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これに逆らえる人はいないと思います、うん。






(あぁ……嫌な気分だ)



俺は、ウマオに乗って空を飛びながら歯を噛む。

強力な力は持たないが、膨大な知識を持つ森の精(ドライアド)

彼に竜の基本知識を教わった俺は、気分が悪くて仕方なかった。


「……………大丈夫ですか、テオ様」

「あぁ、この上なく冷静だよ」


嘘だ。

冷静でなんていられない。

だって、知ってしまったんだ。


竜達あいつらは……。


「テオ様、あれをご覧下さい」

「……………え?」


ウマオに声をかけられて、俺は目を見開く。



この北の地のほとんどは森だ。

魔王城と平原、山以外は全て森だった。



だが……その森の半分以上が、焼け落ちていた。



その光景はまるで、森林火災が起きた後のようで。

………………酷い炎だったのだろう。

今だに、煙が……残っている。



……確かに、森が死にかけていた。




「………これが遊び………」


こんなの、酷過ぎる。

これじゃあ、元々住んでいた動物達の住む場所さえなくなってしまう。

これは、ドライアドだけの話ではないだろうなぁ……あぁ、だから助けを求めてきたのか。

俺は顔から表情を消して、ウマオに声をかけた。


「ウマオ、行けるか?」

「勿論でございます」


…………こんな魔境(北の大地)で暮らしてるからか、ウマオは怯えることなく答える。

きっと、普通の馬なら本能的な恐怖で動けなくなるだろけど……ウマオはそんなコトにはならなさそうだな。


「手筈通りに。山頂付近で、俺を落としてくれ(・・・・・・)


ウマオは鋭く尖った山へ全速力で飛翔する。

その速さは、そんじょそこらの馬車とは比べ物にならないほどに速い。

だけど、相手は竜。



空は……奴らの世界でもある。



『我らが縄張りに侵入する不届き者めっっっ‼︎死ねっっっ‼︎』



空気が震えるほどの怒号。

眼下を見れば、そこには巨大な漆黒の竜がこちらに口を向けていて。

何か攻撃を放とうとする瞬間だった。

俺はウマオに声をかける。


「ウマオ」

「ご武運を」


俺はウマオの背から飛び降りて、山頂へと急降下する。

それと同時に放たれたのは光線レイ

………こういう時って息吹ブレスじゃないの?と若干思いつつ……俺は聖剣を顕現させる。



そして……剣を盾代わりに黒い光線レイを反射させた。



『ーーーーーーーーーえ?』


竜が衝撃を受けたように口をあんぐりと開けて(まぁ、元々開いてたけど)……光線レイが止まり、反射された攻撃が竜に当たる。

ドーンッッッ‼︎という爆発音と共に竜と聖剣が叫んだのはほぼ同時だった。


『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ⁉︎⁉︎』

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ⁉︎熱い、熱い、熱い、熱い‼︎待って⁉︎どゆこと⁉︎こんな扱い、初めてなんですけどっっっ⁉︎』


俺は地面に転がりながら着地。

……………結構高さあったんだが、死ななかったな。


『テオ様っっっ⁉︎何してんのっっっ⁉︎』

「竜の攻撃を聖剣で反射しただけだ」

『鏡じゃないんですけどっっっ⁉︎』


聖剣は泣き声をあげていたが、取り敢えず無視スルー

俺はプスプスと焦げ目がついた焼け竜……努めて笑顔になるように気をつけながら、声をかけた。


「初めまして、だな。ちょっと生え変えていらなくなった鱗貰うついでにお説教に来たんだ」

『………お、お前はいきなり我に攻撃しといて最初の一言がそれかっっっ‼︎何者だっっっ‼︎』

「生憎と俺は攻撃してない。あんたの攻撃を反射しただけなんだよ。あぁ……名乗ってなかったな。俺の名はテオドール。魔王アイシャのところで働くただの農夫だ」

『ただの農夫に我の混沌光線(カオス・レイ)を反射されて堪るかっっっ‼︎』


ふぅん……ってことは、こいつが混沌竜カオスドラゴンか?

俺はにっこりと笑って、地面を指差す。



「まずテメェからだ。座れ(・・)



『ピィッ⁉︎』



混沌竜カオスドラゴンは俺の威圧に負けて、地面に伏せるように座る。

…………………ん?ドライアドに聞いてた限りだと、話が通じない脳筋だって……。

まぁ、いいか。


「テメェらのガキが、無闇に命を奪ってるのは知ってるのか?」

『…………なんのことだ……』

「近くの森のことだ。お前らのガキの遊び場になってんだろ」

『それがどうした』


ドライアドに聞いた話だと、こいつの子竜三匹の遊び場がドライアドの森になってしまっており……遊びで沢山の木が燃やされ、木に宿るドライアド達も死に絶えていた。

生命属性が使える俺は、分かってしまった。

あの森が元の姿に戻るには……途方も無い時間が必要なことを。

そして……それが奇跡に近いことを。



「ドライアド達が死んだ。森に暮らす生き物達も住処を追われた。遊びに巻き込まれ死んだ動物だっているだろう。何故、そんなことをする?何故、遊びで命を散らすことを良しとする?何故、それを子供達に教えてやらない?お前達は……他の生き物を殺さずとも生きていけるんだろう?」



そう……ドライアドに聞いた竜という存在。

巨大な力を持ち、知性を持ち、永き時を生きるがゆえにその有り様は多種多様。

だが、それでも……竜というのは、他の命を食らう必要はない。

彼らはこの世界に漂う魔力さえあれば、生きることができる。

だから、本当に……あの森が死にかけているのは、遊びでやられたんだ。

ただの遊びで、死ぬモノがいるんだ。


『…………そんなの、決まっておろう』

「……………」

『この世は弱肉強食。弱き者が死ぬのは道理よ』


確かに、それは間違っちゃいねぇんだろうけどさ……。

でも………俺は思うんだよ。



強い奴は、弱い奴を守り導くことも……大事なんじゃないかってさ。



…………………あぁ……そうか。

俺がこんなにも気分が悪かった理由が、分かった。

重ねていたんだ。

竜を魔物に、ドライアドを滅んでいった俺達の村に。

理不尽に消えていく姿を、重ねていたんだ。


あぁ、嫌だ。



また、俺達と同じようなことが繰り返されるなんて……許せねぇ。



なら、そうなる前に終わらせてしまおう。


俺には、その力があるーーー。



「なら、テメェがここで消えるのも道理だよな」



『げっ⁉︎テオ様、何しーーーヤバイヤバイ、ヤバイ‼︎これは(・・・)ーーーーっっっ‼︎』


聖剣が何かを言っていたが……俺はそれを無視して、混沌竜カオスドラゴンの首を刎ねようとする。

しかし、天空から放たれた青黒い光線レイがそれを邪魔した。


「チッ‼︎」


俺は膂力に物を言わせ、その場から一気に距離を取る。

空を見上げると……そこには、渦巻く青黒い鱗を持つ竜がいた。


『アビス‼︎』

『もう、何をしているの。貴方』


バサバサと混沌竜カオスドラゴンの側に降り立った竜は、ギロリとこちらを睨みつける。

肌が粟立つような殺意。

だが、俺もそれを返すような殺意を放った。


わたしの(・・・・)旦那様・・・に何してるの、矮小な人間』

「……………お前らの流儀に従ってやってるだけだ」

『ふぅん?なら、本気でいきましょうか』


ピリピリとした空気が流れる。

先に動いたのは、俺だーーーーー。





「両方、止まれ」




ビクッ‼︎


その一言で、身体が動かなくなる。

それは俺だけでなく竜側も同じようで。

俺たちの中間ぐらいの空間がぐにゃりと歪む。



カツンッ……‼︎



そこから現れたのは、場に不釣り合いな少女。



いつものシンプルなワンピースではなく……。

黒と真紅のドレスを着て、どこか妖艶な笑みを浮かべる……魔王アイシャ。



彼女は緑色の皮膚の……明らかに人間じゃない人型の頭を引きずりながら、その場にソレを放り投げた。


「テオドール、こちらにおいで?」

「………う……ぁ……」


その声は酷く甘く響いて、俺は言われた通りに動いてしまう。

彼女に近づいた俺は……そのままアイシャを見つめた。


「………干渉系魔法じゃの。許せよ、テオドール」


アイシャはそう言うと、ゆっくりと顔を近づけて……キスをする。

…………………うわぁ……柔らか……。

って‼︎


「んぐぅっ⁉︎」


冷静になった俺は、我に返って目を見開く。

いやいやいや、待って‼︎

何これ⁉︎

どゆことっっっ⁉︎

なんで俺はアイシャとキスしてんのっっっ⁉︎

動揺した俺を無視して、アイシャは唇を食むと……ゆっくりと離れていく。

至近距離で視線が重なり……ついでに、触れていた唇に視線がいった。



待って、マジで頭がオーバーヒート。



「…………解けたか」

「キス、した。ファースト、キス。え?マジで?柔らか。ってか、エッロ」

「テオドール」

「っっっ⁉︎」


色々と動揺してた俺だが、名前を呼ばれただけで固まってしまう。

……………というか……。



アイシャさんの瞳孔が開き切ってました。



「妾、怒っているのじゃ」

「………………え?」

「お主が簡単に洗脳にかかったことも。竜どもが妾のお気に入り(テオドール)を殺そうとしたことも。ドライアドが小賢しい陰謀を謀ったことも。全部、全部、ぜーんぶ……怒っているのじゃよ」

「………ひょぇっ……」


身体が勝手に震え出す。

これは、アレだ。

怒らせちゃいけないタイプの人だ。

アイシャは俺だけでなく……竜、緑色の人もどきにも視線を向けて……スッと、地面を指差した。



「とにかく、全員正座しろ」



『「はいっっっ‼︎」』





これに逆らえる人はいないと思います、うん。









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