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ごめん、誰か説明してくれ。


2話目は説明会‼︎







俺、テオドールはかつて勇者アルドのパーティーの斥候だった。



しかし、彼はパーティーメンバーの女達との生活に俺が邪魔になり、俺を追放した。



かつて、俺達の村を滅ぼした魔王を倒そうと共に誓ったのに……そんなことをするなんて。

いっときは怨んだけれど、俺の気持ちは変わらなかった。



例え、一人になっても魔王を倒す。



魔王を倒す武器を得るため旅……聖具顕現という力が使えるようになるための巡礼の旅を俺も共にしていたからなのか……俺も聖具を召喚できるようになっていたのは、唯一の救いだろう。

戦って、魔物を殺して、命を削りながら。



やっと辿り着いた北の大地。



最果ての地ーーー魔王城。



俺は、白銀の剣を片手に魔王城に突入したーー。



…………………………結論。



「…………………………」


魔王城の扉を開けると、そこは至って程々の大きさの屋敷(庭園付き)がドーンっと建ってました。



いや、なんでだよ。



俺はちょっと頭を抱えて、扉から出る。

…………うん、やっぱ魔王城だよな。

黒いし、蔦が凄いし、いかにも魔王城って外見だ。

だが、中に入ると……やっぱり屋敷の外門だ。

ピヨピヨピヨって鳥が鳴いてるし……庭園の花は綺麗だし。

って、魔王城の扉がこの屋敷の外門になってるのか?


…………なんだ、これ。


「んむ?誰じゃ?」


そうやってボーッと突っ立っていたら、背後から黒髪黒目の美少女がヒョイっと現れた。

黒いレースワンピースを着て、林檎とか牛乳とかが入った籠を持って。


「……………………」


…………え?なんか、サラッと流しかけたけど……凄い美少女だな?

髪の毛サラサラでキューティクルが凄いし。

可愛いし、肌はとんでもなく白いし。

でも、唇は桜色で柔らかそーーー………って、俺、何を考えかけた?

………………こんな考え、アルド(あの屑)と同じみたいでイラッとする………。


「うわぉ、しっぶい顔してんのぅ。取り敢えず、林檎食うかの?」

「……………いや、誰だよ。あんた」

「妾かえ?お主達的に言えば魔王かのぅ?」

「っっっ‼︎」


俺は手にしていた剣で、その少女を殺そうとする。

しかし、その首を刎ねる前に、漆黒の魔法陣が彼女を守った。


「死ね‼︎魔王‼︎」

「嫌じゃ‼︎妾は帰る気なんざ更々ない‼︎誰があのクソ兄姉の元に帰ってやるか‼︎」

「………………………ん?」


俺はなんか引っかかりを覚えて彼女から距離を取る。

剣の構えを解かず、俺はギロリと彼女を睨んだ。


「…………どういうことだ」

「?そのまんまの意味じゃろ。妾がこの世界で死んだら、帰るだけじゃ」

「………………は?」

「……………もしや、兄様や姉様から聞いておらんのか?」

「………………………は?」

「…………なんとまぁ……」


………おい、なんだその駄目な子供を見るような目は。

彼女は呆れたような顔で肩を竦めると、テケテケと屋敷に向かって歩き始めた。

……………無防備すぎる姿。

きっと、殺そうと思えば簡単に殺せる。

だけど……なんか彼女の言葉が引っかかって仕方ない。

俺が困惑して動けないでいると……先を進んでいた彼女はくるりと振り返る。

そして、なんでついて来ないんだと言わんばかりの顔で手招きした。


「取り敢えず、妾、朝ご飯食べたいのじゃ。お主、朝ご飯は?」

「…………………まだ」

「なら、一緒に食べよう。毒とか心配なら、作るところを見てても良いぞ」

「………………………ちょっと、何が起きてるか分からないんだが……?」

「そこも含めて説明してやる」


えぇ………。

なんだこの無駄に脱力する空気。

俺が想像してた魔王と全然違うんだが。

もっと、こう……「ぐははははは、よくぞ来たな勇者よ‼︎今こそ、世界の命運を分ける時‼︎」みたいなノリとか「世界を憎まずにいられるか‼︎」とかあるかと思ってたんだが。


「来んのおっそいのぅ」

「えぇぇぇぇぇぇぇ…………」


でも、自称魔王な美少女は普通に俺の手を取って歩き出すし。

鳥は相変わらずピヨピヨ鳴いてるし。



なんかもう……俺は考えるのを放棄したくなったーーー。




*****





中に入る前に、浄化魔法をかけられて薄汚れていた俺の身体は綺麗にされる。

………………身体を綺麗にするのって、川に直接入るぐらいだったから……寒い思いをしなくて済んで、よかった……。



屋敷の中は至って普通だった。

いや、元々農民だからこれが普通なのかは分からないけど。

でも、想像してたよりシンプルだった。


所々に淡い色合いの花が飾られていて寂しくはないし。

というか、綺麗な方だ。

魔王は俺の手を引いて、そのまま台所へ向かう。

水回りやコンロ、竃など全てが揃っている台所には、棚に綺麗に調味料が並んでいたり……うん、やっぱり普通。

魔王は、壁に掛けてあったピンクのエプロンを手に取ると、籠をシンクに置いてから腕まくりをした。


「お主、食えない物はあるかのぅ?」

「いや……ないけど」

「なら、シンプルにオムレツにするか」


彼女は「ふんふん、ふふふふふ〜んふん♪」なんてすっごい音痴な鼻歌を歌いながら踊るように料理をしている。

……………どうしよう。

俺の頭がオーバーヒートしそうなんだが。

魔王って世界を滅ぼそうとしてるんじゃないのか?

いや、でも……神託では魔王を倒せとしか言われてないんだっけ?

………………あれ?これ、もしかしなくても世界を滅ぼすのが理由じゃないパターンか?


「そーいや名前を教えとらんかったの。妾はアイシャ。お主は?」

「…………テオドール」

「そうか。よろしくな、テオ」


…………なんか、久しぶりに名前を呼ばれた気がする。

いやいやいや、そうじゃなくて。


「魔王は、世界を滅ぼそうとしてるんじゃないのか?」

「しとらんわ、ボケ」

「ボケッ⁉︎」

「する訳ないじゃろ〜。する必要なんてないしな。どうして妾がそんなことをせねばならん」


酷く面倒そうな声に嘘はなさそうだ。

だけど、それじゃあどうして……。


「どうして、魔物が人々を襲うんだ」

「あぁん?そんなの当たり前じゃろ」

「は?」

「神がそう定めたからじゃ」

「……………………は?」


魔王……アイシャはお皿にオムレツを乗せると、次のオムレツを作り始める。

俺は、今の言葉に困惑していた。


「神が、定めた?」

「そう。魔物は魔王の支配下とか勘違いしてる人間が多いがの。ぶっちゃけ、魔王という名は分かりやすく必要悪を示すために言っとるだけだし。魔物と妾は完全に無関係じゃぞ?」

「なっ⁉︎」


俺はその言葉に動揺を隠せない。

だって、俺達はずっと魔物は魔王の配下だと教えられてきたんだ。

だから、魔物の攻撃を止めるために魔王を殺そうと……勇者に希望を託した。

なのに、魔王と魔物は無関係だって?


「魔物とは、人の心に救う欲が具現化したモノ。金が欲しい、支配したい、人を傷つけたい……そう言った悪い感情が集まったり、悪行をする者の悪意などが魔物となる。魔物が人を襲うのは、自業自得じゃ。悪いことをしたら、怒られるじゃろ?それと同じ。行き過ぎた欲望を持つから、お仕置きされてるようなものじゃ」

「…………ちょっと待ってくれよ。じゃあ、俺の村が滅ぼされたのは………」

「…………人間達の中で、悪いことをしておった者の所為じゃよ。例え、お主がいた村の者が悪いことをしておらんでも……人間は報いを受けなくてはならんようになっておる。もっと分かりやすく言えば、悪徳政治を行う王侯貴族と、苦しむ民草……って感じかの」


……………じゃあ、魔物は俺達人間の負の感情、悪行が原因だって言うのか?

だから、人間が悪いことをしたら人間を襲う?

……………嘘、だろ……。


「だって……じゃあ、なんで……魔王を倒せって……」


アイシャは二個目のオムレツをお皿に乗せると、小さなテーブルに置く。

そして、くるりと俺の方を振り返った。


「魔王という存在を用意しているのは、必要悪とするためじゃ」

「………………必要、悪?」

「魔王は人々の敵を指し示す。だが、魔王が消えたら……人間の共通悪が消えたら、次は人間同士の戦いの始まりだろうな。人間は欲深いモノだから」


呆れたような顔をする彼女は、そう言って竃の横に置いてあった布を被った籠を手に取りテーブルの中央に置く。

そして、先ほど持っていた籠から牛乳を取り、俺に手渡した。


「分からない、とは言わせぬよ。人は優れたものがあれば欲しくなる。強い者がいれば恐くなり、倒そうとする。そして……邪魔だと思えば排する」

「っっっ‼︎」

「でも、共通の敵がいる間は……協力し合おうとするから、束の間の平穏は保たれる。だから、魔王が存在するのじゃ」


…………あぁ、どうしよう。

こいつの言いたいことが、分かってしまった。

確かに、魔王が存在するウチは同じ人間同士で争っている暇はない。

人間は、魔物は魔王の配下だと思っているのだから、魔物が襲ってくる=魔王の攻撃と考えている。

魔物の猛攻を止めるためには、魔王と倒さなきゃいけない。

人類の敵を、倒さなきゃいけないと……協力し合う。


「加えて、神達は妾を早く殺してしまいたいのじゃよ」

「…………………?」

「妾が死ぬと、この肉体という器がなくなり……神に戻るからな」

「……………………………………は?」


アイシャは席に座り、俺に視線で向かいの席に座ることを促す。

俺はちょっと困惑しながら席に座った。


「お主もお食べ。頂きます」

「…………………頂きます」


アイシャは俺の言葉に満足そうに頷き、食事を始める。

俺も遅れながら……ゆっくりと、オムレツにフォークを刺して、口に運んだ。

……………シンプルな味付けだけど、懐かしい感じがする。


「妾はかつて、女神だった」

「ぶふっ⁉︎」

「ばっちぃの、お前」


ゴホゴホと噎せながら、俺は牛乳を慌てて飲む。

口元を拭いつつ、涙目でアイシャを見た。


「め、女神……?」

「この世界を作ったのは四大神とされておるだろう?たが、正確には五大神じゃ」

「はぁっ⁉︎」

「武の神、魔の女神、癒の女神、智の神……そこに末妹の妾がおったのじゃよ。妾が司るのは愛。妾、こう見えて愛され系女神じゃったのじゃぞ?」


きゃるんっ☆という効果音が似合いそうな笑顔を見せるアイシャに、俺の心がどんどん冷めていく気がする。

どうやら、顔に出ていたようで……彼女はワザとらしく咳払いをした。


「まぁ、とにかく‼︎末娘じゃし、とう様、かあ様にも甘やかされたからの‼︎兄姉達が嫉妬して、妾を自分達が作ったこの世界に閉じ込めたのじゃ」

「………………えぇ……」

「でも、とう様達にバレてしまったらしくての?肉の器を壊して、妾を戻そうとしたんじゃが……勝手にこの世界に閉じ込めておいて、自分達の都合が悪くなったからって戻そうとするとか横暴じゃろ?だから、妾は思いっきり反抗中なのじゃ」

「…………………つまり……神託で魔王を倒せとか言われるのは……」

「共通悪という反面、妾を魔王にせねば倒せぬと思ったのじゃろうな。妾、愛され体質だから……普通のままだと簡単に死なぬし。兄姉達は神ゆえにこの世界に物理的に干渉できぬから、妾が神に戻るには人間にどうにかしてもらうしかないからのぅ」


………………………俺は額を押さえて黙り込む。

マジか……マジかぁ……。

いや、この話は本当かは分からないけど……アイシャが嘘を言ってる様子はない。

というか、もしこれが嘘だったら呑気にオムレツなんか作らないよな……。

いや、こうして油断させる可能性も……。


『取り敢えず、そろそろ出ていいですか?』

「………………え?」


そんな声が聞こえたかと思うと、俺の右手からさっき消した聖具……白銀の剣が出現する。

それに呼応するかのように、アイシャの右手からは漆黒の剣が出現して。

二振りの剣がとんでもなく光ったと思ったら、ポンッと軽快な音を立てて叫んだ。


『魔剣‼︎』

『聖剣‼︎』



…………………………俺とアイシャによく似た、子供姿で。



「はぁっ⁉︎」

『会いたかったよ、僕の魔剣ハニー‼︎』

『私もよ、愛しい聖剣ダーリン‼︎』


二人はそのままチュチュと何度もキスを繰り返す。

いやいやいやいやいやいや、ちょっと待て‼︎


「いやっ、何これ⁉︎」


思わず俺がアイシャに叫ぶと、彼女も固まっていた。


「………………………なんじゃ、これ……」


お前も分かんないパターンかよ‼︎


『あぁ、いつもは互いに殺しあうだけだが、こうして触れ合うのも幸せだね』

『えぇ。でも、私は貴方と斬り合うのも大好きよ?』

『勿論、僕もだよ。愛しのハニー』

『もぅ、ダーリンったら‼︎』


キャキャウフフ♡な感じの二人?二人でいいのか?は、そのままベタァ……と抱きつく。






ごめん、誰か説明してくれ。






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