第6章49幕 勃発<outbreak>
はぁ、はぁ、と息を切らせながら走り、都市の外に出ると、NPCの守衛や門番などはおらず、数人のプレイヤー達が『仁義』をなんとか食い止めているようでした。
私はその最後尾にいた男性に声を掛けます。
「加勢します」
「いや。こっちは大丈夫です! 西門に回ってもらえますか?」
「西門……」
西門は『鋼殻都市 マスティア』における裏門に当たります。
つまり普段は閉じられていて、門番などもあまりいないということです。
「ぐあっ!」
私が西門に向かうべくクルリと右に90度向きを変え、足を踏み出そうとした瞬間、左耳に苦痛の声が聞こえ、再び視線をそちらに向けます。
「随分なめくさってくれますね。では見せしめに貴方達には死んでもらいましょうか」
丁寧な言葉とは裏腹に怒りをにじませているような声に私は危険を感じ、障壁を展開します。
「≪マテリアル・シールド≫っ!」
間に合えっ、と念じる強さ故か、いつもより数瞬早く発動したソレは先ほどの男性から発せられた砲撃にも近い空気の弾を受け止めます。
「えっ?」
空気弾を発生させた男性から疑問の声が上がった瞬間すぐに胴体が二つに分かれ、デスペナルティーの演出に包まれました。
「奏寅さん!」
「ここは俺に任せておけ。不思議なもんだな。かつて戦った相手と、今度は肩を並べる時が来るというのは」
その言葉を発しながら、奏寅は残ったプレイヤーの首を刈ります。
「行け」
「お任せします」
私は『無法都市 ヴァンディガルム』の一件依以来、久々に会った奏寅にそう告げ、西門に向かいました。
西門にたどり着いた私は、少なくないNPCの死体と散乱したドロップ品から事の惨状を知ります。
なるほど。西門ですか。
そこに居たのはたった一人のプレイヤーでした。
「待っていました。手ごたえがありそうな相手ですね」
そう言った女性は背負った細身の太刀を抜刀し、私に向けてきます。
「『仁義』所属。神代愛莉。カミシロではありません。ジンダイですよ。二つ名は……<旋風>」
その後口を閉ざし、こちらの応答を待ちます。
決闘の名乗りですか。あまり得意ではありませんが、相手にだけ言わせるのは失礼なので言いましょう。
「『騎士国家 ヨルデン』所属。チェリー。<超越術師>」
「ふっ。知っています。この玉が落ち、割れた瞬間に始めましょう」
「はい」
「ではっ……」
そう言った神代が玉を上空に放り投げました。
玉が落ちるそのわずかな時間が私の中では非常に長く感じられます。
玉が落ちてくるのをコマ送りのように見ながら私は思考を始めます。
スタイルは純剣士、いや。侍。太刀を使うわけだから、リーチは長い。振りは遅いだろうけど、間合いの先から突くのは厄介。なら、私は間合いに入らず、魔法で倒しきる。それが理想だけど、開幕早々接近してきたらAGI型なのが確定できる。
そしたらSTRは絶対私の方が上だから近接格闘戦に持ち込める。突っ込んでくると想定して即発動できる魔法をカウンターとしてぶち込みましょうか。
そう思考を終えた瞬間、パリンと玉が割れる音が耳に届き、そしてその直後自分の正面に現れた神代へ即反撃の魔法を叩きこみました。
「ぐっ!」
腹部に衝撃を食らった神代が、苦し紛れの蹴りを繰り出しますが、私はそれを腕で掴みます。
「やはり予想通りですね。【侍】……いえ。今の速度、【颯侍】ですか。≪マテリアル・シールド≫」
掴んだ脚をさらに強く握り、振られる太刀を≪マテリアル・シールド≫で防ぎます。
「魔法近接戦闘なんて聞いたことがありません」
「私もやったことありません。ですが、これが一番刺さります」
そこまで言った私は、先ほど物理障壁を生成する際に起点にしていた左の手を握り、ある魔法を拳に付与します。
「≪フレイム・エンチャント≫」
継続ダメージを受けるのであまり使いたくはありませんでしたが、脚を掴んだ際、≪スキャン≫を行うことで得ていた情報から、魔法耐性の低さを感じ取っていたので発動しました。
そしてその拳を神代の整った顔に叩きこみます。
「ぎゃっ……」
追撃、と言わんばかりにもう一度腕を引き、再び顔に叩きこみます。
「…………」
二度の拳で意識を失う程度のENDしか持たない神代は完全に≪失神≫しました。
一応抗争なので……、と誰にわかるわけもないいわけをし、私は腰にさしている【神器 チャンドラハース】で首を刎ねます。
直後、私の直感が何かを感じ取り、その場から飛びのきます。
鼻先をかすめる様に土属性魔法で生成された鉄の塊が通り抜けます。
「おっ? 感知系何か持ってるのかな?」
幼い少年のような声が聞こえ、追撃が始まります。
地面から生える鋭い鉄の塊に苦戦しつつ、避けていると、背後に衝撃を感じます。
「!?」
振り返らずともわかるソレは閉まった西門の扉でした。
「しまっ……」
直後、腹部に引かれるような違和感を感じます。
お腹に巻き付いたロープは雷属性の魔法で生成されており、私は致死圏内から安全地帯まで引っ張られます。
「お待たせー」
「ステイシー」
「間に合ったー?」
「間に合ったよ」
「おっけー。腕治しておいてー。ここは僕がやるからー」
ステイシーがそう言って杖を構えなおすと幼い少年であろう彼が言葉を発しました。
「ありゃ。援軍来ちゃったか。うーん。退避!」
そう言って地面に潜ろうとする彼をステイシーが妨害します。
「≪アクア・ボトム≫」
地面の表面を水溜まり状態にする、ステイシーにとってとても相性の良い魔法を発動し、彼の土属性魔法の発動を制限します。
「なーる。相性の悪い土属性だから対策はばっちりなのか。仕方ない! 『仁義』所属! <砂上の巫女>プレッツェル・フィンガー」
「『ヨルデン』所属、ステイシー」
「二つ名は?」
「いまは持ち合わせていないねー」
「そっか。じゃぁ行くよ! ≪アクア・ランス≫」
直後水溜まりになった水分を凝縮し、槍を生成したプレッツェルがステイシーに向かってそれを放ちました。
to be continued...