードを被った。
「でも、まだ足んねぇだろ。『ラクリマ』を完成させるにはドラムとキーボードも必要だ」
「そそ! ドラムは皆からの意見が聞きたくて募集しなかったんだよねー」
「意見?」
「そ、俺が目を付けたのはコイツ。皆、動画投稿サイトとかって見たりする?」
「俺は見ねぇ」
「彩斗には聞いてないよ。碧井さんは?」
「私もあまり……動物の癒し動画なら……」
それを答える碧井さんが癒しだ。胸裏でそう呟いていれば、申し訳なさそうな表情を象る彼女が居た。
「俺は見るよ。有名どころなら大体知ってる」
「へぇ、じゃあ彩斗のことも知ってた?」
「知らね」
「だよねー、何年も前だし! じゃあ〝MOMO〟は知ってる?」
「ああ、すげぇ上手いよな。ドラムって言えばMOMOだろ」
口数が少ないのかと思っていたが、四季とは相性がいいらしい。質疑応答が出来ているあたり、社会に順応出来ていないようには見えなかった。
「そそ、そのMOMOに依頼しようかなーってね。とりま知らない二人の為に動画見せてあげるよー、気になるっしょ?」
「ああ」
パソコンを弄っていた四季が、画面を此方側に向ける。そこには灰色のパーカーを纏った人物が映っていた。パーカーのフードを深く被っている為、顔は確認出来ない。細そうには見えるも、男女の区別は出来なかった。