サイド:智の神(2)
サイド:智の神は説明会が多いです。
まぁ、よろしくお願いします。
転移者。
それは異なる世界の住人のことを示す。
僕はそれを聞いて頭を抱えた。
「兄様。失礼ですが、転移者は均衡を破壊する者です。できれば、止めて頂きたい」
「勇者は基本、一人しか選抜できない。だが、今代の勇者はアイシャの味方。それどころか魔王としての作用が……勇者にどう効くかも分からないんだぞ?」
僕は思わず押し黙ってしまいます。
確かに……僕らの世界の魔王っていうのは、色んな世界線やら創作物やら、物語の概念を参考に作り出しました。
つまり、魔王には一人一人にその固体にあった特殊能力……魔王能力を有しているモノと定義してしまっているのです。
ですが、まぁ……今までの魔王はあくまでも僕らが用意した人形のようなもの。
歴代の魔王達はそのチート能力を使ってきませんでした。
だが、今代の魔王は人形ではない。
元女神な魔王様なのです。
………アイシャの魔王能力がどんなモノで、どんな効果があるのか。
人の世に限定的にしか干渉できない僕達には、知りようがありません(愛され体質はあくまでも、体質なので魔王能力ではない)。
その力が勇者にどんな効果をもたらすか。
………兄様の懸念も、分かる気もしますが。
ですが‼︎
ですがです‼︎
「均衡を破壊する者なのが厳しいんですよ………‼︎」
異世界転移。
誰でもそんな簡単に転移ができる訳ではなく……元いた世界で魂を世界に固定していた肉体が死亡しており、かつ異世界転移・転生の適性がないと、異世界転移や転生はできません。
魂の強度が強くなくては、異なる世界へ移動することはできない。
まぁ、そりゃそうです。
世界は他の世界と混ざらないように防御壁機構のようなモノ、結界みたいなモノを持っているのですから。
それを超えられるほど強くなきゃ、転移なんてできやしないでしょう。
加えて、異なる世界に生きる者達はそれぞれの世界ごとに魂の存在性やら性質のようなモノが違います。
まぁ、要するに……異世界に転移する時、特別な力をゲットすることが多いアレが起きます。
アレは、魔法の使えない世界にいたけど違う世界に来たら、その世界基準に適応して魔法とかが使えるようになったぜ‼︎ってことなんです。
多分、この世界の人間が違う世界に転移したら世界によっては魔法が使えなくなったりするんじゃないんですかね?
まぁ、異世界転移してチート能力ゲットなんてよくある話なので、説明する必要はないと思うかもしれませんが……僕らの世界での適応による覚醒って結構、転移者本人の概念・知識に依存するんですよ……。
つまり、異世界転移・転生の知識がなかったら、普通の一般市民程度の力。
異世界転移・転生の知識ありで、俺TUEEEE‼︎の知識がある人は異常なほどの力に覚醒しちゃったりするんです。
当たるも八卦、当たらぬも八卦。
転移者の力は、ミジンコレベルから破壊神レベルまで多種多様。
あまりにもリスキー……危険すぎる。
それに、その力を使って世界を変えちゃう奴も少なからず。
こちらでは、転移できる魂を選べる訳じゃありませんし……下手したら、この世界が滅亡とか、ありえなくもない。
ゆえに異世界転移・転生者を、均衡を破壊する者と呼ぶことは少なくありません。
そんな懸念があるから、僕は素直に頷けないんです。
「忘れたのですか?兄様。忘年会で先輩神様が転移者を使ったら、世界が滅びかけて大変だったとか言ってたじゃないですか‼︎」
「うぐっ‼︎」
「でも、転移者を使えば勇者問題は解決でしょう?この世界における勇者は一人しか任命できないけど、部外者はセーフだって決まりだし‼︎」
エキドナ姉様がビシッと指さしますが……世界の危機になるかもしれないリスクを負ってまで転移者を使いたいんですか……?
せっかく、ここまで頑張って育てたのに……。
「でも〜。もうアイシャを倒せる可能性があるのは、転移者達ぐらいだよねぇ?この世界の人じゃ、勇者以外はぜーったい、アイシャを倒せないもの」
ピュリア姉様はクスクスと笑いながら言う。
そして……。
「ってか、おとー様達が怒る方が嫌じゃない?」
「「動けなくなれっ、ケルっっっ‼︎」」
「ぎゃあっっっ⁉︎」
反対するのが分かっているのか、レックス兄様が拳で、エキドナ姉様が電撃の魔法で僕を物理的に伸す。
………畜生、この脳筋と魔法馬鹿……知識者でモヤシでしかない僕がこんな奴らに勝てるか……。
「ケルが伸びてる間に開始しよう」
「分かったわ、適性がある魂を探す」
一応神様なので、意識は失ってませんが、身体が麻痺って動けません。
エキドナ姉様が魔法で異なる世界の魂を探し……レックス兄様が召喚する。
いきなり、違う世界に送ってしまうのはコンプライアンス的に問題だと思うので。
異世界転移・転生者は一度、神様からの直接説明を義務としています。
………でも、一度呼んでしまえばもう転移は確定したようなもの。
僕は絶句しながら……ピュリア姉様はそれを楽しそうな笑顔でそれ見つめていました。
「楽しいわねぇ、ケル君♪」
ピュリア姉様……。
…………あんた、自分が面白い方がいいっていう腹黒い笑顔が隠せてないです。
「………癒の女神じゃない……絶対、邪の女神とかですって……」
「何か言ったぁ?ド突くぞ、コラァ」
(ゴロツキっっっ⁉︎)
笑顔なのに、黒いという器用なことをする姉様。
見た目ゆるふわなのに、酷い……酷過ぎる……。
「よし、見つけたわ‼︎」
「召喚する‼︎」
レックス兄様が凄まじい勢いで魔力を練り、エキドナ姉様が見つけた魂を引っ張り込む。
凄まじいほどの光。
何もない空間、全てを照らすような光。
それが消え去った後……そこには、四人の男女が立ち尽くしていました。
茶色の、爽やか系の青年。
黒髪ロングの、真面目そうな少女。
亜麻色のボブヘアーの、オドオドとした少女。
そして……ボサボサの黒髪に眼鏡をかけた、地味な青年。
全員が黒い制服(学ランとセーラー服)を着ていて。
彼らが異なる世界の学生、と呼ばれる年代の子達だと僕は理解しました。
レックス兄様は額の拭いながら、威厳ある風格を醸し出す。
そして、武の神として相応しい威厳ある声でーーー。
「初めまして、だ。異なる世界のもーーー」
「キタキタキタキタキタキタキタキターーーーーーーッッッ‼︎異世界転移キタァァァァァア‼︎」
「「「っっっ⁉︎」」」
兄様の挨拶を遮り、地味な青年が大声で叫ぶ。
そして、愉悦に滲んだ笑みで口元を歪めながら……他の三人を無視して、質問しました。
「なぁ、俺らは何をすればいい⁉︎魔王を倒すのか⁉︎それなら、強い力を寄越せよ‼︎」
先ほども言いましたが、ここに呼んだ時点でもう転移は確定したようなモノ。
ですが、兄様と姉様方。
………………………これ、失敗な気がしますヨ。