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サイド:智の神(1)






「「「「……………………」」」」




真っ白な空間。

僕、智の神ケルビンは兄姉達と共に水鏡を覗いていた。

………水鏡に映るのは、僕達が生み出した世界。

だけど、僕らの視線はただ一点。



勇者テオドールと、僕達の末妹……魔王アイシャに視線を向けていた。



まぁ、そりゃそうですよね……。



まさか、人間達が勇者を間違える(・・・・)なんて……思いもしなかったんだから。



「ちょっと、どうするのよ‼︎勇者がアイシャの味方になっちゃったじゃない‼︎」


青い長髪が美しい魔の女神……エキドナ姉様が叫ぶ。

そうしたら、赤毛の雄々しい武の神レックス兄様が反論するように叫んだ。


「それを言うなら聖具顕現適性者を召喚する魔法で二人、召喚されてしまった方が問題だろ‼︎魔法関連は魔の女神(お前)の管轄じゃーーー」

「あの魔法を発動したのは人間よ‼︎それに、今までだってちゃんと発動してたじゃーーー」

「喧嘩はダメですよぉ。お兄様〜お姉様〜」


金色のふわふわとした髪を持つ癒の女神ピュリア姉様はふんわりと制止するけど……ぶっちゃけ、ピュリア姉様はこの状況を楽しんでますよね?

僕は溜息を吐きながら、兄様達に声をかけた。


「兄様も姉様も落ち着いて下さい。取り敢えず、状況整理をしましょう」








水鏡に映る世界は、僕達五兄妹で生み出しました。


五柱の力を合わせ、この世界と生き物を。


武の神レックスは、戦い方を与えた。


魔の女神エキドナは、魔法の力を与えた。


癒の女神ピュリアは、癒しの力を与えた。


智の神ケルビンは、知恵を与えた。


そして……愛の女神アイシャは、感情()を与えた。




そして……生み出した世界に、(ルール)を設けた。


一つ、基本的に神が干渉してはいけない。


一つ、生き物達が抱く悪意を、間引きに利用する。


一つ、生き物達の希望と絶望を作り、生き物同士の争いによる滅びを回避させる仕組みを用意する。




まぁ、僕らが干渉し過ぎると……力が凄すぎて依存されてしまいますし。


生き物が増え過ぎて飽和するのも問題で……悪意を魔物として、生き物を襲うようにすれば丁度良かった。

それに、悪行に制裁を与えるのは当然ですから、魔物が人を襲うのは当然です。


最後のは、特に大事でした。

愚かな生き物達は互いに殺し合ってしまいますから、悪の存在(共通の敵)が必要で。

でも、希望がないのも駄目だ。

正と負のバランスが釣り合って、生きることができる。



そのための仕組みが、〝勇者と魔王〟です。



必要悪たる魔王は、僕らの干渉不可の例外。

つまり、僕らが用意するモノ。

ゆえに、ただの生き物では倒すことができない。

聖具顕現適性者……つまり、勇者じゃなくてはいけない。

人間達が勇者召喚と呼んでいた魔法……正確には聖具顕現適性者を召喚する魔法で選ばれた人間モノだけが倒すことができるんです。



聖具顕現は、魔王を倒す武器を顕現させる力。

だけど、その力も僕達が干渉できる例外の一つであるがゆえに……干渉を許すための儀式を成す(聖地巡礼をする)必要がある。

まぁ、アレですよ。

一言で言えば、勇者が世界を旅をして神殿に祈祷すること(頑張ったの)聖剣ゲット(ご褒美をあげた)ってことです。



まぁ……人間達は、勇者の武器を手に入れる旅……みたいに思ってますけど、実際は勇者に魔王を倒す武器を与えるついでに呪いをかけてるような感じなんですけどね。


勇者が魔王に絆されないように。

必ず倒すと決心を揺るがせないようにするので……呪い的なモノ(勇者補正)なんて呼んでます。

勇者補正は、聖具顕現を使えるようになるとちゃんと発動するのです。

そして、仲間が増えれば増えるほど……絆が深まるほど強くなるから、勇者は仲間と絆を強くする必要がある。

仲間との絆を強める旅ついでに、聖地巡礼という儀式を行う……だいぶ効率のいい仕組みだったんですけど。



今回は今までと違う。


そう……今代の魔王は……我らが末妹アイシャなんです。



何が起きたか?

語ると凄く阿呆らしいんですけど……。

分かりやすく解説すると……アイシャは愛の女神なだけあって、父様も母様も、生み出したこの世界の生き物達も、アイシャを信仰()する者が多くて。

嫉妬したエキドナ姉様が、脳筋なレックス兄様を巻き込んで……アイシャに肉の器を与え、この世界に閉じ込めてしまったんです。


この世界は五柱で運営してきたこともあって……アイシャがいなくなったことで、色々とバグが発生してしまい……父様と母様にバレて大目玉を喰らいました。

笑って止めもしなかったピュリア姉様と違い、僕は智の神なのでアイシャを閉じ込めたら大変だって分かってたから、訴えてたんですけどね?

連帯責任ということで……アイシャを至急、女神に戻さなくては(殺さなくては)いけなくなったんです。

だけど、神様である僕らは干渉できない……。

なら、必要悪である魔王をアイシャにして、人間達に肉の器を殺してもらおうということになりました。

アイシャは神の力を失っても、その愛され体質を消すことはできません。

勇者補正によって、魔王を倒すという意思を強固にしないと……殺せないんです。

多分、魔王じゃないアイシャのままだったら、愛されるがゆえに逆に守られまくるでしょうし。



そうして、今代の魔王アイシャを倒すために勇者……聖具顕現適性者を召喚することになったのですが……。

先ほど話したように、アイシャがいなくなったことでバグが発生した所為で、聖具顕現適性者の召喚時に、二人も召喚されてしまった。


そして、バグの方を勇者だと人間達が勘違いしてしまったんです。


「えっと〜……適性者君と偽物君が一緒に旅してたから問題なかったけど〜。ケル君のところでお祈りする前に追放されちゃって、勇者君の仲間との絆がゼロになっちゃってたのに〜聖具顕現をできるようになっちゃったから、勇者補正が効かなかったのかな〜?」

「だと思います。勇者補正は仲間との絆が存在することが前提ですから」


そう……ピュリア姉様が言う通り、今回は勇者テオドールが僕の神殿で祈祷する前に追放された所為で、仲間の絆はなくなってしまった。

エキドナ姉様は激怒しながら、叫ぶ。


「あの偽物のバカ‼︎おかげで、魔王を倒すって意思を強制できなくなっちゃったし‼︎ただ聖剣取られただけになっちゃったじゃないっっ‼︎」

「容姿の補正は発動したようだが、魔王を倒すという意思強制は発動しなかったしな……」


…………あぁ、余談ですけど。

偽物君が聖具顕現で武器を出せたのは、勇者召喚された人間なら聖具顕現が使えるっていうルールの所為だと思います。

一応、偽物君も召喚された人間ですからね。

でも、聖具顕現適性者じゃないので……そこそこ強い武器を顕現(召喚)させる程度になっちゃったんでしょう。

…………まさか、定義(設定)の抜け道があったとは……今後はこんなことが起きないように注意しないと。

というか、本当なら偽物君は武器を召喚することもなかったんですから……ある意味、勇者テオドール君に感謝すべきなんですけど……。

追放とか……恩を仇で返しちゃってますよね。

閑話休題。



「………どうしますか?早くアイシャを戻さないと、父様と母様の雷が落ちますよ?」

「「「………………ひょえっ」」」


ぶるりと、兄様は身体を震わせる。

………僕は呆れたように肩を竦めた。


「だから言ったじゃないですか。アイシャをこの世界に閉じ込めたら大変ですよって。愛の女神なんだから愛されて当然。なのに、妹に嫉妬して……僕、散々止めた方がいいって訴えてたのに‼︎」

「……………何よ……」

「なんです、エキドナ姉様」

「それが分かってたんならもっと強く言いなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ‼︎」

「ぎゃぁぁぁあっ‼︎痛い痛い痛い痛い‼︎」


エキドナ姉様は八つ当たりするように僕の髪の毛を引っ張る。

このやろう、マジで痛いんですけどっっっ⁉︎

何、弟に当たってんだこの馬鹿姉‼︎


「あはは〜‼︎ケル君の髪の毛が抜けてる〜‼︎」

「禿げるぅぅぅぅぅぅうっっっ‼︎」


ハラハラと散っていく僕の緑色の髪。

………酷くないですか。

なんで、アイシャを閉じ込めることを止めてた僕の髪の毛が生贄になるんですか。

残酷過ぎる。


「や、止めてやれ‼︎エキドナ‼︎ハゲは虚しいんだぞっ⁉︎」

「チッッ‼︎」


レ、レックス兄様……‼︎

最近、短髪とは誤魔化せない髪の薄さ(……ハゲ予備軍)とか思っててごめんなさいっ……‼︎


「と、とにかく‼︎勇者じゃないと、魔王を倒せません‼︎流石に、こんな展開になるとは思ってなかったですし……魔王にしちゃえば、アイシャの愛され体質があろうと直ぐに死ぬだろうと安易な考えをした僕達の落ち度です‼︎」

「「「うぐっ」」」

「どうしますか?勇者は記憶を失くす(死なない)と、変えられませんよ?」


僕の質問に兄様達は頭を抱えてしまう。

………実は言うと……今回って勇者の資格がある人……つまり、聖具顕現の適性者がもう存在しないんですよね……。

一言で言えば、これ以上勇者を増やせない。

……………多分、勇者テオドール魔王アイシャが手を組んだから……二人ともそう簡単に死んでくれないでしょうし。



ぶっちゃけ……解決策は一つしかないんですよね。



「…………………はぁ……仕方ない」


レックス兄様は溜息を吐き、僕達を見つめる。


そして………その解決策を口にしました。





「転移者を使おう」







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