仕方ねぇじゃん、知らないんだから。
今日と明日、1話ずつ更新します。
よろしくお願いします。
王都に遊びに行ってから早三日ーーー。
俺は畑に水を撒きながら、考えていた。
「どうすっかなぁ……」
あの日から俺の頭の中には、自分で金を稼ぐことしかない。
今の俺は、アイシャの屋敷で農夫のように働いているが……ぶっちゃけ、居候させてもらっている身なのだから、これで給金を貰えないし。
となると、他に金を稼ぐ方法を見つけなくちゃいけないんだよなぁ……。
一番簡単なのは……冒険者として依頼を受けること。
だけど、テオドール捕縛運動(?)が起きてる以上、冒険者ギルドは色々とヤバそうだし……。
「………となると、素材売却か……」
素材売却ってのは、その名の通りに魔物を狩ってその爪や牙を売ることを指し示す。
冒険者ギルドを介さず直接商人と取引をしても大丈夫で、旅の途中で路銀が尽きそうだった時とかもよくやったんだよなぁ……。
…………うーん……そーすると、良さそうな魔物がどこにいるかが問題だな……。
「…………はぁ……」
「どうされましたか、テオ様」
「あ、馬……ぁ?」
悩んでいた俺に声をかけてきたのは、翼をバッサバッサ羽ばたかせてきた白馬。
…………え?なんか、空から降りてくると無駄に神々しいな……?
「馬とは失礼な。確かにわたしは馬ですが、カエサリオン・マルゴダガル・トントリオンⅦ世という立派な名前が……」
「待て。ちょーーーっと、待て‼︎色々とツッコミを入れたいが、なんだそのカエ………なんちゃら(ちょっとよく分からなかった)は‼︎」
「カエサリオン・マルゴダガル・トントリオンⅦ世……それがわたしの名前です。代々、我が血族はその名を継いできたのです」
バサァァァァア‼︎
翼を広げなんか前脚を上げて、なんか絵画のようなポーズをとるカエ…………。
……………呼びづらっっ‼︎
え、無理。覚えらんねぇわ。
俺は眉間を押さえながら、馬に聞く。
「………お前……雄か?」
「立派な雄でございます」
「なら、俺は今度から馬の雄……略してウマオって呼ぶから」
「何故ですかっっっ⁉︎」
ガビーーーーンッ‼︎って感じで、オーバーリアクションを取りながら後ずさる馬。
俺はスンッて顔になりながら答えた。
「カエなんちゃらは呼びづらいんだよ……それに……ほら、あだ名をつけた方が親しそうだろ?」
カエ………、ウマオはそう言われてピシャーンッ‼︎という効果音が似合いそうな顔(ぶっちゃけ雰囲気?)をする。
そして、こくっと頷いた。
「ならば、わたしは親しみを込めてそのあだ名で呼ばれることを誇りに思いましょう」
………………ウマオが単純で助かったわ……。
「で……話が戻りますが、お悩みですか?」
俺は頭を切り替えて、金を稼ぐ手段として素材売却を考えていること。
良い素材となる魔物がどこかにいないと考えていたことを話す。
すると、馬は首を傾げて答えた。
「あの……失礼ながら申し上げますが……」
「あぁ」
「この地は最果ての地。他の場所にいると完全に面倒になると判断した魔物の上位種……魔獣が沢山いるかと思いますが……それらの素材では駄目なのでしょうか?」
「…………………魔獣……?」
俺は首を傾げる。
魔物は人間の悪意の塊。
魔族は人間の悪意だけでなく、善意も吸収した……人の姿と似ていて、異なる者達。
だが……魔獣は初めて聞く言葉だ。
「魔物の中で、高い知能を有し、言語を理解する存在です。善意を吸収したのではなく、魔物でありながら様々な経験をし、学び、成長した……魔物の上位種ともいえるでしょう」
「…………そんなのがいるのか……」
「えぇ。彼らには知能がありますゆえ、最果ての地以外にいると冒険者に狙われることが分かっています。ですから、雑魚の対応をしなくていいように……この地にいるモノも多いのです。この地に訪れるのは勇者パーティーぐらいですから」
「…………お前、よく知ってんな……?」
「我がカエサリオン・マルゴダガル・トントリオンの血に脈々と受け継がれた知識でございます」
…………え?
馬にそんな超機能あんの?
初耳なんだけど?
馬への認識を改めなきゃいけない感じなのか?
俺は困惑しつつも……無理やり話を進める。
「えっ……と。なら、その魔獣を狩れば……」
「ですが、魔獣は大変強いですので狩るなどは止めた方が良いかと。魔獣同士の戦闘では、地形が変わります」
「………………なんだとっ…⁉︎」
「ですから落ちてる素材を使用した方がいいと思われます」
………おぉう…そんな感じなのかぁ……。
でも、俺、この地に辿り着いてから魔王城に一直線できたから魔獣の住んでる場所知らねぇんだけど……。
くいくいっ。
「ん?」
ふといつもの調子で服の裾を引っ張られ、足元を見る。
そこにいるのはいつも通り(もういつも通りとか思うようになっちゃってんじゃん……)の野菜(手足付き大根)。
また季節感の謎なヤツだけど……今日はいつもと違った。
…………………………………地面に文字を書いていた。
〈悩んでおるようだな。我らが植物ネットワークで得た情報を与えてやろうぞ〉
「………………………………」
クッッソ偉そうなんだけど…………。
っていうか、野菜ネットワークじゃなかったけ?
植物ネットワークってレベルアップしてね?
………………って、ん?なんか違和感……?
大根はどっかから入手してきた枝でサラサラと何かを書いていく。
俺とウマオは「ん?」と思いながら……それを見た。
〈これが最果ての地、北の大陸の地図だ〉
「え?マジで?」
そこに書かれていたのは、若干歪んだ菱形に近い絵。
その菱形の中に数カ所、バツ印が付いていて。
俺は大根に質問した。
「このバツ印は?」
〈魔獣のいる所だな。植物ネットワークでこの大陸の植物全てから情報を募ったのだ〉
「………………………マジかぁ……」
……………とんでもねぇ能力だな……。
〈魔王城がこの北の大地の最奥地である。右手の山には混沌竜と深淵竜の一家がおる。その手前の森はドライアドの森。左側の火山にはフェニックス、麓の森に皇帝大狼の一族、魔王城手前の平原にはベヒーモスがおる。ちなみに、北の大陸をぐるぐるとリヴァイアサンを筆頭とする海の魔獣達が回っているらしい〉
「めっちゃ詳しいな⁉︎」
〈植物ネットワークの力だ〉
いや、植物ネットワークマジですげぇな⁉︎
というか、ここに来るまでに通ったあの平原……地形が変わる系の魔獣が住んでたのかよ‼︎
遭遇しなくて良かったっっっ‼︎
〈簡単に素材をゲットするならば……ドラゴンのところが良かろう。あやつらは鱗が生え変わりやすいからな。地面にバラバラ落ちているはずだ〉
「なるほどねぇ。で?」
俺は大根に視線を向ける。
いや、大根に視線を向けるとかおかしいかもしれないけど……まぁ、とにかく。
大根を介している奴に問うた。
「俺に情報を与えた理由は何だ?」
大根は動きを止める。
だが、まだ中の奴はそこにいる。
「分かってねぇと思ってんの?お前、野菜じゃねぇだろ」
〈……………………何故、分かった?〉
「さぁ?なんとなく?」
いや……まぁ、それはは嘘だけど。
なんか……生命属性を自覚したからなのか……俺は生命力みたいなのを感じられるようになった。
まぁ、ちゃんと注視すればだけど。
個体差はあれど、それは種族ごとに同じ色をしていて……野菜は総じて茶色系統の色なんだけど、目の前にいる大根の色は鮮やかな緑。
さっきの違和感はこれだったんだな。
それも、こんないつもと違う行動してたら……何かが入ってるとしか思えないよな?
俺が大根に違うモノが宿ってると確信していると理解したからか……サラサラと地面に字を書いた。
〈ふむ。ただの馬鹿ではなかったらしいな、真の勇者テオドール〉
「馬鹿って失礼だな⁉︎ってか、一つ訂正」
〈ん?〉
「俺はただのテオドール。ぶっちゃけ農夫だよ」
俺の言葉に面を食らったのか、大根の動きが止まる。
そして、ぷるぷる震えながら続きを書いた。
〈くくくっ、お前がそう言うならそれで構わん。情報を与えた理由だったな。あの馬鹿竜に、子供の教育をちゃんとしろと文句を言ってもらいたかったからだ〉
「は?」
〈言ったろう。混沌竜と深淵竜の一家だと。あやつらの子は力加減が下手でな。無残に我が一族が殺されておるのだ。だが、どうやら強さが正義である竜には、言葉による会話が通じん。力を示さねばならぬが……我らはあんな脳筋な竜に勝てるほど強くない。知恵比べや素質を見抜く力ならば勝てるんだがな。ゆえに、お前に代わりにジバいてもらおうかと〉
「いやいやいや。魔獣って地形を変える系なんだろ⁉︎たかが人間が勝てるかよ‼︎」
〈勝てるさ。お前は勇者であり、魔王……いや、愛の女神の寵愛を受ける者だ。特殊効果が付かないはずないだろう?〉
「えっ⁉︎」
俺は目を見開く。
どうして……アイシャのことを?
〈植物はどこにでもあるのだ。我らほど情報戦に長けた種族は、この大陸にはおらんよ〉
「……………………そういうこと……」
〈そうさ。ゆえに、お前が我らの願いを叶えてくれた暁には………我ら〝ドライアド〟がお前の味方になろう〉
「…………………味方、ねぇ」
俺は考える。
味方、味方ねぇ……あいつらに裏切られたから、あんまり味方とか増えても困るんだけど……。
情報がとんでもなく大事だってことは、元農民の俺でも分かる。
かつての旅でも、なんの情報もなしで行動したら碌なことにならなかった。
敵や環境の情報を集めて、作戦練って、それで行動する。
〝情報戦を制する者は戦を制する〟って言うぐらい大事だって分かってるだけど……。
〈ちなみに、この世界をフォローできるくらいの情報は集められる〉
「よし、叶えてやる」
〈即決ができるのは、素晴らしい才能だな〉
世界中から情報が集められるなら、偽物勇者の動向も丸わかりだろ。
俺は大根に、ニヤリと笑った。
「ちなみに……ドラゴンの情報もくれるんだろうな?」
〈あぁ、勿論。あぁ、ちなみに……シバくというのは冗談だ。少しばかりのお説教で構わん。戯れで命を散すことがなくなればな……〉
その声にはかなりの疲労感が伺えた。
なら、直ぐにでも行動するかな。
…………と、その前に。
俺は大根に、質問した。
「ドライアドってなんの魔獣?」
ズルッ⁉︎
そうしたら、俺の質問にウマオと大根が、勢いよくズッコケる。
仕方ねぇじゃん、知らないんだから。