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VRゲームでも身体は動かしたくない。  作者: 姫野 佑
第3章 ファイサル
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第3章12幕 転移<transmission>

 「みんな大丈夫?」

 最初の合流地点に戻りそう声を掛けます。

 「ハリリンのおかげでみんな無事だよ」

 そう答えたエルマに〔最速〕のことを告げます。

 「〔最速〕と少し話したよ。あの人が居ればAGI型は潰せるね」

 「助かったー」

 「〔最速〕……? 知らない、わ」

 愛猫姫は知らないようですね。

 「めちゃめちゃ強いプレイヤーだよ」

 要点だけ説明しておきます。

 「どうするの? ハリリンもデスペナになっちゃたし」

 「そうなんだけど、何もしないわけにいかないし」

 作戦等を管理していたハリリンが居ないとなると、私達が頭を捻るしかなくなります。

 過激にならないほうがいいでしょうか?

 そこであることを思い出してチャットを送ります。

 

 『ステイシー』

 『はいはいー?』

 『ハリリンがデスペナった』

 『なるほどー』

 『どうすればいい?』

 『なんで僕に聞くのかなー? まぁいいけどー。僕は結界の準備で忙しいからそっちに行けないけどー、意見だけならできるからー』

 『助かるよ』

 ステイシーは被害を最小限に留めるために結界を作る役目を与えられていたようですね。

 『とりあえずは『ファイサル』を消滅させるんだとしたら少し待ってほしいー。まだ結界の設置が終わらないー。2時間は欲しいー』

 『わかった。それまでは残党狩りしてる』

 『わかってると思うけど一応ねー。チェリーは絶対にデスペナにならないでー』

 『そん時はステイシーが代わりにやってくれるでしょ?』

 『まー、気を付けてー』

 『そっちもね』

 

 そういうことで方針が決まったのでみんなに伝えます。

 「……ということだから」

 「わかった」

 「わかった、わ」

 「わかった!」

 エルマをラビと愛猫姫のガードに就けて、再び坂を下ります。

 先ほどの戦闘が起こった場所を通り過ぎた先にも戦闘痕があり、ここで〔最速〕と何者かの戦闘があったように見えます。

 都市の正面へとつながる交易路のような大きい道は、防衛に人員を裂いてくると考えたハリリンが横道を通ることを提案していたので、そのまま横道を進んでいます。

 核ミサイルのような戦力の<最強>であれば正面突破でもよかったんですけどね。


 〔最速〕の後を追うように、進んでいると、大通りの方から大きな戦闘音が聞こえてきます。

 「チェリー。【天罰神】だね」

 「そうなの?」

 私は彼のことを微塵も知らないので、同意ができませんでした。

 「≪範囲延長≫のスキルをガン詰みしているみたいだしたぶんそう」

 「何はともあれ、正面で【天罰神】が暴れてくれるのは好都合だね」

 これは戦い方の違いなのですが、千人を相手に単騎で戦う場合、大きく考えて2通りの戦術があります。

 一対一を千回繰り返す方法。

 千人を一撃で葬る方法。

 この二つに集約されます。

 いまの私のスタイルが後者で、【暗殺者】だった時は前者ですね。

 正面突破を行うなら圧倒的に後者が向いているのは<Imperial Of Egg>プレイヤーならわかると思います。

 

 私達は大通りから聞こえてくる戦闘音に隠れるように、横道を進みます。

 しばらく進むと、断続的な戦闘音も聞こえ始めたので、〔最速〕に追いついたようですね。

 「む! 早いな。ここは拙者に任せ先に征け」

 「はい。お願いします」

 私達に危害が加わらないように、敵をうまく誘導し、道を作ってくれました。

 その道を駆け抜け、さらに進みます。

 

 「あれ? 〔最速〕じゃないんだ?」

 そう立ちふさがる相手が声を出します。

 思ったこと言っていいですか?

 これて戦力の暫時投入じゃないですか。

 無駄でしかないですよね。一か所に纏めておけばいいのに。おっと、返事しなきゃ。

 「〔最速〕じゃなくてごめんなさい。彼はまだ後方で戦闘中ですので」

 「そっか。戦ってみたいな。〔超越術師〕か……」

 あら、私のこと知っているみたいですね。

 「知っているなら話は早いですね。ではそこをどいてください」

 そう言い、魔法を発動する準備をします。

 「ちょっとまって」

 そう声がかかりました。

 「なんですか?」

 「僕はできれば〔最速〕とやりたいんだけど、君たちを素通りさせたら見逃してくれる? 多分戦闘になったら僕が負けるだろうし」

 「通してくれるなら見逃しますよ?」

 「ありがとう。じゃぁ行きなよ。僕はここで〔最速〕を待つから」

 すんなりと通してくれようとします。

 「いいんですか? 『ファイサル』の新国王に大目玉ですよ?」

 「はっ。新国王の負けは決定してるさ。もう勝ち目なんてないしね。またあいつの手柄だ」

 「あいつ?」

 「いや。こっちの話だよ。あっ。一つアドバイス。その耳の通信機。外しておいた方がいいよ」

 「なぜです?」

 「まぁ僕の忠告なんて無視でいいよ。さっ行きな」

 「では」

 少し引っかかりを覚えたので、耳の通信機は外すことにしました。

 通信機に登録されているプレイヤーの消息がもうわかりませんしね。耳ふさがれてるとちょっとしゃべりずらいですし。

 「チェリーよかったの?」

 そうエルマが話しかけてきます。

 「うーん。〔最速〕が負けると思えないし、それにたぶんあのプレイヤーはこっち側だよ」

 「どういうこと?」

 「多分、スパイ」

 「あー。なるほど」

 「旧国王派かどうかはわからないけどね。他の国かもしれないし。決定打は通信機の存在に気付いたことと武器を構えていなかったこと」

 「そういうことか」

 エルマも気付いたようですね。

 「とりあえず進もう、もう少しで内部まで入れる」

 私達は横道から都市の裏門へと向かっています。なので正面から攻める【天罰神】と挟み撃ちにできる状況が理想となります。

 このままいけば都市ごと吹っ飛ばす暴挙に出なくてよさそうですね。そうまくいくとは考えられませんが。


 その後敵に遭遇することなく、裏門まで到着できました。

 「戦闘痕はあったのに、敵がいないなんて」

 そうエルマが呟き、あっと声をあげます。

 「さっきのプレイヤーか!」

 「たぶんね。〔最速〕と戦いたい理由はわからないけど」

 「強者に挑むのに理由なんていらないよ」

 「そっか」

 そうしゃべりながら裏門から『ファイサル』に入ります。

 

 その瞬間視界が暗転し、光りを目がとらえた先は、『ヴァンヘイデン』の城の内部でした。

 そして目の前には拘束された『ヴァンヘイデン』のお姫様と、惨殺された国王の死体がありました。

 「チェリー! どうしてここに!」

 そうジュンヤの声がします。

 ≪ナイトスター・スニーキングアイ≫……。その≪シフト≫が今発動してしまったようです。

 なんてタイミングの悪い……。

 ジュンヤに任せた後に解除しておくべきでした……。

 「≪シフト≫させられた。しかも『ファイサル』に入る直前で」

 「むこうは大丈夫なのか?」

 「わからない。エルマが一応サブキャラでいるけど、早く戻らないと」

 焦りのせいで、大量の汗をかきつつ答えます。

 「ここはいい。俺が何とかする」

 そう言ったジュンヤから目を離し、周りを確認すると、数人のプレイヤーがこちらを囲んでいます。

 「どっちにしろこの包囲網を突破しないと。ここでジュンヤにデスペナになられたらお姫様が」

 「おせぇ。もう人質だ。動けねぇ」

 見れば大体察しが付きました。

 恐らくジュンヤもそのパーティーメンバーも善戦したのですが、姫様を人質に取られた直後私が≪シフト≫させられたというわけですね。

 「動けないのは私も一緒か」

 転移するにしろ、何か行動を起こした瞬間に姫様は殺されるでしょう。

 どうする……。どうする……!

 「考えがあるにはあるが、かなりリスキーだ。しくったら罪人判定の上、国外追放だ」

 「やるしかないよ」

 「そん時は、俺だけが悪いことにしろ」

 「いや。共犯でいいよ」

 「そうか。閃光魔法を使え、その瞬間俺が解放済みの【聖槍】で姫さん拘束してるやつを狩る」

 なるほど。確かにリスキーですね。

 少しでも範囲がずれたら姫様もろとも消し炭です。

 「スリーカウントだ。3……」

 心の準備が……。

 「2……」

 まぁ覚悟を決めますか。

 「1……」

 「≪フラッシュ・ライト≫」

 「≪【聖槍技】全てを払う(セイクリッド・)聖なる光(エクソシズム)≫」

 ジュンヤの右腕から【聖槍】が放たれ、私が作り出した閃光をさらに明るい光で貫きながら進み、敵を貫通し地面に刺さります。

 「うおおおおお!」

 閃光が収まり、【聖槍】を投げた勢いのままジュンヤが走り、姫様に向かって飛び掛かります。

 「≪マテリアル・シールド≫」

 数瞬遅れて行動し始めた相手のプレイヤーがジュンヤに向かって攻撃を始めたので障壁を張ります。

 「よっし!」

 ジュンヤの声が聞こえたので、魔法を発動させます。

 「『眠レ 我ガ歌ニテ』≪スリープ≫」

 無属性魔法の≪スリープ≫は一定領域内にいるすべての人物を一時的に行動不能にさせる魔法ですが、発動に短い詠唱が必要で、悟られる可能性が高く、先ほどは使えませんでした。

 行動不能になるプレイヤー達の中に一人、効果が薄い人が居ました。

 胸部にぽっかりと穴を開け、こちらに向かって剣を構えています。

 なるほど。彼がリーダー格でしたか。

 なかなかの抵抗力です。

 「不覚。人質など取らず、殺せばよかった」

 「そうですね。最初から殺しておくべきでした。最もその場合、貴方は二度とこのゲームに入れないほどのダメージを心に受ける事になっていましたが」

 「どういうことだ?」

 そして私は答えます。

 「心が壊れるまで、私が殺しますので。≪インシネレート≫」

 リーダー格の人間の足元から炎が溢れ、身体を焼いていきます。

 「焼かれるのは初めてですか? 溶けた鎧が肌に張り付く感触は初めてですか? 痛覚がなくてもさぞ辛いでしょう。肌が溶け、骨が熱せられるのは初めてですか?」

 「う……」

 「さぁ向こうにおかえりください。≪アクア・ボール≫」

 全身が高熱を放っている彼に水を叩きつけます。

 ジュッと水が蒸発するような音とともに、彼の姿は消えていきました。

 「後はお願い。≪テレポート≫」

 今現在エルマがいる地点へ≪テレポート≫します。


 「エルマ!」

 「戻ってきたんだね」

 エルマから声を掛けられ、周りを見渡します。

 そこにラビと愛猫姫の姿はなく、私の心臓はバクンと跳ね上がりました。

                                      to be continued...

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