第2章2幕 射撃<shooting>
静かに怒りを爆発させているステイシーとその辺の木に八つ当たりをしている私達のもとへ伝令がやってきました。
「またせたっすーってなんすかこの惨状!」
一帯の木が圧し折れ、見晴らしの良くなった山中にハリリンが現れます。
「なるほどっす」
エルマがいないこと、私がそこかしこに魔法を放っている様子をみて納得したようです。
「チェリー達のおかげで魔法を遮断していた結界がとけたっす」
犠牲は大きかったですけどね。
「そこで連合軍から大魔法の発動許可が出たっす」
「捕虜のNPCは?」
「大方回収できたっす。何人か残っているみたいっすけど」
「僕はもうぷんぷんだからすぐにでもぶっ放したいけどー?」
そういってステイシーが私を見ます。
もちろん私の答えは決まっています。
「全員の無事が確認できないなら撃てない」
「チェリーならそう言うと思ったっす。これをどうぞっす」
ハリリンが封筒を手渡してきたので受け取り、読みます。
『チェリー殿』
『貴殿のパーティーメンバーとともに『猫姫王国』に突入し、敵首領『愛猫姫』を討て。騎士団長ダローンより』
「…………」
読み終わった私はそれをステイシーに渡し、ハリリンに言います。
「つまり国ごと殲滅じゃなくて主犯の愛猫姫を殺せってこと?」
「そうっす。捕虜の救出が終わったらすぐに詠唱魔法で国ごと消滅させていいそうっす」
国ごと消していいなんてずいぶん物騒だこと。解放さえされれば復興は意外とスムーズなのかもしれませんね。
「僕も了解したよー。クソオンナに直接魔法を当てるほうがすっきりするしね」
「ステイシーなんか恨みでもあるの? エルマのこと以外で」
「うーん。ちょっとねー」
あっ……これ過去になんかあったぞ!
「じゃぁお願いするっす。俺は諜報にもどるっす」
「がんばれ」
ハリリンを送り出し、ステイシーと二人で今後の方針を決めます。
「侵入してお城に攻め込んだとして、敵の防衛を二人でぬけれるかな?」
「きびしいだろうねー」
「詠唱魔法が連発できればいいんだけど」
「僕は連続で2回撃ったらもうしばらく何もできなくなるかなー」
「私は……3回だね」
生贄を消費するもの、HPを消費するもの、MPを消費するものの3つです。
「なるべく使わないようにしないとねー」
「そうだね。とりあえず主戦力と合流する?」
「そうしよっかー」
主戦力が敵戦力を打ち破りつつ、侵攻するのについていくという形で話がまとまり、実行します。
門の少し先で足止めをくらっているようであまり侵攻できてるとは言えないですね。
先頭で戦闘しているジュンヤを見つけたので声を掛けます。
「がんばってるね」
「チェリーにステイシー、お前らは別行動じゃなかったのか?」
「いろいろあって二人で愛猫姫を殺ることになった」
「深くは聞かねぇ。ってことは城の内部までいくんだよな?」
「そうなる」
「ファンダン! チェリー達のガード頼めるか?」
「任せろ」
ファンダンがスッと現れ了承してくれました。
「カウント5で強スキルを撃つ。一時的に敵に隙間が出るだろうからそこからいけ」
「了解」
「いくぞ! 5!」
よっこいせと私とステイシーをファンダンが担ぎます。
「なになになに!?」
「舌噛むぞ。黙ってろ」
「4!」
何が何だかわからず、俵担ぎされる私とステイシーをよそに、カウントは進みます。
「3!」
ピョンピョンと飛び跳ねて足の筋肉の動きを確認するファンダンとその背後に並ぶ屈強な男たちが確認できました。
「2!」
屈強な男たちがファンダンの背中を掴みます。
「1!」
私達を担いだファンダンを屈強な男たちが持ち上げます。
「【大爆水龍衝】」
正面に水でできた龍を飛ばすジュンヤを見ることができました。
道があいた! そう思った瞬間、屈強な男たちに投げられました。
ファンダンwithチェリー&ステイシーは中央通りをものすごい速度で飛んでいます。
「うあああああああああ!」
「ああああああー」
「ぬうううううううう」
私、ステイシー、ファンダン、みな声をあげていますね。
それもそうですよ、あんだけ屈強な男たちに投げられれば宇宙ステーションだって行けますよ。
その飛翔体験も長くはなく、ガッガガッと音を立てファンダンが地面に顔から着地してクッションになってくれました。
鼻血を出しながらファンダンが起こしてくれたので、お礼に回復をかけてあげました。
「すまんな。まぁ俺としては褒美はもうもらっているから別にいいんだが」
「何貰ったの?」
「いや何でもない。さて第一の肉壁は壁通過したわけだが……そう簡単にはいかせてもらえねぇわな」
わらわらと『猫姫王国』の構成員が集まってきます。
「カモがきたぜぇ! やっぞ!」
「おっ! 女じゃねぇか! あいつは最後にすっぞ!」
あれ? 聞いてた話と違う。
みんな愛猫姫のファンで親衛隊みたいな感じって聞いてたんだけど。
「俺たちは傭兵だからなぁ」
こいつ……読心術か!
「わかっているな?」
ファンダンがそう問いかけてきます。
もちろん私もステイシーもわかっています。ここはファンダンを肉盾にして、後方から魔法で殲滅ですよね。
「野郎共! かかれー!」
ダーっと走り出した傭兵たちへシューティングゲームのような感じて魔法を当てていきます。
「≪ダーク・ピアス≫」
「≪サンダー・ピアス≫」
「これちょっと楽しいかも。≪ダーク・スパーク≫」
「奇遇だねー。僕もそう思ってた。≪サンダー・スプレッド≫」
「ぎゃぁー」という悲鳴をBGMにしつつ、スコアを稼いでいきます。
たまにファンダンの盾にコーンとぶつかる音がしますが、この程度なら耐えれるでしょう。
辺り一帯の傭兵を倒し終え、スコアのチェックに移ります。
「私33人」
「僕は39人」
「あーまけたー」
「かったー」
「ちなみに俺は4人だ」
「やーい。ザーコ」
「バカ野郎。盾持ってなければもうちょっと行けたぞ」
ひとしきり、ファンダンをからかったあと、ステイシーが口を開きます。
「ちょっと意外だったねー」
「ん? なにが?」
「傭兵のことか?」
「うんー」
「何が意外なの?」
「連中、傭兵を集めるほど戦力が足りないってことだろ?」
「あっなるほど」
「【最速】と【天罰神】に削られた分の穴埋めかなー? でもそれにしては練度が低いよねー」
「まぁ考えて答えが出ることじゃない。いまは先に進むぞ」
「はーい」
「うんー」
中央通りを北へ延々と進んでいきます。
途中途中でギルドの構成員らしき人物や、傭兵が出てきますが、ステイシーにかかれば蚊を殺すも同然なので無視します。
「城の門が見えてきたぞ」
「めっちゃ可愛い門だ」
「もう僕限界ー。≪シーボール・ヘリックス≫」
ドガーンと爆音を立て門が崩れていきます。
「えええええ!」
「暴発しちゃったー」
悪気がないようで絶対あるステイシーの顔を見つつ敵を警戒します。
あらかた瓦礫の下敷きですがそれでも死んでいない猛者がこちらにとびかかってきます。
「≪ダーク・ファランクス≫」
新たに制作しておいたファランクスという形態を用いて敵を殲滅しておきます。
ファランクスは複数のランスシェイプの魔法を展開、保持して敵をブスブス刺すものなので楽でいいです。良く思いついた私えらい。
崩れた門の跡を通り抜け、城へ侵入しました。
ここからが本当の戦闘が始まるところです。
親衛隊の中でもトップクラス……Lv.300超えがちらほらいるかもしれませんね。
改めて……。
「お前ら、首を洗って待ってろよ? 親友の敵、絶対取ってやるからな!」
そう大声で叫びます。
to be continued...