ギルド登録とCランカー
「すまなかったな嬢ちゃん。久しぶりの客だったもんだからつい、な」
「はあ、」
ガハハっと笑って謝るライカの父親。
「おっと、まだ自己紹介してなかったな。ライカの父の、トルク=ジツツで、こっちは母のアルテラ=ジツツだ。よろしくな」
「アイロア=テスラーです。こっちは俺の幼馴染のミーシャ=ケセランって言います」
「少しの間よろしくお願いします」
「おいおい、少しなんて言うなよ。悲しくなるだろう?ただでさえ客が少ないんだから」
「えーと…」
深刻な現実問題を唐突に話してきたトルクに困惑するミーシャ。
「もう、父さん!家計問題を他人に話すのはやめようって言ったじゃん!」
「家計問題…」
ミーシャが絶句する。そしてその空気を、
「あの、そろそろ部屋に連れて行って暮れません?」
アイロアの発言が破った。
「ああ、じゃあそろそろ部屋に案内するか。といってもすぐそこの2つの部屋なんだがな。どっちがどっちかは自分らで選んでくれや。これ鍵な」
そう言ってトルクが鍵を放り投げてくる。そしてそれをアイロアが――取り損ねた。
「おいおい…それはダサくないか?」
「…放っておいてください」
アイロアとミーシャがそれぞれの部屋に荷物を置き、ミーシャはアイロアの部屋に行ってこれからの予定のことを話し始めた。
「さて、これからどうしようか」
「ちょっと待ってね。『防音結界』これで音漏れしないわ。」
「ああ、まあ聞かれると困るしね」
何せこの2人は囚われている魔王軍幹部を解放しようとしているのだ。そんじょそこらの人に聞かれてはたまったものではない。
とその時、ドアのノックと共にライカが入ってきた。
「ルームサービスだよ〜」
と言ってお茶とお菓子を持ってきてくれた。
「ありがとう、ライカ」
それをミーシャが受け取るとライカから質問が入った。
「ねえねえ、2人って冒険者なの?」
「え?」
「だって宿を探してたってことは旅人でしょ?ここに来る旅人は魔王国に近いこともあって冒険者、それも相当強い人達だからね。ギルドに所属してるエリート達だよ」
アイロアとミーシャはこの言葉を聞き、ギルドとやらに登録することを決めた。
「いや、そんなに強くもないし、そもそもギルドにも入っていないよ。でも、これから入ろうとしてたけどね」
そう言ってアイロアはミーシャを促し、ギルドへと向かった。
間もなくして、ギルドが見えてきた。入ってみると、ライカの言ったとおり強そうな人達が勢揃いしていた。なるべく気にせずに通っていると、2人は3人組の男性に絡まれた。
「おい、坊っちゃん。お前、こんなところにカノジョ連れてデートか?それともこの国に来るくらい強いんなら、ギルドカード見せな」
3人のうちの1人にそう言われると、アイロアは
「あー、えっと今から登録なのでギルドカードはまだ持ってません☆ごめんちょ!」
煽ることに決めた。
「てめえ、ふざけてんじゃねぇぞ!」
「そうだ!この御方が誰だか知らねえのか!」
先程声をかけた1人を除く2人からそう言われると、
「知らないね。知られたければ、もっと腕を上げなされ。それとも財力でも使うかい?中年男性諸君?」
アイロアはまだ煽っていた。ミーシャがアワアワ言いながら止めようとした時にはもう遅く、
「言ってくれるなてめえ。ああ?そこまで言うならボッコボコにしてやんよ。ギルドに入りたければ俺達を倒して行けよ?」
そう言って表へと2人を促す3人。アイロアは小声で
「ミーシャ、この機会に人間の強さを知っておこう」
と伝えた。ミーシャは無言でうなずく。そして外にあったバトルフィールドと呼ばれる広場に行くと、審判用のアーティファクトが作動した。
[これより、チーム『大森林』vsチーム『クソガキ共』の試合を開始します。なお、この試合は双方どちらかのチームの者全員が降参する、または気絶、死亡するまで見届けることとします。]
アイロア達がゆっくり来る途中でチーム名が決めてしまったらしい。
「おい今、『大森林』って言ったぞ」
「うわ、マジじゃん」
「え?相手は2人!?しかも片方は女の子。大丈夫か…?」
どうやらこの男性ら3人はそこそこ有名なチームらしい。だが、アイロアとミーシャは全く恐れなかった。なんて言ったってこの2人は魔王サラサレサのお墨付きなのだから。
そして、アイロアがミーシャに
「スキルとユニークスキルは使うなよ?救出作戦の時バレるかも知れないから。」
と言うのと、
[バトル、スタート!]
と勝負開始の合図は同時だった。
「「「行くぜぇ!『身体強化』!」」」
びっくりするぐらいにハモった身体強化を施した3人はそれぞれの武器を構えた。剣、槍、斧だった。
「じゃ、援護射撃よろしく」
「任せて」
「『光斬』!」
先攻にアイロアがジジイの剣を遣って光魔法を放つ。
「ぐっ…!」
「ぐほっ!」
「うごっ!」
ジジイの剣を大振りして攻撃したため、3人全員に当たった。
「おい、光斬ってあんなに攻撃範囲広かったっけ?」
「いや、そんなわけない」
「あの子、強いわね」
ここで観戦している人達からコメントが入る。どうやら人にとっては異常な強さだったらしい。アイロアはそのことに「まじか…」と小声でつぶやき、いかにも魔力きれそうですよと言わんばかりに息をした。
「はっは!初撃にあんなに飛ばしやがったよ!」
「さすが初心者サマだな!」
「今度は俺達の番だな」
3人が立ち上がり、攻撃を仕掛ける。
「魔法攻撃ってのは、こうやって節約するもんなんだぜ!直進電撃!」
と、電気魔法を放ってくる。
「嘘つけ!十分強いだろうが!」
「一般人の全力ぐらいだね。流石、大森林だ」
観戦している人達が次々と褒め称える。しかし当のアイロアはと言うと、
「…え?魔力障壁」
何事もなかったかのように防いだ。
「うお!?防いだ!?」
「何あいつ、新人のくせにやるな!」
観客は今度はアイロアを褒め称える。
「どうしよう、ミーシャ…人間、弱すぎる…」
「………………そうね」
そうしている間に男達は
「ハッハッハ!ばかめ!俺達に詠唱時間を与えちまったな!いつもは俺が詠唱時間を稼いで、最後に魔法で終わらせる。そういうやり方だったけど、余裕ぶっこいたお前らにそんな仕事はいらなかったな!さあ、ぶっ飛ばせよ!サーレス!」
サーレスと呼ばれた男は渾身の一撃を繰り出した。
「焔十字!」
それはかつて魔王が2人を助け出したときに使った魔法だった。それを思い出して思わず笑いそうになったミーシャはそれを堪え、落ち着いて対処する。
「水風波!」
ミーシャの水と風の混合魔法によって消された炎をみて3人は
「…は?」
「え、え?」
「嘘だろ…」
と絶句し、観客は
「おお!あの大森林の焔十字を消したぞ!」
「へえ、あの女の子もすごいな!」
と感心する。その当の2人は
「え?うそ…」
「ってなるよなぁ…」
とある意味1番驚いていた。もはや最初に言った援護射撃も何もない。すると、大森林とやらの男性らが口を揃えて降参してきたので、アーティファクトも試合の勝敗を告げ、電源が落ちた。
☆ ☆
「ねえ、君達。僕達の『ロック探索隊』に入らない?入会金なんかいらないよ。」
「それよりも君たちは私達の『魔獣撲滅会』に入りなよ。」
「いや、それよりも本気で魔王国にある魔王城を目指している俺達のチーム『森羅万象』に入るべきだ!」
『大森林』と戦った後、たくさんのチームが2人を迎えようと必死に勧誘したが、ミーシャとアイロアは全て断って歩いた。やっとのことでギルドの受付についた2人は名前を告げ、ギルドカードを作ってもらった。ギルドカードの所属チーム欄に何も書いてないとまた勧誘が面倒くさそうだったので、アイロアとミーシャは2人だけのチームを作り、それぞれ入った。
ギルドの受付の人が言うには、個人でそれぞれランクがあり、1番下がFで、それはAまで続き、その次に最高のSとなるらしい。大体ランクC以上になると有名になり、大森林のメンバーは全員Cだったため、2人はCから始めることを許可された。
ちなみに、2人のチーム名は『ジジイとタコヤキ』にしたのだった。
大体月一で頑張ります