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第1章18幕 錬金<alchemy>

 ゲーム内で2時間ほど仮眠を取り、お酒が抜けたので一度『セーラム』に帰ることにしました。

 ≪テレポート≫を使用し、『セーラム』の前に戻ると、フランが迎えてくれました。

 「チェリー! おかえり!」

 「ただいま。お店は大丈夫そう?」

 「うん! ハンナちゃんもカンナちゃんもシドニーちゃんもみんなよくやってくれてるよ!」

 「そっか」

 「チェリーはどこに行ってたの?」

 「ちょっとクエストでね」

 今までのことを一通り話し、【魔具職人】を雇用してきたということも伝えます。

 「たぶん明日くらいには来ると思うけど」

 「りょうかい! 準備しておかなくっちゃ」

 「ごめんね。ありがと」

 「いいよー! そういえば昨日【錬金術師】の方が来てチェリーと話したいって言ってたよ!」

 「何だろう」

 「わからない!」

 「どこにいるって言ってた?」

 「北通りの宿に泊まってるって言ってたかな?」

 「わかった。ちょっと行ってくるね」

 たまには私も店主らしくしないといけませんね。

 話を聞く限りだと調薬とかもそんな面倒くさくなさそうですし。

 このままだと居場所がなくなるとか考えてるわけじゃないですよ?


 「すいません。こちらに【錬金術師】の方はお泊りでしょうか?」

 「はい。宿泊されてますよ」

 北通りの宿としか知らなかったので探すのに苦労しましたが何とか見つけることができました。

 とりあえずこの世界では個人情報は保護されないみたいです。


 宿泊しているという302号室の扉をノックします。

 「すいません」

 「いま、あけますね」

 おっ! 女性の声ですね。

 「お待たせしました。どちら様でしょうか?」

 チャイナドレスのような服を着ている、黒髪の美人さんが出てきました。

 「私『セーラム』の店主のチェリーと申します。昨日、私に会いに来たと聞きまして」

 「あぁすいません! 宿の場所も伝えずに……。私は王路と申します。とりあえず入ってください」

 「お邪魔します」

 宿に入るといつも思うのですが、この世界の宿って現実に比べてめちゃくちゃ良いんですよね。広さとかベッドのふかふかさとか。

 あと一泊が安いです。

 「こちらにどうぞ」

 「ありがとうございます」

 手を向けられたソファーに座ります。

 「すいません。お茶も用意してなくて」

 「いえいえ。お構いなく。話したいこととはなんでしょうか」

 「はい。これと言って深い理由はないのですが、これから働くかもしれないところなので店主さんと一度お話をしておきたかったのです」

 「なるほど」

 「チェリーさんは錬金術についてご存知ですか?」

 現実の話かこの世界の話か一瞬迷いましたが、ここで現実の話もちょっとおかしいのでこの世界のことだろうと思い、返事をします。

 「下位の金属を精錬してより上位の金属を作り出すもの、と理解してます」

 「その通りです。錬金術の経験がおありなのですか?」

 「いえ。私はほとんどないです」

 「そう……ですか……」

 あれ? 少し残念そう。

 「ご相談なのですが……」

 「なんでしょうか?」

 「最近【錬金術師】はとても少なくなっています」

 「はい」

 「お父さんから教わった錬金術を……残したいのです。この世界に」

 「つまりお弟子さんを持ちたいということですか?」

 「はい」

 「私はかまいませんよ。優秀な【錬金術師】が増えるのは喜ばしいです」

 「そういっていただけて助かります。【錬金術師】はどこに行っても底辺ですから……」

 えっ? そうなの?

 確かにプレイヤーの【錬金術師】はあまり見ないですね。お店も街に一つあるかないかですし。

 「認識不足でした。【錬金術師】がそんなにひどい扱いを受けていたなんて……」

 「いえ。みなさんご存じないのでしかたありません」

 「少なくとも私にとって【錬金術師】はなくてはならない存在です。【鍛冶職人】が使用する金属を作れるのはあなた方【錬金術師】だけなのですから」

 「製鉄の技術を持っている【鍛冶職人】も珍しくありませんし、このままでは錬金術そのものが失われてしまいます……」

 「市場に【錬金術師】が作った金属が多く出ているので、まだ大勢いると思い込んでました」

 「あれは一部の職人が寝ずに精錬してるものなのです……」

 「そうだったのですか……」

 「すいません。初対面なのにこんなこと話してしまって」

 「いえいえ。お気になさらず。続けてください」

 「ありがとうございます。私たちが作った金属の価格は大体いくらくらいだと思いますか?」

 市場に出回ってる金属から考えると……大体1kgで50万金ほどだった気がします。

 「およそ1kgが50万金ほどでしょうか?」

 「そうですね……市場の価格だとそのくらいになります……」

 あれ? また暗くなっちゃったみたいです。

 「どうかされましたか?」

 「実はですね……本来ですとその数倍の値段がつくのです」

 「えっ?」

 「およそ1kg 200万金が適性価格なのです」

 「さすがにそれは知りませんでした……」

 ごめんなさい! 今まで湯水のように無駄遣いしてました!

 「もともと、『アイセルティア』にお店を出していたんです」

 『アイセルティア』……像を作りに行ったのが随分昔に感じます。

 「『鉱山都市』ですから需要はあったのではないですか?」

 「はい。ですが良質な金属が取れるとなると錬金術で加工しなくてもそこそこの金属が生成できてしまうのです」

 一理ありますね。

 「それでもう【錬金術師】はいらないとなり、政府から補助金が打ち切られてしまいました」

 補助金制度まであるんですか……。

 さすがにリアル追及しすぎてヒキますね。

 麻雀牌の触り心地も現実と変わらなかったですし。

 「それは災難でしたね……」

 「はい。なのでお願いがあります」

 「なんでしょうか」

 王路はうつむいてしばし黙り、顔をあげるとしゃべり始めました。

 「……。場所を貸していただけないでしょうか」

 「えっ?」

 「だめでしょうか……?」

 「いえ……。こちらとしては大歓迎なのですが……」

 「本当ですか!?」

 「ええ。場所だけでなくお給料も出しますよ?」

 「えっ? 【錬金術師】にお給料だなんて……」

 あっ……この美人いじめたい。

 すごくいじめたくなってきた。

 「いりませんか?」

 「いえ! いらないというわけではなく……」

 「じゃぁなんですか?」

 「【錬金術師】にお給料払うなんてそんなもったいない……」

 「じゃぁタダ働きでもいいと?」

 「…………」

 うん。めちゃくちゃ可愛い。

 美人がこうして悶々としてるのをみるのはちょっと良いですね。

 でもこれ以上するとあの変態(ハリリン)みたいになってしまいそうなので自重します。

 「冗談です」

 「えっ?」

 「もちろんお給料は払いますよ。月初めに30万金お支払いします。自分で作った金属の売却による利益はすべて王路さんが取っていいです」

 「上納金もなし……ということですか?」

 「はい。その通りです。ですがうちの【鍛冶職人】や【魔具職人】が必要だといった際は融通していただけると助かります」

 その金属を使用した武器が売れたときの利益は山分けになるとも付け足しておきます。

 「そんな好待遇……ほんとにいいんですか?」

 「ええもちろん構いませんよ。ブラック労働は反対です」

 「ブラック労働?」

 「あっいえこちの話です」

 「すぐに働かせてもらえませんか?」

 「それはこちらからお願いしたいのですが……その辺は担当の娘に一任しておりまして」

 「でしたらすぐに準備致します。といっても宿住まいなので、持っていくものもありませんが……」

 そういって少し乾いた笑い声をあげています。

 「住まいでしたら提供できますよ? というか住み込みで働いていただこうと思っていますので」

 「本当ですか!?」

 ギュッと手を握り、私のおでこにおでこをくっつけてきます。

 やっぱこの人凄い可愛い。

 男だったらイチコロですね。

 私もイチコロでした。

 「で、ではご案内しますね」

 「ありがとうございます!」


 王路を連れて『セーラム』まで帰ってきました。

 「フラン。【錬金術師】の王路さん。採用することにしたから説明とかお願いしてもいい?」

 「わかったー! 準備するね!」

 「ということですのでしばらくおまちください」

 「はい。ありがとうございます。ここは商店ですよね?」

 「そうですよ」

 「こちらで私が作った金属を売っていただくこともできるのですか?」

 「もちろんです」

 「あっそのあたりも私が説明しますね」

 フランが採用担当モードへと変わったのを確認し、「作戦あとは任せた」を発動します。

 フランに連れられて王路が『セーラムツー』へ向かうのを見届け、店内にいたハンナとカンナに話しかけます。

 「二人ともお仕事はどう?」

 「とても楽しいですよ!」

 「たのしい」

 ハンナ、カンナの順で答えてくれます。

 「よかった」

 「前は注文聞いたりとかで気を張ってばっかりだったからすごく新鮮です」

 「走り回って体中痛いのがあたりまえ」

 「人気店だったんだね」

 「ほどほどにですけど」

 「本店よりは人気ある」

 カンナは結構毒舌をふるうみたいですね。

 毒舌ふるうちょっと寡黙な女子は好きですよ。

 「シドニーは?」

 「休憩いきました」

 「デブ活」

 「戻ってきたらシドニーとも話したいな」

 「うちと何をはなすって?」

 ちょうど休憩から帰ってきたようですね。

 「仕事はどうかなって聞きたくて」

 「あーそれなー。めっちゃ楽。こんなんで給料こんな貰ってええのんって思ってる」

 「大丈夫だよ」

 私のポケットマネーが尽きなければですけど。

 「とりあえず昼の仕事は全部覚えたんやけど夜はなーまだ覚えられん」

 「夜覚える必要ないんじゃない?」

 「あかんなーチェリー。いつ何が起こるかわからないんやで?」

 急にハンナ、カンナのうちどっちかが倒れることもあるかもしれんやろ?と付け足していました。

 この子はとてもみんな思いで優しい子みたいですね。

 「そんだけ」

 「そっか。そういえばシドニーしゃべり方が変わった?」

 少し気になっているので聞いてみます。

 「こっちが普通のしゃべり方なんよ。初対面の時はキンチョーしてああなってもうた。あがり症やねん」

 「そうなんだー私はこっちのほうが好きだよ」

 「やめーや。照れる」

 「あがり症とかはず」

 「カンナ? 何か言った?」

 「はずかしい?」

 あれ? 基本的にここは何も言ってないっていうとこじゃないの?

 「カンナ! 言い過ぎ!」

 「よく買い物に来る語尾が「~~っす」の人にめっちゃ凝視されて真っ赤になってるの思い出した」

 「お前! それ忘れろ言うたやん!」

 「来世でも忘れない。クスクス」

 「カンナ!」


 ワイワイしている従業員の子たちを見ると落ち着きますね。

 雇ってよかった……。


 「ただいま!」

 「おかえり」

 「「「おかえり」」」

 「王路さんすぐ金属の精錬に入るって。多分あそこの棚にないもの気付いたんだと思う」

 そう言って金属等が置いてある棚を指さしました。

 「すごい」

 「さすが【錬金術師】って感じだね!」

 あっそうだみんなに【錬金術師】のこと聞いてみよう。

 「みんな【錬金術師】ってどうおもう?」

 「かわいそう」

 「大変そう」

 「マゾ」

 「うちはよー知らん」

 フラン、ハンナ、カンナ、シドニーの順で答えてくれました。

 個人的には王路がマゾにしか見えなくて、カンナの意見が正解だと思います。

 「偏見とかない?」と聞くとみんなないといってくれたのでやっぱりここの従業員はみんないい子ですね。

 ラビも呼んでみんなでおいしいものを食べに『喫茶セーラム』に行こうかと提案しようと思ったときにエルマからチャットがきました。


 『修行おわたー!』

 『お疲れ様。強くなれた?』

 『あんまりなってない!』

 『お、おう』

 『武器を新調したからスパーリングしにお店行っていい?』

 『いいよ。ちょうど『セーラム』にいる』

 『すぐ行くね!』


 エルマが来るようなのでご飯会はなしですね。

 「ごめん。私ちょっと地下で親友と試し撃ちするね」

 「だれがくるの?」

 「エルマ」

 興味津々なフランに伝えます。

 すごい見たいなーって視線を向けてきますね。

 「見る?」

 「見る!」

 「じゃぁお店閉めてみんなで観戦しにおいで。あっ誰か『喫茶セーラム』に行って何か買ってきてくれるかな?」

 「そんならうちがいってくるでー」

 「シドニーお願いね」

 「たくさん買ってくるついでに様子みてくるわー」

 と言って出ていきました。

 さてでは地下に行って準備運動でもしておきましょうか。

 久しぶりにエルマとPvPをするのでちょっと楽しみです。

                                      to be continued... 

 

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