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だから、俺は……俺の我儘で、彼女を守ろう。







畑を耕して早一時間。

顔はないけど満足気な野菜達(自ら土に埋まりに行くスタイル)を見て俺は溜息を吐く。


背後にいる魔族達は、そんな野菜達を見て呟いた。


「すげぇ……あんなにリラックスした野菜を見るのは初めてだ」

「反抗期じゃない時もあるのね……」


野菜にリラックスもクソもあるか。

つーか、野菜の反抗期ってなんだよ。


「お前、何したんだ?」


モイルが質問してくるが、おれは顔を顰めてしまう。

何したって……。


「ただ耕しただけだ。ていうか、畑を耕すくらいならこの里の奴らに頼めよ」


ふるふるふるふる(拒絶っぽい反応)。


「なんでだよ」


思わず野菜にツッコミを入れた俺は悪くないはず。

はぁ……と溜息を吐くと、隣にいたアイシャがクスクスと笑った。


「どうやらテオは生命属性に適性があるらしいの」

「生命?」

「喪失魔法の一種だ。生きとし生きる者の潜在力を解放する属性、とでも言えば良いかのぅ。お野菜達は、テオの力で美味しくなれるのが嬉しいみたいじゃ」


…………え?それ、地味に凄くね?

なんか、勇者みたいな能力じゃーーーーー。


「あ。俺、勇者だったか」

「…………なんか、テオが悲しい考えをしておった気がするのぅ」

「こんだけ畑を耕してたら心は農夫だよな」

「…………あぁ……まぁ、うむ」


否定も肯定もしないのな?

まぁ、いいけどさ。



くいっ(裾を引っ張られる)


…………。


くいっ、くいっ‼︎


………………………………えーっと……。


「ピヨッ‼︎」



ブスッ‼︎



「いてぇっ‼︎反応しないと思って物理的手段に出やがったなっ⁉︎このチビひよこっっっ‼︎」


俺は踝を押さえながら、涙目で叫ぶ。

足元にいるのは黄色いひよこが一匹、二匹……六匹⁉︎

ひよこは「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨ」と鳴きながら、俺のズボンの裾を引っ張る。

うわぁぁぁ……デ〜ジャ〜ヴ〜………。


「僕らの世話もしろって言ってるぞ?」


アイシャがひよこの通訳をする。

…………というかですよ……アイシャさん……。

お前、野菜だけじゃなくて動物の声も分かるんかい……。


「…………俺は農民だから畜産はできないんだよ。諦めろ」

「ピヨッ‼︎」

「教えるから問題ないって言っておるぞ」

「だが断る‼︎」


もうこれ以上労働してたまるか‼︎

ただ挨拶に来ただけなのにーーー。


「モゥ〜」

「ヒヒーン」

「メェ〜メェ〜」

「コケコッコー‼︎」

「ピヨピヨピヨピヨ‼︎」


………………………おぅ……のぅ……。

俺の周りに集まり出す動物達。

え?野放しで飼ってんの?

ってか、めっちゃうるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎


「だぁぁぁぁぁ‼︎やりゃぁぁいいんだろぉぉぉぉぉ‼︎代わりに黙れぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」

「モゥ〜モゥ〜♪」

「ヒヒーン♪」

「メェ〜メェ〜♪」

「コケコッコー♪」

「ピヨピヨピヨピヨッ♪」


俺は真っ白い馬に咥えられ、動物達の畜舎に連れて行かれる。

…………これ……どちらにせよ、強制連行されたパターンじゃねぇか………。


「テ、テオ〜⁉︎」


アイシャは連れて行かれる俺を見てギョッとしながら、追いかけてくる。


「アイシャ〜……通訳ぅぅぅ………」



俺は若干涙目になりながら……アイシャを呼ぶのだった………。





*****





「…………………つ・か・れ・た」





地面に大の字で倒れ込む俺。


畜舎の掃除に、ブラッシング。

餌やりと、遊びだと勘違いしやがったひよこ達との超追いかけっこ。


……なんで俺、動物あいつらの世話してんのかな。

……………いや、絶対俺である必要なかったじゃん。

俺、ただの農民なんだけどな。

いや、勇者だったっけ?


「大丈夫かえ?テオ」


俺の顔を覗くようにしながらアイシャが聞いてくる。

俺は顔を顰めながら答えた。


「大丈夫じゃねぇよ。慣れないことはするもんじゃない」

「…………ふむ」


…………アイシャは俺の頭をグイッと持ち上げる。

ちょっ、待て‼︎いきなり頭動かしたら危ないかーー。


「………………うわぉ」

「頑張ったのぅ、テオ」


現状。

アイシャに膝枕されてます。

超絶ふわふわで柔らかいです。

えっ⁉︎凄いな⁉︎


「アイシャの膝、めっちゃ柔らかい」

「むぅ?そうなのかえ?自分じゃ分からないからなぁ……」

「いや、マジで凄いって。思わず真顔になるくらい」


これが男女差というヤツなのか。

女の子、凄いな⁉︎

(※普段は女性耐性がないテオドールですが、疲労のあまり普通になってます)


「気持ちいいかえ?」

「あぁ、超気持ちいい」

「うふふ〜……なら良かったのじゃ。頑張ったテオをどう労えば良いか分からなかったから……ご褒美になったかの?」


…………超ご褒美です。

あまりにも心地よくて思わず寝てしまいそうになる。

………あぁ……マジで眠く……。



「………………えっと……取り敢えず、テオドール達はなんで来たんだ?」



………………。

………………………ハッ⁉︎

モイルにそう言われて、俺とアイシャは我に返った。

そして、慌てて起き上がる。


「いや、挨拶に来ただけなのになんで色々してんだよ‼︎」

「あんまりにも色々あり過ぎて、すっかり忘れとった‼︎」

「…………おぉう……姫さんだけじゃなくて、テオドールと抜けてるタイプだったか……」


うるせぇ。




それから俺は里長だという狐の魔族のトクリ爺ちゃんに挨拶をして……牛乳や卵を分けてもらい屋敷に帰ることになった。

…………ちなみに、牛乳とかはちゃんと家畜からゲットしてました。

良かったです。










「いやぁ……ただの挨拶のつもりじゃったが、テオの追放話とか畑仕事とか、色々あったのぅ」


テケテケと森の中を歩く俺達。

アイシャは俺の隣に立ち、不安げな顔で聞いてきた。


「大丈夫かの?」

「………………何が?」

「いや、不当な理由で追放なんざされ……悲しんでおるかと思ってな」

「…………あぁ。もう、いいんだ」


いや、本当は違う。

今でも腹が立つし、もしアイツに会ったら殴りかかる自信がある。

だけどーーー。


「取り敢えず……アイツのハーレムパーティーにいた女よりもアイシャの方が美人だし。色々と思うところはあるが、まぁ……今の暮らしは悪くないと思うんだよ」


復讐してやりたい気持ちだってある。

復讐なんて虚しいだけだ、なんて割り切れないのが人間だから。

大切な人が死んでしまったら……恨むに決まっている。

でも、魔物を産み出したのは同じ人間で。

もし、復讐なんてするとしたら……俺は世界を敵に回さなきゃいけない。

そんなこと、できやしないと。

途方もないことだと分かっているから。


だから、俺は……俺の我儘で、彼女を守ろう。



魔王アイシャを倒そうとする人間への。


女神アイシャを取り戻そうとする神達への。



細やかな復讐(反抗)だ。



「………………び、美人……」


…………………おい、止めろ。

ちょっと真面目な感じだったのに、お前が無駄に頬を赤くして可愛くなってる所為でなんか締まりがないだろーに。


「うふふ〜妾、美人か〜……初めて言われたのじゃ〜」


…………………へ?


「えっ⁉︎なんで⁉︎お前、今まで見たことがないくらい美人なのにっ⁉︎」

「うわっ‼︎そ、そんなの妾が知る訳ないじゃろ‼︎でも……その、な?」


アイシャは頬を赤くしながら、俺の腕を取る。

そして、破壊力高めの上目遣いで微笑んだ。



「嬉しい♡」



……………………鼻血を出さなかった俺を、誰か褒めて下さい。


『おーーっとーー‼︎テオ選手、アイシャ様の愛されスマイルに陥落寸前かぁぁぁ‼︎』

『アイシャ様、ナイスバディですものねぇ〜。腕を抱かれたら、やわやわがふわふわで並大抵の男ならば鼻血モノのはず‼︎凄いです、テオ選手‼︎』

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎テメェら、どこから見てやがったぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」

『『最初っからですっ‼︎』』

(※今更ですが、聖剣(魔剣)は顕現していない時はテオドール(アイシャ)を介して世界を見れます)


俺は聖具顕現で聖剣を召喚し、思いっきりどこかへ投げつける。

『ぎゃぁぁあっっっ⁉︎速いぃぃぃ⁉︎』と叫びながら離れていくが……まぁ、聖剣だから大丈夫だろ。

アイシャから出てきた魔剣が慌てて回収に行ったし。

うん、よしとする。


「ぷっ」

「……………ん?」

「うっ……ふふっ……うふふっ、あはははっ‼︎」

「うわっ……急に笑い出してどうしたんだよ、アイシャ」


アイシャは楽しげに目尻を拭いながら笑う。

俺から離れて、クルクルと回りながら……にっこりと俺に笑いかけた。


「楽しいのぅ、テオ‼︎」

「…………はぁ……?楽しいかぁ?」

「楽しいぞ‼︎妾、ずぅっと寂しかったじゃよ。魔剣はおってくれたがの?でも、生きているモノじゃなかったからのぅ。魔族達とも一線は引いて接しておったのじゃ。じゃないと、魔王討伐に巻き込まれてしまっかもしれないからの。妾は独りじゃった」


俺は目を見開く。

………あぁ……それは……孤独と呼ぶに相応しすぎる。


「でも、テオが来てから……魔剣と聖剣がイチャイチャしたり。テオがお野菜の言いなりになったり。一緒にご飯を食べたり……テオといると楽しくて仕方ない‼︎」

「……………アイシャ……」

「ありがとう、テオ‼︎妾の元へ来てくれて‼︎」


…………こんなに悲しいありがとうなんて、ないだろ。

俺は彼女に近づき……その両頬をうにょんっと引っ張る。

そして……告げた。


「ばーか。感謝されるようなこと、俺はしてねぇよ。それに、楽しいことはまだまだいっぱいあんだろ。これから、忙しくなるぞ」

「………テオ…」

「楽しもうぜ、アイシャ」

「……………うん‼︎」



まぁ、何が言いたいかというと…………。



アイシャの笑顔は、とても綺麗だった。









『………中々、いいカップルなんじゃないかな?』

『そうね、ダーリン♡』





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