暫く俺は、なんか使い物にならなかった。
という訳で、5話分一気に更新です。
ふざけてます。遊んでます。まぁ、そんなもんだ。
よろしくお願いします。
いいだろう?
……あぁ……ダメ……こんなところで……あの方が来たら……。
大丈夫だ。
あっ♡
「おいテメェら。発情するんなら俺らの姿じゃなくて違う姿で、ついでに他所でやれ」
俺はイライラしながら、聖剣と魔剣を蹴り飛ばす。
いや、子供を蹴るとかの倫理観とか……言われても、コイツらは人間ですらねぇからセーフってことで。
というか……畑仕事してる横で手伝いすらせずにイチャつかれるのは邪魔なんだよな……。
『酷いぞ、テオ様‼︎折角、ハニーと逢瀬をっ……』
「お前ら毎日、逢瀬状態だろ」
『もぅ、テオ様ったら‼︎サラッとそんなこと言っちゃうんだから‼︎』
うぜぇ……。
俺はもうコイツらを無視して、畑仕事に戻る。
…………まさか、屋敷の裏庭が畑になっているなんて思わなかった。
いや、じゃなきゃ食うもんに困るか。
「テメェら暇なら、野菜を取れよ」
『『は〜い』』
二人?は籠を手に熟した野菜をどんどん取っていく。
ピヨピヨと響く鳥の声。
爽やかな風と、適度な農作業……。
「…………とんでもなく平和だな、おい……」
「平和が一番じゃよ?」
「気配を消して背後に立つな」
「あ痛っ‼︎」
俺の背後に立ったアイシャの方を振り返る、ペチンッとその額を叩く。
彼女は涙目でブスっとした。
「酷いのぅ。そんな意地悪なテオは、お昼ご飯いらんかのぅ」
「くれよ。お前の作るモンはなんでも、美味いんだから」
「…………そー言ってもらえるのは、嬉しいぞ」
アイシャは手に持っていた籠から、果実水を取り出し俺に差し出す。
相変わらず、凄い冷えてるな……。
あ、今日の果実水はグレープフルーツだ。
「美味い」
「そうか。今日はサンドウィッチじゃよ」
畑の隅にある大きな木の木陰で、四人集まりお昼ご飯を食べる。
……なんか、無駄に聖剣達が俺らに似てる所為で家族感がヤバいんだが……。
『はい、あ〜ん♡』
『あ〜ん♡』
訂正。
家族感はねぇわ。
こいつらイチャついてるし。
「慣れのは恐ろしいのぅ。妾、今じゃこやつらのイチャつきを当然と思い始めとるわ」
「…………あぁ、うん。なんか分かる」
俺はアイシャの言葉に頷く。
魔王屋敷で生活を始めて早一週間ーー。
働かざる者食うべからず精神のため、俺は農作業を手伝っていた。
まぁ、元々農民だからな。
こういうのは得意だった。
まず驚いたのは、畑が畑じゃなかったこと。
いや、何言ってんだよ?って思うだろ?
嘘じゃねぇんだ。
畑ではある。畑ではあるはずなんだ。
だが………。
何故か野菜達が自らの意思で動いている。
ついでに俺に対して……もっと土を耕せとか、影響足りないとか無言の圧力(会話が通じない所為で、その動きの真似をする)をかけてくる。
……………………何故?
「おや、お野菜よ。どうしたんじゃ?」
ふさふさふさ(アイシャの側に来た野菜の葉っぱが震える)。
「ふむふむ。キャロットケーキになりたいのじゃな。良かろう。今日はお主をデザートにしよう」
ふさふさふさふさ‼︎(超震えている)
「…………………………」
なんで会話が成り立つんだよ。
いや、そもそもの話……野菜って、自分がどんな料理になりたいって自己主張するもんだったっけ?
常識とは。
『テオ様が険しい顔になっているが、アイシャ様は愛の女神だよ?愛の女神が育てた野菜が愛ゆえに動き出すのは、普通では?』
『ほら、テオ様は勇者様で……アイシャ様の愛され体質に耐性があるから、アイシャ様の愛され体質をまだ理解しきってないのよ』
『あぁ、成る程』
………アイシャが野菜とお喋りするのは普通なのか、デフォルトなのか、常識なのか。
俺は聖剣達の会話を聞き、頭を抱える。
………ちなみに、家の掃除道具も……いや、家自体が以下略。
もう語るまい。
「テオよ。スイカ達がもっと藁をちゃんとひけと」
「……………あぁ、はい」
サンドウィッチを食べて、スイカエリアに。
あぁ、本当に少し藁の下の土が見えてる。
……………でも……。
「………なんでスイカの隣にメロン……」
そう、そうだ。
なんでスイカの隣にメロンがなってるんだ?
というか、これ、スイカとメロンが同じ苗から出てきてないか?
メロンは棚みたいなのに吊るして栽培する気がするんだが……何故、スイカと同じようになっているんだ?
というか、みんな時期が違う野菜ばかりだし。
分からない。
意味が分からない………。
「…………アイシャ……」
藁を直した俺は彼女の元に戻り、聞いたら負けだと思っていた質問をする。
「…………この超絶おかしい野菜の栽培状況の説明を求む」
「うむ?妾も分からん」
「え?」
「なんか適当に野菜が食べたいのぅと思ったら、気づいたらこうなったのだ」
「……………………」
……………まさかの自然栽培っっっ‼︎
『分かっただろ?これがアイシャ様の愛され体質さ』
「愛され体質以上の問題だと思うけどな⁉︎」
『うふふ〜。流石アイシャ様〜』
聖剣と魔剣は、アイシャのことを凄い凄いと言っているがもうこれはそれ以前の問題だ。
生態系を覆す愛され体質ってなんだよ。
意味分からねぇよ‼︎
…………って……もしかして……。
「まさか……牛乳とか、卵とかも……」
動いて彼女の元へ……?
しかし、その疑問は否定された。
「いや、この近くに牛やら鳥やら魚の魔族がおってな。彼らが分けてくれておるのじゃ。毎朝取りに行っておるのじゃよ。というか、お主に会った時も取りに行ってたじゃないか」
「あぁ……そうだったな……」
良かった……牛乳とか卵が動き出した瞬間には、俺はもう何を信じればいいか分からなくなっていたと思う。
…………というか、少し気になる単語が。
「…………魔族……?」
「……………あ」
アイシャは失敗したと言わんばかりな顔で固まる。
しかし……覚悟を決めたように頷くと……ゆっくりと口を開いた。
「魔族は……魔物の中で悪意だけでなく、善意も吸収した者達のことじゃ。魔人、とも言われておる。人の姿をしておるが、見た目が微妙に人間と違うからのぅ。隠れ棲んでおるのじゃよ」
「なっ⁉︎」
俺はその新事実に息を飲む。
アイシャは……少し言いにくそうな顔になった。
「……………魔族は、分類で言えば確かに魔物じゃ。一部の魔族は人間に同胞を攻撃され、復讐などをしている者もおると聞く。だが、妾と交流している者達は自分達の生活を守ることだけを唯一としておる。彼らは人を襲わぬ。人を襲うことで負の連鎖を産むことを理解しておるからの。それでも……お主が受け入れられるかは、また別の話じゃろう?」
…………あぁ……アイシャは俺の村が魔物に滅ぼされたから、魔物の一種である彼らを受け入れられないと思っているのか。
だけど、さ。
「…………別に、受け入れないことはない」
「…………うむ?」
「悪意だけじゃなくて、善意も持っているなら……それは人間と同じだ。だから、一方的な判断はしない。人間だって、悪い奴と良い奴がいるんだからな」
俺の言葉にアイシャは目を見開く。
………アイシャに出会って、俺は知ったんだ。
自分が信じていたものが全てではないと。
魔物は人間の悪意の象徴。
魔王だって女神で。
魔王討伐は兄弟喧嘩の一環だった。
だから、俺は今までの常識だけでは決めつけない。
自分が見たものを信じる。
だからーーー。
「いつも美味しい食材をもらってるから、後で挨拶だな」
俺は笑いながら、そう告げる。
アイシャは更に目を大きく見開いて……そして………。
「………うふふっ」
柔らかく、笑った。
「っっっ⁉︎」
ふわりと、花が咲くような笑顔だった。
キラキラと、輝くような笑顔だった。
俺は、その美しさに息を飲み言葉を失う。
「妾は無闇な殺生を好まぬ。ゆえに、テオが怨みのあまり魔族達にも手を出そうとしたならば……どうしようかと思ったのじゃ。あぁ、よかった」
嬉しそうに笑うアイシャはとても可愛くて……とても綺麗で。
……………ヤバい、俺の頭がオーバーフローしそうだ。
顔が尋常じゃないくらいに熱い。
『な?アイシャ様の愛されスマイルは凄いだろう?』
『ダーリン。テオ様、聞いてないわ』
『あらら』
なんか近くで聖剣達が言ってた気がするが、今の俺はそれどころじゃなくて。
結論。
暫く俺は、なんか使い物にならなかった。