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「Tragedy」
物語とは祝福から始まるものだ。冒頭で綴られずとも、産声を上げた時点で人は祝福を受ける。悲劇など有り得ない。そう、有り得る筈はないのだ。人間は生を受けただけで、祝福される生物なのだから。
けれども、俺の物語は悲劇のまま幕を閉じ、悲劇のまま幕を開けた。
コレは何だろう。目の前で繰り広げられた惨劇に。生温い血潮に。けたたましい咆哮に。何を望めばいい。日常を暗転させた終焉に何を願えばいい。どう謡えば彼らの時間は巻き戻る。
どこかの魔法使いのように傷が癒せたなら良かったのに。それとも時間を巻き戻すことが出来たなら、未来を変えられたのだろうか。
物語で在れば良かった。俺も登場人物の一人だったなら、二度目の産声を上げることなど無かったのだ。これが悲劇だと気付かなくて良かったのに。
「せん、ぱい……」
息絶える後輩に手を伸ばす。未だ体温を纏った指先は深緋を纏い、道端に転がった。
「あああああああ!!」
慟哭は俺を救ってはくれない。永久に永遠に。分かっているのに、やめることは出来なかった。
——俺には歌うことしか出来なかったから。