第6章47幕 準備<preparation>
「アポがとれた」
数分間無言だったアリスがこちらに顔を向けそう言います。
「誰だ?」
「『仁義』のメンバー。名前はカイル・K・カエル。元々『銀の時計』所属の狩人プレイヤー」
「「『銀の時計』?」」
私とエルマが同時に質問します。
「しらんのかい。『銀の時計』言うたらあれやで? 生産系プレイヤーの集合体やで?」
もこちねるが意外そうにそう話始め私にピシッと指をさします。
「特にチェリー! 知ってなあかんやろ? お店やっとるんやから!」
「あ、ごめん」
「まぁええわ。『銀の時計』から『仁義』に移ったちゅーことは討伐もするプレイヤーなんやな?」
「そう。でも個人戦闘力は低い、はず」
「信用ならんけどなー。あのマーリンとかいう奴のアレ見てまうとな」
「あれは例外。すぐ会えるって」
「最初から会うのじゃ駄目だったのかな?」
私の呟きには誰も反応を返してくれませんでした。
「ちわっ! どうもカイルですっ!」
「いらっしゃいカイル」
十数分ほどするとカイルがやってきました。
「だいたい聞きたいことはわかってますよっ! マーリンさんのことっしょっ?」
「そうなんやけど、ちょっとちがうなぁ」
「どゆことっ?」
「マーリンの情報と最近『仁義』に加わったファンダンっちゅー奴のことが知りたいんや」
「あーそういうことっ! おーけーおけーっ!」
そう言ってカイルは一枚の紙を取り出しました。
「これにサインをっ」
もこちねるが受け取ったその紙をちらりと覗き込むと、目が飛び出るほどの金額が記されていました。
「こっちも仲間をうることになるんでそれなりの額はもらいますよっ!」
もこちねるが額に青筋を立てながら私達に顔を寄せてきます。
「なー? この額払えるかぁ?」
そこで初めて確認したエルマとステイシー、マオも驚いて言葉が出ない様でした。
それもそのはず、そこに記載されていた額は10億金。人気都市の一角をまるまる買い取れてしまう金額です。
「無理ー」
「むり」
「むりね」
皆がそう否定すると、もこちねるはため息を吐きながら「そうよなー」と言ってカイルの元へ向き直ります。
「聞こえてたはずやけどもう一度言うで。無理や」
「そうですかっ! ではファンダンさんとマーリンさんにこちらで聞かれた、ということだけはお伝えさせてもらいますねっ! ではっ!」
そう言ってカイルは何某かの転移魔法でその場を後にしました。
「しくったわ。こりゃまずいで」
「そうだね。これはやばい」
もこちねるとアリスが顔を見合わせながらそう言います。
「これは早くリーリも呼び戻さんとな」
そこまで言われた私はこの場にリーリがいないことに気が付きます。
「そう言えばリーリさんは?」
「とある場所にとある情報をあつめに行ったわ」
「場所は言えんけど」ともこちねるは付け足します。
「ごめん。見当がつかないんだけど、なにがマズイの?」
エルマがポカンとした顔でアリスともこちねるを見ます。
すこしあきれた表情をしながらもこちねるが答えようとすると、遮ってアリスが答えます。
「まずこの場にいる勢力は?」
「あたし達が『ヨルデン』だよね。あともこちねるが『ブラルタ』、アリスが『マスティア』」
「そう。つまり、三カ国」
「スパイかー」
ステイシーがそう言うとコクリともこちねるが頷き、アリスが続けます。
「いま来たカイルは多国籍ギルド『仁義』のスパイだった。私達はそこから情報を買っていない。でも、買ったと嘘の情報を流せば」
「うちらがスパイになってしまうっちゅー事や」
もこちねるがそこまで話すと、会話が止まり、のどを潤すお茶をすする音だけが響きます。
「さて、ここで問題や。『ブラルタ』、『ヨルデン』、『マスティア』を敵に回してメリットのある国はどこやろな?」
言葉の外で、どこだかはもうわかっているだろう、と言いながらもこちねるが質問します。
そしてその答えは……。
「『ヴァンヘイデン』」
「そう言うことや。前哨戦が始まるで」
そう言ったもこちねるは何かチャットをし始めたようで、微動だにしませんでした。
「またせたなー」
もこちねるがバッと動き、何やらインベントリから取り出します。
「これを見ー」
渡された紙には、ある程度の予想がされていたのか、浮島のサインと共にチーム分けがされていました。
「あんたらにも参加してもらうで?」
もこちねるはムンバとアリスを見ながらそう言います。
「巻き込まれたもんだからな。仕方ねぇ」
「『マスティア』を壊されて黙っていられない」
「そうや。というわけでチーム分けするで。チェリー、ステイシー、エルマ、マオ、サツキ、いつも通りの5人とうちを入れた6人で主力部隊やな。リーリにはあとで伝えるとして、市街地防衛部隊のリーダーとしてアリス、その補佐でムンバや」
「俺が防衛部隊だと?」
「それが一番効率がいいことをわかっとるやろ?」
「そうだな」
「『なるべく都市の破壊などの被害を出させたくないから早期に迎え撃つべし』って副長は言うてるわけやな」
「無茶をいうねー」
「うちらならできるやろ? このうち4人は大戦争経験者なんやから」
そうですね。マオも一応経験者ですが。
「準備に入るで」
もこちねるがそう言って今度はホワイトボードを取り出しました。
「まずうちら主力部隊のポジションについてや。主力部隊とはなばかりなんよ。実際にやるのは、高レベルプレイヤーの排除や。低レベルの雑兵共は国力で潰すべきや。だからうちらは高レベルプレイヤーとの連戦が想定されとる。気合入れなあかんで」
「でもこの6人で纏めてかかればすぐだよね?」
エルマがもこちねるにそう返すと、首を横に振りながら答えます。
「ちゃうな。複数人来たらどうするんや? 主力部隊やけどどっちかっちゅーと『主力を単騎で滅する』部隊やで?」
「無茶な……」
私がそれに驚き、そう口からこぼすと、もこちねるが笑いながら言いました。
「まじで強い奴は来ーひんから安心しや」
「どうしてそう言い切れるんだい?」
サツキがそうもこちねるに聞くともこちねるは真面目な顔をして答えます。
「そんなん簡単やで。本戦力は戦争まで残すやろ?」
とてもシンプルな理由で、尚且つ、納得できるものでした。
to be continued...
次話9月12日投稿予定です。
しばらくお待ちください。
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