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第5章37幕 治療<treat>

 「そう言ってもらえると思っていたよ。これが詳細ね」

 そう言ってジャイナスが一枚の紙を放ってきます。

 「わわっ!」

 地面に落ちる前に何とかエルマが拾い私達が覗き込みます。


 『〔煉獄龍 ヴォルカイザル〕』

 『〔煉獄龍 ヴォルカイザル〕は火属性、土属性、風属性を攻撃に用いる。物理防御の高さと上記三属性の完全無効化を持っていると考えられる。また、≪ブレス≫も扱う事が報告されており、高位の龍であることがうかがえる。討伐に際し、外の者を増援として要求したい。』


 「なるほどねー。三属性の龍かー」

 過去に一度、六属性を扱う龍を八人で討伐しましたが、三属性ならばその時よりは楽ができそうです。

 「名前からの推測だが、土属性と風属性はおまけだろう。火属性の威力は高いだろうからね」

 サツキも思ったことを述べます。

 「となると確実にダメージを通せるのは私の闇魔法とステイシーの水魔法か。雷は減衰あると思うし。エルマも水属性の精霊で行く?」

 「そうしようかな。あたしとサツキは属性の変更は都度できるし、そこまで意識しなくても大丈夫かな。問題はマオだよね」

 「今回は、壁、でいい、わ」

 少し不服そうですが、マオが扱える属性は風だけなので今回は我慢してもらいましょう。

 「相談は終わったかい?」

 「ええ。軽くですが」

 「できればすぐに出発してもらいたい。こちらで用意した討伐部隊が壊滅寸前だよ」

 さすがに急すぎですね。でもNPCがなるべく多く帰還できるようにするためには仕方りません。

 ちらりと皆の顔を見ると、同じ考えだったようで、頷いてくれます。

 「分かりました。場所を教えてください」

 「いや。兄さんが連れて行くから心配しないでいい」

 そうジャイナスが言うとドヤ顔でレクレールがこちらを見てきます。

 「では案内をお願いします」

 「ああ。そんなに遠くない。いくぞ」

 総隊長室から出て行くレクレールに続いて私達も総隊長室を後にします。


 「急な話ですまんな。こっちも結構切羽詰まっていてな」

 「他の都市や国に増援を……あっ」

 増援を出したところで、外の人がたどり着けないですね。この『無法地帯 ヴァンディーガルム』の仕様をすっかり忘れていました。

 「どうした?」

 「いえ。なんでもないです」

 「倒せると思うか?」

 とても真剣な声でレクレールが聞いてきます。

 「それは……」

 保証できません。私がそう言おうとするとサツキの声が重なります。

 「できるできない、ではないよ。やるんだ。そのために、向かっている」

 相変わらずかっこいいじゃねぇか。私も少し気合を入れなおしましょう。


 「この先の山を上ったところだ。一応俺も軍部の連中の撤退支援のため登るぞ」

 『無犯都市 カルミナ』から徒歩20分ほどのところにあった岩山に到着した私達にレクレールがそう言います。

 「分かりました。できる限り撤退も支援します」

 そういうのは割と得意分野なので。

 そう伝えレクレールの後を続いてよじ登っていきます。

 しかし、少し上ったところでレクレールが呟きました。

 「おかしいな」

 「何がですか?」

 何がおかしいのか分からず聞き返します。

 「戦闘音がしない」

 「あっ」

 言われて気付きました。戦闘音がしないということは……。

 考えるのはやめにしよう。

 「大丈夫ー。数人生きてるよー。すぐ助ければ何とかなるー。チェリーと僕はまず治療でー」

 「わかった」

 後ろを登っていたステイシーに振り向きながら返事をした私は下を見る形になってしまいました。

 「!?」

 思ったよりも高く登っていた事に私は足がすくみ、身動きが取れなくなります。

 「チェリー?」

 私の横を登っていたエルマが私が登るのを止めたのに気付きこちらを振り向いてきます。

 エルマはバッと正面に向き直り、私と同じくプルプルし始めます。

 「不用意に下を見るからだ。まったく」

 レクレールが呆れ半分でそう言ってきます。

 仕方ないじゃないですか! ステイシーの声が下から聞こえてきたんですから!

 震える身体にに喝を入れ、再び登ろうとしますが、思うように身体が動きません。

 すると隣に並んだステイシーが「とんだらー?」という素晴らしい助言をくれたので早速実行に移します。

 「≪グラビティーコントロール≫、≪リバース・マジック≫」

 そろそろこれも使い慣れてきたので【魔法制作】に保存しておきたいですね。

 名前に悩みますね。フロート……じゃ浮き輪ですね。浮遊……。フライ……チェリーフライ? いい名前が出てきません。

 ふよふよと浮かび上がる途中でエルマとマオをがっしり掴み、ついでに浮いていきます。

 あっ。フローティングってちょっとカッコよくないですか? いいですね。これにしましょう。

 【魔法制作】に≪フローディング≫という名前を付けた≪グラビティーコントロール≫と≪リバース・マジック≫の合わせ技を保存し、楽に発動できるようにしておきます。

 ふよふよと浮き上がっていると急にペースが遅くなり、ちらっと下を見ると素知らぬ顔でマオの脚をサツキが掴み、エルマの左腕にステイシーが捕まっています。

 「ちょっとまって! 落ちちゃう!」

 私の悲鳴に呼応するかのように岩山の上部から鳴き声が聞こえてきました。

 「チェリー今のって……」

 「あぁ。絶対馬鹿にされたな」

 「酷すぎ。絶対許さない」

 少しMPを多めにつぎ込み、なるべく早く浮上します。


 『無犯都市 カルミナ』から岩山までにかかった時間よりも岩山を登る事に時間を多く費やしてしまいましたが、私達はなんとか頂上までたどりつくことができました。

 「あっ!」

 無残にも食い殺されたNPCや、四肢の一部や全部を失い息も絶え絶えになっているNPCが頂上には転がっており、一瞬言葉を失います。

 「チェリー! 治療! そこの人はまだ生きてる!」

 ステイシーが指をさしたNPCはすでに右腕と右脚を失い、腹部から大量の血を吹き出していましたが、確かにまだ息があります。

 そこに向かって駆け出した私はすぐに治療を開始します。

 「≪オーヴァー・キュア≫、≪オーヴァー・ヒーリング≫」

 二つの聖属性魔法で≪部位欠損≫を治療し、HPを回復させると呼吸が落ち着きました。

 「エルマ。この人を安全な所まで!」

 「わかった!」

 「手が足りない! ≪ホーリー・ドール≫!」

 聖属性魔法で自分の分身を作り出し、遠くにいるNPCの治療をさせます。

 私の本体は本当にやばそうな人を治療して回ります。

 一刻を争う程ギリギリのNPCを発見し、急いで向かいます。

 「間に合う!」

 私がそう呟きながら手をかざすと、急に手元が影に覆われ、暗くなります。

 「えっ?」

 手を止め上空を見上げると、そこには大きな龍が飛んでいました。

 『ギャルアアアアアアアアア』

 めちゃめちゃ怒っていらっしゃる〔煉獄龍 ヴォルカイザル〕がお目見えです。

 私が認識すると〔煉獄龍 ヴォルカイザル〕が一気に高度を落とし、私達に突っ込んできます。

 「あぶない! ≪マテリアル・シールド≫っ!」

 反射的に叫んだ私は、物理障壁も展開しました。

 「≪マテリアル・シールド≫」

 ステイシーも物理障壁を展開してくれます。

 「早すぎるっ!」

 それでもこの速度で突撃されたら、間違いなく砕けます。

 何か手はないの!?

 祈りにも似た私の心の声が聞こえたのか分かりませんが、サツキとマオが動きました。

 「こういう時こそ≪銃衝術≫の本領をみせるときかな?」

 「≪エア・クッション≫」

 マオが空中に風属性魔法で大きな箱を作りクッションにします。

 風魔法でダメージはないかもしれませんが、空気の壁ができれば必然と速度も下がるでしょう。

 するとその直後、予想通りに〔煉獄龍 ヴォルカイザル〕がマオの≪エア・クッション≫に突っ込み、一瞬速度が遅くなります。

 「流石だ。風魔法は便利だね。行かせてもらおう」

 エルマに向かってジャンプしながらサツキが言い放ち、そのサツキの脚をエルマが蹴り上げます。

 「いっけぇ!」

 「ナイスだ」

 サツキ一人の跳躍では届かない場所へエルマが飛ばし、サツキが≪銃衝術≫を使用します。

 「≪衝殺波≫」

 右手の魔銃が緑色に発光し、その魔銃が〔煉獄龍 ヴォルカイザル〕の左腹に当てられます。

 ズンという地面を揺らす音が鳴った直後、私とステイシーの物理障壁の正面から外れ、〔煉獄龍 ヴォルカイザル〕は頂上から姿を消しました。


 「堅すぎるね。≪衝殺波≫でも手ごたえがほとんどないよ」

 スタッと着地したサツキがそう言います。

 「治療に戻らなきゃ!」

 展開していた物理障壁を解除し、先ほど治療しようとしたNPCを再び見ます。


 「許せない」

 私は一言呟きました。

 大方の治療が終わり、何とか数人だけは助けることができました。

 しかし、あのタイミングで〔煉獄龍 ヴォルカイザル〕が襲ってこなければ助けることが可能だったNPCもいました。

 「皆、力を貸してくれる?」

 私は自分の心を落ち付ける為か、そう皆に聞いていました。

 「当たり前だよ」

 「もちろんー」

 「無論だ。そのつもりで来たんだからね」

 「やれることは、少ないかも、しれない、わ。でも、頑張る、の」

 ふっ……。やはりまだ私は弱いですね。

 さて、とっととぶっ倒して、報酬を貰いましょう。

 それがNPCの供養になりますから。

                                      to be continued...

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