眠りと目覚め
はじめての作品です。つまらなかったらすみません。
―――恐怖。それは本来、弱者にのみ抱くことが許される感情。弱者とは人間も例外ではない。だが我々悪魔は決して抱くことのない感情。そう教えられてきた。父の話によるとそれはいくら幼かろうが同じことらしい。
しかし現在、「俺」こと「アイロア=テスラー」は恐怖の感情を抱いている。自分も悪魔の一人だというのに。隣にいる幼馴染の女の子、「ミーシャ=ケセラン」の震えが先程から止まらない。きっと彼女も同じく、恐怖の感情を抱いているのだろう。それもそのはず、現在アイロア達悪魔が暮らしている「魔王国サクレム」に勇者と呼ばれている人間率いる軍隊が進行してきているのだ。なぜアイロア達がこのような状況に置かれているかを説明すると、時は約2時間前に遡る。
◇ ◇
アイロアは朝の御飯を食べ終えると、すぐさま支度し、「行ってきまーす!」と自分でも驚くほど元気な声と共に家を出た。そして隣の家の前で立っている、キレイな銀髪の少女の姿を見つけると、走り寄って言った。
「おはよう、ミーシャ」
「おはよう、アイロア。昨日はよく眠れた?」
「へへっ、今日が楽しみすぎて全然眠れてないぜ」
「…大丈夫なの?」
「うん。平気だよ」
と、そんな他愛のない話をしながら2人はある目的地へ向かった。
その目的地とは近くにある、「ヨミロデウスの森」と呼ばれた森だ。この森は、今や魔王軍の幹部に成り下がった「ヨミロデウス」という神話にも出てくる悪魔龍が住み着いていたことが由来となっている。
今日、2人は初めてお互いの両親から2人だけで森へ行く許可を得たのだ。初めてのことに胸が高鳴る2人は早速森へ入っていき、その神秘的な光景に目を奪われた。その光景を楽しんだ2人は、その後は散歩を楽しんだ。しばらくすると2人は空腹を感じ始めた為、昼食を食べ始めた。そしてミーシャが最後のサンドイッチを手に取ろうとしたとき、警報音とともに大きな爆発が起きた。慌てた2人はすぐさま近くにあった茂みの中へと避難した。それと同時に野太い声が響いた。
「俺の名は『サラサレサ=サクレム』!周りからは魔王と呼ばれている存在だ。よく聞け人間共!そちらが剣を抜き、詠唱を唱え始め、槍や銃、弓を構えるのならこちらも容赦しないぞ!」
その直後、「ワァァァァァアアアア!!!」という大声とともにたくさんの悪魔が進撃して行った。家へ避難しようとした2人は、人間の兵士が何人かアイロア達の住む村へと進んでいるのを見て、怖気づいてしまった為、その場に留まることにした。
しかしその判断は甘かったのか、2時間もすると3人の人間に見つかってしまい、手痛い攻撃を受けた。ちょうどそこに居合わせた悪魔の戦士が2人を逃してくれた為、逃げることはできたが、隠れる場所はどこにもなく、ただただ縮こまっていた。
◇ ◇
現在怯えている2人の前に「見つけたぞ!さっきの悪魔!」という声と共に先程見つかった3人の人間の兵士が来た。
(もうダメだ…)
アイロアがそう諦め、兵士の1人が剣を振り上げたとき、少し前に聞いた野太い声が届いた。
「『炎柱!』」
その声の直後、
「ギャァァァ」
「グワァァァ」
「アツイィィィィ」
とその名の通り三者三様の阿鼻叫喚をあげながら燃え尽きた。
「大丈夫か?」
と、魔王ことサラサレサは2人に問いかける。
一瞬、黙っていた2人だったが、緊張が解けたのか、アイロアが勇気を振り絞った、しかし震えた声で答えた。
「…だ、大丈夫…です。ありがとうございました。」
その感謝の言葉に対し、サラサレサは優しく応える。
「おう。ところでお前らはアイロアってやつとミーシャってやつか?」
突然の問いに2人は驚きながらも首を縦に振った。するとサラサレサは
「そうか、お前達がそうだったか。」
と言いながら、ニンマリとした。
その受け答えの意味がわからなかった2人だが、今は重要ではないと判断したのか、思いきってミーシャがサラサレサに問いた。
「あの、この戦いは勝てないのでしょうか…?私達は…どうなってしまうんですか?」
「…」
サラサレサは一瞬の沈黙のあと嘘偽りのない回答を述べた。
「勝てないことはない。むしろ俺達の戦力で負けるわけがない。だが、この戦いには俺達負けねばならない。理由は…すまん、ここでは言えない。」
2人は意味がわからないといった表情だったが、この戦いは負けるということはわかった。そしてサラサレサの言葉は続いた。
「俺達は…いや、魔王軍の幹部、俺が四天王と呼び頼りにしている奴ら、俺の側近、名前は「ソフィティア=フランセスカ」っていうんだけどな。そして最後に俺は、この戦いに負けた後、死ぬのではなく氷漬けにされる。それも、半永久的に。そこで、だ。お前達には俺達を助けてもらいたい。『焔十字!』お前達にはその力がある。だが、その力が目覚めるのはすごく先になる。それまで安全に眠っていてほしい。」
途中で人間の兵士が来たので一掃したが、サラサレサの話はまだ止まる気配はない。
「200年だ。力が目覚めるのは200年。その間の安全については俺と俺達の助っ人を信じてくれとしか言いようがない。頼む!俺達の未来のためにここはっ…」
「いいですよ」
サラサレサの話が終わる前にアイロアが冷静に答えた。200年とは、人間にとっては冗談のように長いが、悪魔の平均寿命は2000年程。長くて5000年生きるかどうかといったところなのだ。
サラサレサが予想外の返答に対し、呆然としてると、アイロアは続けた。
「いいですよ。今、僕とミーシャが助かるのなら。安全についても、魔王様の言うことです。信じますよ。」
サラサレサは一瞬、信じられないといった表情をしたあと、もう一度確認というように、再び質問した。
「本当にいいのか?ミーシャもか?」
ミーシャも今までほぼ何も言わなかったが、考えはアイロアと同じだったらしく、
「私も構いません」
と、凛とした表情で答えた。すると、もうサラサレサは何も言わず
「お前達の決意はわかった。安全面はすごく自信があるし、心身ともに成長もするようにしておこう」
そう言い終わると、2人の足下に魔法陣が光り始めた。そして2人は耐え難い眠気に襲われ、すぐに眠りについた。2人は最後にサラサレサの言葉を聞いたような気がした。
(200年後、しっかり助けてくれよ?悪魔の勇者サマ。)
――200年後。
2人が目を開けると、そこは洞窟のような場所だった。起き上がってみると、何か違和感があったが、2人はすぐに気がついた。サラサレサの言ったとおり、体が大きくなっているのだ。アイロアの身長が175cm〜180cm、ミーシャの身長が155cm〜160cmにまで成長していた。2人はお互い目を合わせた。そして一応確かめることにし、先に行動したのはミーシャの方だった。
「…アイロア?」
「ああ、俺がアイロアだ。お前はミーシャか?」
「うん。私はミーシャ」
お互いがお互いを確認すると、無事だったことを祝うように抱擁をした。
その時、光が入ってくる方から聞き覚えのない声がした。
「あの、人前でイチャつくことをやめたほうがいいです。今回私の存在に気づかなかったことは許しますから以後、気をつけるようにしてください。」
2人はハッとなって飛ぶようにお互い離れてから、声の主を確認した。
そこには見覚えのない、青髪の少女がいた。
名前を聞こうとしていたアイロアだったが、その前に青髪の少女は自己紹介を始めた。
そして、その自己紹介は2人をとても驚かせた。
「はじめまして。私は魔王様の側近を担っております、ソフィティア=フランセスカ。以後、お見知りおきを。」
始めたきっかけは趣味と暇潰しという不純な動機ですが、投げ出そうとは思わないので何卒よろしくお願いします。