<とある管理者の白河さん 二部>
ば……番外編じゃないからっ!
嘘つきました。
話の順番入れ替えたので、番外編が一つ挟まります。
「えっ?」
突然のアラート音に驚き、私は持っていたマグカップを落としそうになります。
「白河さーん。これまずくないですか?」
部下の新垣が私に言ってきます。
「どれがかな?」
私は平静を装い立ち上がり、新垣の元へと歩いていきます。
「これです」
彼の画面を覗き込み、私はハッと息を飲みます。
「どうしたんですか?」
「〔オブザーバーボスモンスター〕が敗北したってことだよ!」
「そうなんですか?」
「うん。メッセージ自動送信する準備しないといけないか。新垣君私のパソコンに転送しておいて。代わりにモニターお願い」
私は新垣にそう言い残し、自分のデスクへと戻りました。
『お知らせ』
『[Multi Game Corporation]<Imperial Of Egg>運営部門、部門長白河美華夏と申します』
『この度、弊社の<Imperial Of Egg>に於きまして、キャラクター名『チェリー』様が規定に到達したことをお知らせいたします。後日詳細を電子データでご自宅に送付致します。』
『これからも<Imperial Of Egg>をよろしくお願いいたします。』
これでよし。三人分のメッセージを作成し、私は息を吐きます。
まさかこんなに早く〔オブザーバーボスモンスター〕と都市戦を行うグループがいるとは思いませんでした。
私がマーカーを付けたプレイヤーがいるパーティーの様で少しうれしくなります。
しかし、さすがにこれは社長にも報告が必要ですね。
そう言って立ち上がろうとした私は、再びアラート音にビクッとします。
今度は自分のパソコンからなったアラート音を確認するため、画面を覗き込みます。
「はっ?」
先ほど新垣のところで見たのと同じ画面が表示されます。
詳しく情報を見ると、こちらも〔オブザーバーボスモンスター〕との都市戦で勝利したプレイヤーがいたという内容でした。
短期間で二グループも〔オブザーバーボスモンスター〕に勝利するのは本当に驚きです。
先ほど作成したメッセージのキャラクターネームのところを変更し、規定を満たしている二名に自動送信の準備をします。
「最上社長。入ってもよろしいですか?」
「どうぞ」
ノックを三回して問うとすぐに応えが返ってきたので私は扉を開け、社長室に入ります。
「同時期に累計5名の候補者が規定に達しました」
私がそう話すと最上社長は椅子に浅く座り、デスクに両肘を付き前のめりになります。
「ほう。早いじゃないか。社員が情報を漏らしたとかかな?」
「それはないでしょう。如何しますか?」
「ん? 自由にしていいよ。元々の取り決め通りの対応さえしてくれれば」
「分かりました。では予定通り規定を満たしたプレイヤーが現れましたので、候補者全員とその仲間に招待メールを送ります」
「任せたよ。じゃぁ俺も準備しないとだね」
「お願いします。日程は如何いたしますか?」
「来週末でいいんじゃないか?」
「かしこまりました。では明後日、通達を行います」
「よろしく頼むよ」
「はい」
私が返事をすると、最上社長が再び椅子に深く座ったので、退室します。
社長室を出ると、鐘がなり、15時を告げます。
「もう15時だ。美華夏ちゃん小腹空かない?」
「わぁああ! 真奈美! 驚かせないでよ!」
解く全背後から掛かった声に驚き、私は地面から飛び上がります。
「おほん。ちょっと空いたかな。お昼まだだし」
「ちょうどよかった。外にできた新しいお店行かない?」
「いいよ」
「社員通用口で待ってるね」
「うん」
そう言い残し歩き出す真奈美と逆の方向へと歩き出します。
お財布無いと何も食べれないですからね。
自分のデスクの下に置いてある鞄から財布を取り出し、私は社員通用口へと向かおうとします。
「飯ですか? いってらっしゃい」
後ろから新垣の声が掛かったので、振り向いて「いってくるね」とだけ返事をしておきます。
「おまたせ」
運営部門から社員通用口はそれほど遠くなく、すぐに到着しました。
「じゃいこ」
警備員に社員証を見せずに真奈美は出て行きました。
「真奈美! 書類書かないと!」
「大丈夫。書いておいたよ」
「ちゃんと狩谷さんが提出してくれたので出て大丈夫ですよ」
警備員の男性にもそう言われたので、私もすぐに真奈美を追いかけます。
「先に言ってよ。びっくりするじゃん」
「日々、驚きは大切だよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「このお店なんだけど」
真奈美が足を止め看板を指さします。
『和食 久留麻屋』というお店で、つい最近オープンしたお店です。
噂ですと、<Imperial Of Egg>で【王室料理人】を獲得したプレイヤーが現実で開いたお店だそうです。
真奈美が扉を開け、入ります。
「いらっしゃいませ」
外装は純和風で、老舗のような風格がありましたが、内装は現代日本に合うものにされ、SNSで人気を博している理由が分かります。
「お二人様ですね。あちらのテーブルへどうぞ」
「ありがとうございます」
「こちら緑茶とお品書きでございます。ご注文お決まりになりましたら、テーブルに内蔵された端末からご注文下さい」
ウェイターがそう言ってお品書きと緑茶を置いていきます。
最近のお店ですと、メニューなどはなく、端末で全て完結されてる場合が多いのですが、あえてこのお店はそうしてない様ですね。
「全部ヘルシーなんだって。私、煮付け定食」
「じゃぁ私は半うどんに鮭半定食にしよう」
「またうどん?」
「好きだからね」
いつものようなやり取りをしつつ端末を操作します。
そして注文が完了したという音が鳴り、同時に真奈美が口を開きます。
「さっき社長室での会話聞こえちゃったんだけど」
「まぁ真奈美なら聞いても平気な内容だしね」
「うん。もう達成した人が出たんだって?」
「そうなんだよ。5人」
「5人? 多すぎじゃない? 一つのパーティー?」
「ううん。二つのパーティーだったよ」
「そっか。あれちょっと待って? 〔オブザーバーボスモンスター〕って通常は狩場の独占じゃないと出ないんじゃなかった?」
「そうなんだよね。どっちも少人数で勝利したみたいだから。何か抜け道でもあるのかな?」
「それは広報の私にはわからないよ」
「それもそうだね」
「ってことは礼のあれやるんだよね?」
「今週末にするみたい」
「はぁ……。今日から一週間帰れなそうだよ」
「かもね。私も家には三週間帰ってないよ」
私達がそう会話をしていると、注文した食事が到着します。
「おいしそう」
「ね」
「「いただきます」」
無心で食べ、この後に待つ業務を考えて疲労の溜まった脳に、幸福を与えます。
その後は他愛もない恋愛話をし、私達は職場へと帰ってきました。
「じゃまたね」
「またね」
広報部門と運営部門は逆方向なので社員通用口を抜けてすぐに真奈美と別れました。
すぐにデスクに戻り、残していた業務を再開します。
『招待状』
『プレイヤーの皆様に於かれましては平素より、当社の製品を遊んでいただき真に感謝致します。』
『当社はかねてより皆様の冒険を応援して参りました。今では最大級のゲーム会社となった当社より、そのお礼といたしまして懇親会を開催することに決定いたしました。』
『開催日は今週末、[Multi Game Corporation]本社にて行います。』
『交通費や宿泊費などもこちらで負担させていただきますので、ご都合よろしければご参加ください』
候補者29人とその仲間達、合わせて71名のプレイヤーに先ほどのメッセージと所在地の詳細やチケットなどを含めた電子データを送る準備をします。
「やっと終わった。すいません。今日はお先に失礼します」
「早いね。何か用事?」
「ええ。まぁ。また明日よろしくお願いします」
「はい。お疲れさまです」
新垣が帰り、他の運営部門の社員たちもちらほらと帰り出した頃、私のパソコンにメッセージが届きます。
『至急開封』
『〔オブザーバーボスモンスター〕について』
『狩場占領状態以外にも発生条件があると報告された。』
『〔オブザーバーボスモンスター〕発生予定地のモニターを強化、条件を判明させること。』
それを読んだ私は、今日も帰れないな、と思いながら過去データの閲覧を始めました。
<とある管理者の白河さん 二部完>
明日の投稿から視点がチェリーさんに戻り、本格的な第6章へ入ります。
というか考えた挙句、ここにこの話を持ってきました。
第6章10幕とかでやろうと思ったのですが、たぶんこちらの方が読みやすいと思いまして。
あとちょうど2ヶ月前の5月20日に一部のほうやったのでキリがいい感じがしまして。