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第6章44幕 人格<personality>

 「アリス久しぶりだね」

 「先月の決闘大会では対戦出来なかったから」

 マーリンが気さくな様子でアリスに話しかけます。

 その様子を見ていた私には、最初アリスが見せていた危惧がよくわかりませんでした。

 ですがアリスが『特にやばい』と言っていた理由がすぐわかることになります。

 「あっ。すいません」

 後ろから走ってきたプレイヤーがマーリンに激突し、よろけた後そう謝りました。

 「おい。いま何をした?」

 私との戦闘後の会話や、今さっきまでの雰囲気とは異なり、背筋がゾクゾクするような低い声でマーリンはぶつかったプレイヤーを問い詰めます。

 「マーリンさん。謝っている事ですし」

 危機を感じた私が間に割って入った瞬間、アリスが顔を背けました。

 あれ? 私何かまずいことをしたかな? と思いマーリンを見ると、文字通り鬼のような形相で私を睨みつけていました。

 「さっき、確かになんでも聞いてくれ。そう言った。でも邪魔をしていいなんて誰が言ったんだ? おい?」

 「え? ちょっと待ってください! どうしちゃったんですか?」

 私が困惑しながらそう言うと問答無用で右の拳が飛んできます。

 「くっ!?」

 私が身体を半身にし、躱すと私の正面を過ぎ去っていた拳が先ほどマーリンにぶつかったプレイヤーの顔に刺さり、デスペナルティー特有の演出が起きます。

 そしてその手は目標を失い、引かれるかと思うと、そうではなく、クルリと向きを変え、私の首を掴みます。

 「それ以上続けるなら、ここは首都だけど僕も本気出すよ」

 「その辺にしておけ」

 ステイシーとムンバがそう言葉で諭したのが気に食わなかったのか、私の首を締める手にさらに力が入ります。

 「ぐぅ……うっ!」

 腹部にあり得ない衝撃を受け、胃の中から何かが出そうになりますが、押さえられた首元から上へは出てこず、死を直感します。

 急速に減るHPと、数多の状態異常を薄れゆく意識の中で確認します。

 「放せって言ってるのが聞こえないのかな?」

 ステイシーが過去最も低い声を出し、魔法を発動します。

 「お前らもうるせぇんだよ」

 ステイシーが発動した魔法を私で防ぎ、私の意識が一回りして覚醒します。

 この……絶対泣かせてやる。

 決闘大会の時、入らなかったどこかのスイッチがカチリと入り、私は足を後ろに伸ばし、腹部を蹴り飛ばします。

 しかしそれでも手は離さず、お返しとばかりに私の頭をを地面に叩きつけます。

 「…………」

 そして私は意識を失い、沈黙しました。


 「チェリー起きろ。〔ハイエリクシル〕でも無理か。くそが。俺は回復はダメだぞ」

 そう話し声が聞こえ、うっすらと目を開けます。

 「気が付いたならそう言え。ステイシーが死んだぞ」

 「……えっ?」

 気絶の状態異常中だったので詳細が分かりませんが、デスペナルティーになったようです。

 目を開け、周囲を確認すると、先ほどまでいた『攻殻都市 マスティア』の闘技場前とは似ても似つかない場所になり果てていました。

 「アリスが言うにはもう一つの人格が出てきちまったらしい。あれはデスペナでもしばらく治らんそうだ」

 インベントリから取り出した上位の〔HPポーション〕を飲み、私は立ち上がります。

 「どうなってるの……」

 「事情は今説明した。手が付けられんほど暴れている。アリスが足止めしているがじきにデスペナだろう。行けるか?」

 ムンバの「行けるか?」という言葉を「戦えるか?」の意味でとらえた私は、コクリと頷きます。

 「俺の銅像は援護だ。銅像は6使う」

 ステイシーとの試合では4つほど用意してきていたようなので、かなり本気に近いものを感じます。

 「お前も近接だ。この中でSTR上渡り合えるのは俺とお前だけだ。俺自身も近接で行く」

 そう言ったムンバがこん棒を取り出します。

 こん棒というには禍々しいそれを見ると、ムンバが自分の手に持ったこん棒を軽く振りながら説明します。

 「こいつは【神器 ユグドラシルの枝】だ。お前が持っている物に比べれば幾分か価値は下がるだろうが、曲がりなりにも【神器】だ。使い方はこうだ」

 そう言って実演してくれます。

 淡い緑色の、蛍のような輝きが【神器 ユグドラシルの枝】を包んだかと思うと、次の瞬間弓と矢に変化しました。

 さらには槍、斧、剣と姿を変えていきます。

 「便利だろ」

 「はい」

 「説明は以上だ。いくぞ」

 そう言って走り出すムンバに隠れるように私も走り出します。


 「っと……そうだ。伝言を忘れていた」

 キュッと音を立てて立ち止まったムンバが私に言葉を告げてきます。

 「酒場で待ち合わせをしている、もこちねるとエルマ、マオは呼ぶな。来るだけ無駄だ。とはいってもこの騒ぎを聞きつけて来ないとも限らないがな」

 「わかった」

 「ならいい。もう少しだ」

 「…………」

 私は無言でついて行きます。


 そこで見たのは、スキルを発動することで相手と同格以上の力を手に入れているはずのアリスが片腕を千切られ、片足を失いながらも戦う姿でした。

 「どんな化け物なんだよ」

 そうボソッと呟いたムンバが銅像を走らせます。

 「脆いんだよ! 砕けろ!」

 拳で殴り、体当たりをしながら銅像を粉々に砕いていきます。

 「ありえねぇ……」

 その場で固まるムンバを置いて、私はアリスの前へと立ちます。

 「時間稼ぎ、せいこ……」

 私が抱きかかえようとすると、アリスはデスペナルティーになり、一度姿を消しました。

 その様子を見た私は、ふつふつと湧き上がる感情を押さえずにマーリンに話しかけます。

 「何がしたいんですか? あなたは」

 「うるせぇ」

 マーリンはそう言いながら拳を振り下ろします。

 「≪マテリアル・シールド≫」

 私は物理障壁を即時生成し、マーリンの拳を押しとどめます。

 「うぜぇ……決闘大会で負けた時も思ったがうぜぇ……」

 直後、私の展開した物理障壁が割れ、直撃しそうになります。

 咄嗟に頭を守ろうと腕を上げると、全身に力が湧くような錯覚を覚えます。

 ガンッという拳と腕とのぶつかり合いには聞こえない音が響きます。

 「間に合ったな」

 札のようなものを持ったムンバが横に立ち、けん制のためか【神器 ユグドラシルの枝】を振ります。

 「ちっ!」

 そう言って一歩、二歩と下がったマーリンと私の間にムンバが立ちます。

 「俺はガードだ」

 そう言ったムンバが【神器 ユグドラシルの枝】を盾のように変形させます。

 「≪アース・エンチャント・フルメタリック≫」

 先ほど私の腕に掛けたであろう≪付与≫を自身の盾にも行います。

 「……もう、いいや……」

 そう呟きが聞こえ、マーリンから爆発的な魔力の上昇を感じます。

 まずい!

 そう思った瞬間私は正面のムンバを踏み台にマーリンに向かい飛びました。

                                      to be continued...

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