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第6章11幕 記憶<memory>

 「おまたせ!」

 リーリがドンッと音を立てテーブルに4つのジョッキを置きます。

 「景気付けに一杯いこうよ」

 そう言ってひと際大きいジョッキを手に取ったリーリが高く持ち上げます。

 それに従い私やステイシーもジョッキを持ち上げます。

 「お姉さんもどうぞー」

 ステイシーがそうジョッキをススッと滑らせるとほんのりと頬を赤くしたNPCもジョッキを持ちました。

 「いいよ。乾杯!」

 リーリは一言そう言うとグビリとジョッキに口を付けます。

 「かんぱーい」

 「乾杯」

 「いただきます。乾杯!」

 そう言って私達もジョッキに口を付けました。


 あまりお酒は飲まないのか、一杯飲んだだけで受付のお姉さんは赤くなってコクリコクリと船を漕いでいました。

 「ステイシー。どうやって連れてきたんだい?」

 「ナンパー」

 「君もよくやるね。一目見ただけで、この女性が年下の、しかも中性的な男の子が好きだと気付いたものだよ」

 しみじみとリーリが言いますが、そんなの見た目とかでわかるわけないじゃないですか。

 「なんとなく目がそう言う目だったからねー」

 「そっか。てっきり≪魅惑の眼(チャーミング・アイ)≫でも使ったのかと」

 「あれは確かにNPCには効果あるけど、そう簡単に使えないよー」

 「ははっ。そうだったね。さて始めるよ」

 リーリはそう言って手袋を装備します。

 「チェリーは見るのが初めてだから少し驚くと思うよ」

 そして手袋を装備した手を、気持ちよさそうな顔で寝始めた受付のお姉さんにかざします。


 『開ケ 開ケ 思考ノ扉ヨ 記セ 記セ ソノ過去ヲ 我ガ精神ヲ供物トシ 全テノ記憶ヲココニ開放セヨ』

 『≪思考開放≫』


 直後、受付のお姉さんの額から数本の光が出現します。

 「これは?」

 私が聞くとステイシーがリーリの代わりに答えます。

 「記憶の柱ってやつらしいー」

 私が頭の上で疑問符の柱を立てていると、リーリが説明してくれました。

 「簡単に言うと種類ごとに分けた記憶の塊だよ。上に行けば行くほど新しいって感じ。よし、終わった」

 「おー。さすがー」

 「ところでステイシーはどうしてこの人の記憶を見る必要があったのかな?」

 リーリがステイシーにそう問います。

 「その子に依頼を出した、もしくは、出そうとした人間に僕は会わないといけない」

 ステイシーがいつになく真面目な声と真面目な表情で言いました。


 「そうだよね。そんな気はしてたんだよ」

 私には分からない情報を何か得た様で、ステイシーは一人頷いていました。

 「どうしたの?」

 「なんでもないよー。じゃぁ『ヨルデン』の案内所に行こう。リーリついてきてくれるー?」

 「もちろんだよ。この件に関しては助力を惜しまない。また姫様が殺されたりしたら寝覚めが悪いよ。次こそは殺される前に止めてあげたい」

 この一件が『海上都市 ブラルタ』の姫君殺害事件と関係しているということをいま私は初めて知りました。


 私達はすっかり寝てしまった受付のお姉さんを宿屋に預け、私の≪ワープ・ゲート≫で『商都 ディレミアン』から『騎士国家 ヨルデン』まで戻ってきました。

 「案内所に行く前に一ついいかな?」

 リーリがそう言ってプレイヤーの経営する商店に走っていきました。

 数分して戻ってきたリーリは大量のTPポーションをまるで栄養ドリンクの様にガブガブと飲んでいました。

 そのまま私達は『騎士国家 ヨルデン』の案内所へと入り、依頼受付カウンターへとやってきます。

 「あー。男性かー」

 「なら任せてくれる?」

 リーリがそう言って自身に≪変装≫を施します。

 「さすがー」

 「任せてっ」

 先ほどとは口調も声の高さも、すべてが変わったリーリが男性職員をナンパしに行きました。

 そしてトボトボと歩いて帰ってくるリーリを見て失敗だったと悟ります。

 「何が悪かったのかな?」

 少し涙目になりながら≪変装≫を解いてリーリが言ってきます。

 「リアル含めてナンパに失敗したことなんてないよ」

 ずっと小声でぶつぶつ言っているリーリをステイシーが慰めています。

 「私が声かけてきてもいいかな?」

 「うんー」

 「ちょっと行ってくるね」

 私は二人に言い残し、受付のお兄さんに話しかけるべく歩き出しました。


 「すいません」

 「はい。なんでしょうか」

 「お聞きしたいことがあるのですが……」

 「なんでしょう」

 「好みの女性ってどんな感じですか?」

 「僕は仕事が恋人なので、強いて言えばお母さんでしょうか」

 「…………」

 「…………」

 こりゃ駄目だ。

 強硬手段しかありませんね。

 「そうですか。すいません変なことを聞いて」

 「いえ。では仕事中なので」

 「はい」


 私は二人の元に戻り、失敗を伝えます。

 「お母さんが好みらしい」

 「それはいい。こうなったら強硬手段だよ」

 私と同様にリーリも強硬手段にでる事を考えていたようです。

 「具体的にはー?」

 「「≪スリープ≫」」

 私とリーリの声が重なり、どちらともなく、くすりと笑いだします。

 「≪スリープ≫なら寝かせる手間が省けるからね」

 「無力化にはこれが一番」

 理由は異なりました。


 先ほどのNPCが仕事を終え、案内所から出てくるのを、張り込みの刑事のような雰囲気で待ちます。

 右手には焼き鳥、左手にはビールですが。

 「チェリーに話さなくていいのかな?」

 ポツリ、リーリが言います。

 「チェリー的には聞きたいんだろうけど、もう少し待ってほしいー。話す前に解決しなきゃいけないことがあるんだー」

 ステイシーの目ははぐらかす様なものではなく、決意の炎を奥に燃やしている様でした。

 なので私は彼が話してくれるまで待つことにします。勿論、個人的には調べますけど。

 「きたよー」

 『眠レ 我ガ歌ニテ≪スリープ≫』

 『睡魔ヨ 我ガ声ニ宿リテ≪スリープ≫』

 私とリーリで詠唱が異なりましたが、効果は大きいです。二人分の≪スリープ≫はさすがにNPCでは耐えられないでしょう。

 パタリと倒れたNPCをステイシーが持ち上げ運んできます。

 「セカンドホームまでー」

 そう言ったステイシーの声を聴いた私はすぐに≪ワープ・ゲート≫を発動しました。


 「ここならだれに見られるわけでもないしー」

 「というか一等国家にこれほどのセカンドホームを持つってすごいね」

 感心したようでリーリは辺りをきょろきょろ見回しています。

 「まぁいろいろあったんだよー。こっち」

 ステイシーがNPCの男性を空き部屋に寝かせます。

 「じゃぁリーリお願いー」

 「わかったよ」

 そう言ったリーリが先ほど『商都 ディレミアン』の案内所で働く女性NPCにしたのと同様に記憶の柱を引き出しました。

 「やっぱりねー」

 「こっちにもいたね」

 私にもしっかりと見えました。

 さっきも記憶の柱で見た男性の姿が。

                                      to be continued...

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