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VRゲームでも身体は動かしたくない。  作者: 姫野 佑
第3章 ファイサル
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第3章5幕 最下層<bottom floor>

 「下層も同じ感じなんだよね?」

 「そうだねー」

 「何系なんだろう」

 「みてからのお楽しみだよー」

 ステイシーこのセリフ好きですよね。


 来た道を帰る際、モンスターに襲われることはなく、スムーズに帰ることができました。

 そして1階まで降り、さらにその先の下層へと階段を降りていきます。


 先ほどの上階とは打って変わって、物々しい雰囲気で空間が満たされています。

 「アンデット系がいっぱい出そうな雰囲気だね」

 「そうだねー。最初の攻略の時も苦労したよー」

 ステイシーはそう言いながら魔法を放ち、モンスターを倒していきます。

 「試しに私も攻撃してみていい?」

 「いいけどー?」

 「わーい≪シャイニング≫」

 光属性の魔法をモンスターに向かって放ってみます。

 しかし、モンスターに当たることはなく、そのまま壁に吸い込まれていきました。

 「ほんとに当たらないんだ! てっきりステイシーが私に戦わせようと嘘ついてるんだと思ってた!」

 「ひどいなー」


 一階の最奥まで到着しました。

 階段を守護するモンスターはいないようで、すぐに階段を降りることができました。

 「守護モンスターいなかったけど?」

 「あー。一度倒すともう湧いてこないんだよー」

 「そうなんだー」

 次私がもしも上階に上ることがあれば少しは楽ができますね。二階層のあのモンスターが居ないので。

 

 2階層、3階層と難なく進み、最下層の広場まで到着します。

 「よーしじゃぁ行ってくるかなー」

 そうステイシーが禍々しい雰囲気の漂う椅子に向かっていきます。

 

 深呼吸して椅子に座ったステイシーが少し目を瞑り、その後立ち上がります。

 「おまたせー」

 あっけないですね。

 「おかえりー。何の【称号】取ってきたの?」

 「あー。【魔王】の上位【称号】だよー」

 「【魔王】!?」

 ふぁぁ!? 【魔王】? しかもその上位って……。

 「うんー。【魔王】ー。まぁ上位の【大魔王】の方だけどー」

 「…………」

 【勇者】も相当な【称号】ですけど、【魔王】という<最強>クラスの【称号】まで取れるのは凄いダンジョンですね。

 ユニーク系の【称号】の中でもそう簡単に取れないものなので、このダンジョンの価値はとんでもないものです。ダンジョンに入場料を設定するだけで一生ゲーム内の物に不自由しないリッチな生活がおくれますよ?

 

 そうこのダンジョンのとてつもない価値を確かめつつ、ダンジョンを脱出し、ステイシーの店に戻ってきました。

 「ふー。今日はお疲れ様ー」

 「うん。お疲れ様。身体的な疲労もそうだけど、こんなヤバイダンジョンに入ったっていう精神的な疲労でもう身体が死にそうだよ」

 「わかるよー。僕も最初入った時はそうだったからー」

 「今日は帰って落ちるよ」

 「りょうかいー。またねー」

 「またね」

 そう言い残し、私は≪テレポート≫で『セーラム』まで帰ってきます。


 「ただいま」

 「おかえりー」

 「おかー」

 フランとシドニーが迎えてくれました。

 ラビはもう上がっちゃったみたいですね。

 16時を回っているので仕方ありませんね。

 勤務表ですとラビは15時上がりですから。

 「フランに頼まれてたもの買ってきたよ」

 小型の簡易倉庫を渡します。

 「ありがとう!」

 「いいよー」

 「なんやー? フランそれ完成するんかー?」

 「うん。あとはこれを……できた!」

 おお。ベルトに簡易倉庫が付いたなかなか便利な品物ですね。しかもこのメイド服を着てても違和感のない、可愛らしいデザインです。

 「どうかな?」 

 そうそれを装着したフランが私達の方を見ます。

 「うん。かわいい」

 「なかなかのもんやなー。フランの可愛さも2割ましってとこやね。まぁシドニーちゃん可愛さの9割くらいってとこやな」

 「じゃぁみんなの分もつくらないと! すぐには無理だけど、なるべく早く用意するね」

 「まってるでー」

 「がんばってね。じゃぁ私はラビに挨拶したら少し休むね」

 「おやすみー」

 「おやすみー」

 

 二人におやすみ、と挨拶をし、お風呂場へ向かいます。

 ガラッと扉を開け、中を覗くと脱いであるメイド服があったのでラビはここにいるようですね。一発目で当たりを引きました。

 私も衣類と装備をすべて外し、生まれたままの姿に変化し、浴室へと侵入します。

 

 「あっ! チェリー! おかえり!」

 「ただいま」

 「目当てのものは買えた?」

 そう言いながら上を向いていたラビがクルッと振り返り湯船の縁に両手を組み、その上に顎の乗せる悩殺ポーズで話しかけてきます。

 出そうになる鼻血を意思の力でねじ伏せ、努めて平静を装い、返事します。

 「うん。買えたよ。フランの作ってたもんは完成だってさ」

 「よかったー! お風呂あがったら見せてもらわなきゃ!」

 「ラビも早く貰えるといいね」

 「うん!」

 あっそうでした。秘密裏というほどではないので、ラビに護衛の件を伝えることにしました。

 「色々あって、ラビのこと護衛することになったから」

 「えっ?」

 まぁそういう反応ですよね。

 「ちょっと気になることがあってね。いま仲間が調べてくれてるんだけど、各国の姫様が狙われるかもしれないんだって。それで私のお店の従業員でもあるし、守ってあげたいから引き受けたの。とはいっても国からの依頼とかじゃなくて自主的なものなんだけどね」

 「そういうことかー! てっきり今の護衛が使えないから、お父様に直接頼まれたのかと思った!」

 護衛信用ないなぁ……。あの人だって結構頑張ってると思いますよ?

 「いっつも置いていけるんだもん!」

 それはラビが凄いだけです。

 「そうなんだ」

 「チェリーが護衛なら安心かな! ところでお姫様がどうこう言ってたけどそちらは大丈夫なの? 私的には、この国のお姫様を差し置いて守ってもらうのは少し気が引けちゃうけど」

 「あぁ。それなら大丈夫」

 と、≪ナイトスター・スニーキングアイ≫のことを説明しました。

 「なるほどー! でもこれだとチェリーの負担がすごいことになっちゃうねー」

 「でも仕方ないよ。いま大事にできないし」

 愛猫姫のこともあるしと内心で考えます。

 あっ。

 「ごめんラビ。ちょっとメッセージ送っていい?」 

 「いいよー! 私そろそろあがるからあとでお部屋に来て!」

 「わかった。またね」

 そうラビを見送り、すぐにチャットを送ります。

 

 『ジュンヤ……』

 『おう』

 『ごめん……』

 『あぁ。ギルドホームにいる』

 『わかった』


 ちょっと怒ってる感じですね。まぁ無理もないですよね。一日以上まかせっきりにしてしまいましたし。


 風呂から上がり、身体を拭いてラビの部屋に行きます。

 「ごめんちょっとマオ迎えにいってくるね」

 「わかったー! 連れてきてー!」

 「うん」

 そう断りを入れ、ギルドホームへ向かいます。

 

 恐る恐る扉を開け、頭だけ隙間から出し、周りを伺います。

 「チェリー何してるんすか?」

 そう後ろから声が聞こえたのでビクッと身体を跳ねさせます。

 「ちょ! 驚かせないでよ!」

 「ごめんっす。でもチェリーが不審者の極みだったっすからつい」

 「それは否定できない」

 「それでどうしたっすか?」

 「いや……ちょっとっていうかかなりジュンヤを怒らせちゃったかもしれなくて」

 「大体わかったっす。一緒に謝ってあげるっすから」

 たまにはこいつも使えますね。

 全部ハリリンのせいにしよう。

 そう心に決めつつ、扉を全開にし、ギルドホームに入ります。

 

 応接室の扉が半開きになっていたので恐らくそこにいるだろうと予想はできましたが、まずご機嫌取りも大事なので、キッチンに行き、紅茶を用意します。

 ついでに『セーラムツー』のお菓子もインベントリから取り出しておきます。

 『セーラム』に置いてあった台車を念のため拝借しておいて正解でした。

 台車に一通りの準備をし、ガラガラと転がしながら、応接室に向かいます。


 応接室の前で深呼吸し、呼吸を整え、扉をノックします。

 「失礼いたします。紅茶の準備ができましたのでお持ちしました」

 そういままで見て来た執事やメイドたちの真似をします。

 「どうぞ、はいって」

 「失礼いたします」

 そう扉を開け、一礼し台車ごと入ります。

 こちらをすごい剣幕で睨むジュンヤは軽くむしし、紅茶を二人分注ぎます。

 「こちら、『セーラムツー』で販売しているお菓子でございます。お口に合うかわかりかねますが、ご賞味ください」

 そういいます。

 「おいし、そうね。いただくわ」

 愛猫姫がそう言ってくれたので、立ち去ろうとします。

 「まてよ」

 チッ! 駄目だったか!

 「如何されましたか?」

 そう問いかけるとジュンヤがバンと机を叩き、立ち上がります。 

 「お前なぁ! 俺にこいつを任せて何してたんだよ!」

 最もな質問ですね。ですがそれには最強の答えが用意してあります。

 「実は……ハリリンに呼び出されて一晩中飲まされて、死んだように眠ってたの」

 「は?」

 後方のハリリンから驚きの声が上がりますが無視して進めます。

 「私はマオのこともあるから無理って言ったんだけど、男の人の力で無理やり引っ張られて……」

 「ちょ! チェリー! ないこと言うんじゃないっすよ!」

 ハリリンが抵抗をやめないので、ハリリンのほうを向いて舌をチロリとだしてみます。

 「全部俺が悪かったんっす! 俺が朝までチェリーをつき合わせたっす! 全部俺が悪いっす!」

 勝ったな。


 ハリリンの手を引いてどこかに行ってしまったジュンヤを見送り、愛猫姫に話しかけます。

 「またせちゃってごめんなさい」

 「あら? 本当に可愛いメイドさん、だって思ってのだけど、チェリー、だったのね」

 そうです! 私でした! ごめんなさい!

 「ちょっとトラブルがありまして……」

 「そんなの、いいわ。こうして来て、くれたんだもの」

 この人の前世は天使ですね。確信が持てました。

 「そういってもらえると救われます。マオは一日ここにいたの?」

 「向こう、に帰ってるとき以外は、ここに、いたわ」

 「そっか。じゃぁ今日からは私のホームにきてください。ここより環境もいいですし」

 「わかったわ。そうする」


 愛猫姫の同意も取れたので、私のホームに連れていきます。

 これで姫暗殺計画の護衛と愛猫姫の護衛兼監視がほぼ同時に遂行できるようになりました。

 「3階に一部屋空きがありますので、そちらでいいですか?」

 「マオ、はチェリーと一緒でも、いいわ?」

 頭の中の牧場で兎が死ぬほどピョンピョン飛び跳ねて喜びを表してはいますがそちらを顔には出さず、断ります。

 「部屋は、分けておいた方がいいでしょ?」

 「チェリー、がそういう、なら」

 何とか私の理性を守れそうです。


 そして空いている部屋に愛猫姫を連れていきます。

 「ここ。少し狭いけど我慢してね」

 「大丈夫。いい部屋だわ」

 そう言ってもらえて安心します。

 「ありがとう。必要なものがあったら今から買いに行きましょう。うちの従業員の娘も連れて行っていいかな?」

 「もちろんよ」

 同意ももらえたのでラビの部屋に一緒に行きます。

 

 「ラビ。はいるね」

 「どうぞー!」

 扉を開け、マオとともに入ります。

 「マオさん!」

 「また、あったわね」

 「いつみても綺麗です!」

 「ふふ。ありがと」

 可憐に笑う愛猫姫の横顔を見た私は色々せき止めていたものが崩壊しそうになりますが、根性で耐えました。

 「マオにしばらく住んでもらうことになったから必要な物買いに行きたいんだけど、一緒に行かない?」

 そうラビに聞きます。

 「いいよー!」

 二つ返事で了承してもらえたので、この3人で買い物に行きます。

                                      to be continued...

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