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…………………畜生っっっ‼︎






アイシャから魔族なる者達の存在を教えてもらい、なんだかんだと言って彼らが分けてくれる牛乳などを食べている以上……挨拶が必要だと思った俺は、魔族の隠れ里にアイシャと共に来ていた。


結論。



槍を持った魔族の皆さんに囲まれてます。



もう、驚くまい。



「止めるのじゃ、皆の衆‼︎そやつは妾と共に暮らしておる者だ‼︎」


アイシャが超絶巨乳な二本角の娘に匿われながら、叫ぶ。

それを聞いた二本角の屈強な男達やら、鳥の腕の女性やら、エラと鱗を持つ青年達やらが目を見開く。


「姫様とっっっ⁉︎」

「なんと不敬な‼︎」

「なんと羨ましい‼︎」


おい、誰か本音が出てるぞ。


「貴様っ‼︎何者だ‼︎」


彼らの瞳は、大切な者を守ろうとする瞳。

俺は両手を上げながら、告げた。



「俺の名前はテオドール。偽物勇者が女とエロいことするために、勇者パーティーから追放された今代の勇者らしい」



『……………………』


シンッ……と静まり返るその場。

思わず屈強な男……リーダーっぽい奴からツッコミが入った。


「ちょっと待て‼︎何それ、意味が分からん‼︎」

「え?分からない?じゃあちゃんと説明するな?」


俺はちょいちょいっと彼らを招いて、そこら辺にある枝を手に地面に絵を描き始めた。


「勇者召喚された際に、俺と幼馴染のアルドって奴が一緒に召喚されたんだが……向こうの方が顔が良かったから、そいつが勇者任命されたんだよ」

「勇者、顔で選ぶ?」


鳥女の疑問に俺は「勇者はイケメンが多いらしい」と答える。


「で。聖地巡礼で聖具顕現を覚えて、アイシャに出会ったから俺が勇者だって分かったんだが……聖地巡礼の最後の地で、俺は勇者アルドにパーティーメンバー(女)と閨を共にする際に邪魔だからって理由で追放された訳だ」

「それ、妾も聞いとらんのじゃが」


いつの間にか魔族に混じってアイシャも説明を聞いていた。

………というか。


「言ってなかったか?」

「言っとらん‼︎」


アイシャは怒ったように地団駄を踏んだが……次の瞬間には、泣きそうに顔を歪めていた。

そんな彼女を見て、俺はギョッとしてしまう。


「アイシャっ⁉︎」

「そんな壮絶な過去があったのじゃなぁ……よぅ頑張ったの、テオ」

「ちょっっっ‼︎」


アイシャは俺を慰めるように胸に抱き、なでなでと頭を優しく撫でる。

じんわりと伝わる温もりと、柔らかな感触。

…………………………………ヤバイ。

なんか、泣きそうなんだけど。


「……………大丈夫じゃ。妾が側にいるからの」

「…………うぐっ……」


待て待て待て。

本当にこれはヤバイ。

みっともなく、泣いてしまいそーーーー。


「ブモォォォォォォンッッッ‼︎そのような悲しい過去があったのだなぁぁぁぁあっっ‼︎」

「我ら魔族、仲間、追放などしない‼︎お前、仲間‼︎もう一人になること、ない‼︎」

「アイシャ様……なんと慈悲深い………」



よし、冷静になったぞ。



「アイシャ。ちょっと苦しい」


俺が声をかけると、やっとアイシャは胸から解放してくれる。

…………ふぅ……地味にアイシャの胸って大きいな。

冷静になると………その……女性の胸に顔を埋めるのは………。


「どうした?」

「………………なんでもない」


俺は熱い顔を無視して、ワザとらしく咳払いをしながら……魔族達に向き直った。


「改めて……俺はテオドール。少し前からアイシャの元で生活している。ぶっちゃけ農夫だ。なんだかんだと貴方達の恩恵を授かっているため、遅れながらも挨拶に来たんだ」

「うむ。オレはモイル。牛魔族だ。自警団の団長をしている」


リーダーっぽい男はモイルというらしい。

…………牛。


「……………………上手い牛乳と牛肉をいつもありがとうございます……」

「ん?あぁ……そう言って頂けて家畜達も喜ぶだろう」


モイルはケラケラと笑う。

その後、その場にいる沢山の魔族達が自己紹介をしてくれるが、ぶっちゃけ人が多過ぎて覚えられない。

そのままアイシャは魔族達から、とんでもなく愛でられながら……隠れ里へと向かった。



辿り着いた先は大きな広場。

俺が首を傾げていると……モイルが呪文を唱えた。


「うわっ」


すると空間がぐにゃりと歪み、沢山の簡易式の建物が立ち並ぶ光景に変わる。

様々な特徴を持つ子供達が楽しそうに駆け回り、主婦らしい女性達は会話をしながら子供達を見守る。

平和ってまさにこう言うんだろうなって……感じで。

…………俺は、なんだかかつての故郷を見ているようで……泣きそうになる。


「ようこそ、隠れ里へ」

「………………あぁ……」



だが、感慨深く思えていたのは、ほんの一瞬だった。



くいっ(ズボンが引っ張られる)。


「…………………」


くいくいっ(更に引っ張られる)。


「……………………………………」


スッ……(クワを差し出される)。



「…………………畜生っっっ‼︎」



俺は、俺の足元に集まり始めていた野菜達から鍬を奪い取り、彼らに従って畑へ向かって歩き出す。

くそっ……‼︎なんでここの野菜達も自己主張するんだっっっ‼︎


「アイシャ‼︎通訳‼︎」

「うむうむ。テオはお野菜に好かれとるのぅ〜。あ、土の耕しが甘いらしいぞ」

「なんで俺なんだよ‼︎ここで暮らしてる奴らに訴えろよ‼︎」

「妾の屋敷のお野菜ズに聞いたらしいぞ。テオの農業技術は素晴らしいと。お野菜ネットワークじゃと」

「何その万能な連絡網⁉︎傍迷惑だなぁっ⁉︎」






その後ーーー。


一時間ほど、野菜に拘束された俺だった。







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