第6章55幕 効果<effect>
インベントリに持っていたHPポーションとMPポーションを飲みながらふぃりーの出方を伺いながら転がるような移動を繰り返し私は次の手を模索します。
先ほど受けた≪カウンター≫からの≪グランド・スパイク≫でそれほどHPの多くない私は半分ほどのHPを消耗してしまっています。
≪グランド・スパイク≫に関しては躱す事は難しくなく、事前に防ぐことも可能です。
しかし問題は≪カウンター≫。
≪カウンター≫は自身が受けたダメージをそのまま攻撃者に返すスキルです。
大きな欠点は受けたダメージは回復しない、ということでしょうか。
≪カウンター≫は何に由来する≪カウンター≫かで大きく性質が変わります。
ふぃりーの≪カウンター≫は【復讐者】由来なので近接攻撃に対する≪カウンター≫で範囲も狭いことは言うまでもありません。
となると私が取るべき、いえ、取れる行動は遠距離もしくは中距離に制限されます。
魔法で攻撃するしかないかな。
私はそこまで考え、一つ思い当たることがあります。
『ステイシーちょっと聞きたいんだけど』
攻撃をかわしながらもステイシーにチャットを送信し、一つ確認することにします。
『んー? 戦闘中だよねー? なんだいー?』
『≪カウンター≫のスキルが返せるダメージって実際にHPが削られた物だけだよね?』
『そうだねー。スキルの反動によるダメージとかは帰ってこなかったはずー』
『おっけー。ありがと』
『ふぁいとー』
ステイシーに確認を取り、半ば確信へと変わった仮説を証明することにしました。
「もう逃げないのかな?」
「はい。勝ち筋が見えました」
私が少し離れた位置にいるふぃりーにそう言うと、少し目尻を上げ、不快そうに返してきます。
「この状況からどうやって勝つのさ」
「遠距離魔法で削り切ってもいいんですけどね。そちらは対策済みでしょう?」
不敵な笑みをもらしながら私はそう告げます。
それがさらに不快だったのか、今度は顔全体で苛立ちを表現しながら私に言葉を返してきます。
「そんな方法はないよ。もしあるならこっちが知りたいよ」
「そうですね。では教えてあげます。弱点を」
挑発にかかり、少し怒りを滲ませるふぃりーには悟られぬ様に額の汗をぬぐいます。
よしっ。
心の中で気合を入れなおし、私は右手に【ナイトファング】を装備します。
「え?」
困惑した表情に変わったふぃりーの顔を遠くに見て私は自身の持つAGIと≪スライド移動≫による高速移動で一気に距離を詰めます。
「近接攻撃は効かないって言ったよねぇ!」
怒りから困惑そして猟奇的な笑みへと表情が変わったふぃりーの首元に【ナイトファング】を当て、私は心の中で呟きます。
≪斬罪神の慈悲≫。
そして私のHPが首筋に当たった【ナイトファング】の分だけ、ごく少量減らされ、状況も分からないままふぃりーはデスペナルティーになりました。
『おつかれー』
『そっちもね』
こちらの戦闘を遠くから眺めていたステイシーが戦闘終了とほぼ同時にチャットを送ってきました。
『労いたいところなんだけど、やっぱ大大がかりな陽動作戦だと考えられるねー』
『ほんと?』
私がステイシーに聞き返すと、目の前にはいないのですが、コクリと頷くステイシーの動作が感じ取れました。
『どれも時間稼ぎに特化してるプレイヤーばっかりだもんー。それに』
『それに?』
『都市がマズイ』
『どういうこと?』
『上見て』
ステイシーに言われるがまま上空へと目を向けると、暗雲が都市上空を包み込んでいることが分かります。
『そう言うことか!』
『スキルの発動者を見つけて倒すよー』
『手伝う』
『とりあえず戻って来てー』
ステイシーと相互に持ち合っている座標転換用の道具で≪シフト≫を発動し、私はすぎにステイシーの横へと戻ります。
「とりあえずポーションあるー?」
「あるけど傷が酷い」
「≪ホーリー・ヒール≫」
「ありがと」
ステイシーに回復魔法をかけてもらい、傷がふさがってから消耗したステータスの分ポーションをガブ飲みします。
「詠唱魔法だと思うー、それ儀式魔法かなー」
「儀式魔法?」
存在は知っていましたが、使用するためにのコストが集めにくく、実用的ではないとされる儀式魔法を『仁義』が用いるとは思えず聞き返してしまいました。
「『仁義』は意外と大きい組織だからねー。材料を集めるのはそう苦労しないでしょー」
「そっか。儀式魔法って実際どういうものなの?」
「うーんと。まずは儀式魔法の発動に必要な魔法陣を用意して、そこに材料のっけて後は発動って感じかな?」
「そこだけ聞くと結構簡単そうなんだけど」
「簡単だよー。発動自体はねー。あー。レディンの転移魔法は儀式魔法に近いかもー」
「あっ!」
レディンの転送屋には大きく魔法陣が描かれていたことを思い出します。
「供物……材料はお金か」
「そうそうー。簡単に言えばそんな感じー」
「でも都市を覆うレベルの儀式魔法なんてあるの?」
「分からない。もしかしたら≪増幅≫とか使ってるかも。とりあえず儀式魔法だと思うから都市の中と外を調べよう」
「人手が必要だよね」
「それならうちに任せとき」
突然後ろから掛かった声に振り向くと、全身血まみれではありますが、無事のように見えたもこちねるが立っていました。
「大丈夫!? 治療するよ」
そう言って回復魔法を発動しようとしますが、すぐにもこちねるから返事がきます。
「いらんで。これは相手さんの血やから」
もこちねるは何事もなかったかの様に、インベントリから取り出した熊のプリントがしてあるハンカチでフキフキと顔や腕を拭き始めます。
「おぅ……バイオレンス」
「何言うてんのや。それでなんで人手が必要なんや?」
そういうもこちねるに再びステイシーが説明をします。
「なるほどなー。うーん。あかんわ。魔法系で得意なやつはおらん。ついでにうちも正直魔法系は疎いんや」
「だろうねー」
「知ってる」
「なんかちょっと傷付くなー。まぁええわ。手が空いてる魔法系のやつ居たら連絡するわ。はよ行き」
「うん」
「まかせるねー」
私とステイシーはもこちねるにそう告げ、根場を離れました。
「まず外部から確認した方がいいよね?」
「そうだねー。都市内部にいきなりそんな魔法陣を用意できないとは思うから、外部にあるとは思う」
「広い都市ではあるし、一つの魔法陣を探すのは骨が折れるね」
私がそう言うと、ステイシーは不思議そうに私の方を見ていました。
「ん? どうしたの?」
「いやー。こんだけ大きな都市相手に魔法陣一個で儀式魔法は無理だとおもうんだけどー」
「えっ? ……ってことは魔法陣いっぱいあるってこと……?」
「儀式魔法の中には魔法陣を複数使ってさらに大きな魔法陣を作るものだってあるはずだからねー」
「…………。二人じゃ無理じゃない?」
「だから人手が欲しいんだよー」
二人で途方に暮れつつも『ダルドナ平地』の戦場に背を向け、『攻殻都市 マスティア』へと戻っていきます。
to be continued...
次話11月24日投稿予定です。
しばらくお待ちください。
一ヶ月も連載お休みして申し訳ございません。
リアルの仕事もそうなのですが、ネット上での活動も忙しくなり、本格的に執筆の時間が取れずにいました。
更新頻度は落ちてしまうかもしれませんが、完結するまで筆を擱くことはございません。
毎日の更新を楽しみにしてくださった皆様にはなんとお詫びを申してよいかわかりません。
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