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第4章25幕 ペンダント<pendant>

 「引き渡せ? ちょっと強引なんじゃないかい?」

 サツキが少しお怒り気味でそう言います。

 「貴殿らは……そうか観光客か。なおのこと関係ないな。さぁその子をこちらに寄越せ」

 するとその女の子が泣きそうな顔でサツキの服を掴み、震えていました。

 「エルマ、ステイシー」

 私は横にいたエルマとステイシーに声をかけます。

 「どうするべきだと思う?」

 「僕にはなんともー。でも帰りたくない病が発症してるから、何か事情があるのかもしれないねー」

 「うん。あたしもそう思う。とりあえずいま返すのは良くないと思う。宿屋かどこかに連れて行って、お母さんに来てもらおう。それで事情が聞ければ」

 「そうだね」

 私はサツキの横まで歩き、兵士に話しかけます。

 「そちら側の事情はわかりません。ですがこの子の反応が普通ではないことはわかります。近くの宿に入っていますので、そちらにこの子の保護者を呼んでもらえますか?」

 「なんの権利があって観光客ごときが、城仕えの兵士にその口を利く?」

 「あっ申し遅れました」

 私はそこでインベントリからローブを取り出し、羽織ります。こういう時は使っておくべきでしょう。

 「『騎士国家 ヨルダン』所属、王族騎士……です」

 名前も告げようと思ったのですが、気恥ずかしさから声が出ませんでした。

 「王族……騎士……? た、確かにその紋章は『ヨルダン』のものだが……にわかには信じられんな」

 「事実ですので、信じてもらわなくても結構です。貴方も大事にはしたくないでしょう。この子の保護者に宿で待っているとお伝えください。あ、そうだ。この町で一番大きな宿はどこですか?」

 私はそう兵士に問います。

 「この道をまっすぐいった先に大きな噴水がある。そこを左に曲がり少し行ったところに『ジェニー』という宿屋がある。そこだ」

 「ありがとうございます。ではそちらで待っていますので」

 そしてエルマの方に向きなおし、兵士にお聞こえるように告げます。

 「エルマ先に行って部屋を押さえてくれる?」

 「しかたないにゃー。んじゃ先行ってるよ」

 「サツキも行くよ」

 「あ、あぁ。すまない。一瞬我を忘れてしまった」

 「気にしないで。とりあえずお姉ちゃんたちとお宿にいこっか」

 前半はサツキに、後半は少女に言います。

 するとコクコクと頷いて、サツキの服を握ったまま歩き出しました。

 

 先に到着していたエルマが、無事部屋を押さえたようで、両手を頭の上にあげ、丸を作っています。

 人が少ないのできっと取れると思ってました。

 「ありがとう」

 「気にするない。人数分押さえたけどどうする?」

 「とりあえず、この子に一番いい部屋をあげて」

 「わかった。保護者さん来るかな?」

 「多分来るよ。来なかったらどうしよう」

 「その時はワタシがもう一度交渉してくるよ」

 「物理で交渉?」

 エルマがニヤニヤしながら聞きます。

 「残念ながら、物理あまり使えないからね。スキルが無いんだ」 

 「そっか。≪銃格闘≫とか取らないといけないね」

 「実のところ、さっきの店で探したんだが無くてね。『アクアンティア』では一般的ではないのかなと思っていたところだ」

 「じゃぁ【称号】取るのは?」

 「それもいいんだが、条件がわからなくてね」

 「じゃぁ調べて、後で試してみよう。あたしで良ければ付き合うよん」

 「じゃぁお願いしよう。とりあえず一度宿屋の部屋に行こうか」


 6部屋押さえていたうち一番いい部屋を少女に割り振り、サツキが連れて行くそうで、階段を上っていきました。

 残った私達はどこの部屋でもよかったので適当に割り振り、鍵を分けます。

 鍵を受け取った私はカウンターに立っている女性に声をかけます。

 「先ほど赤いコートを着た人が連れて行った女の子がいますよね。あの子の保護者が来るかもしれないのでもし来たら私の部屋まで呼びに来てもらってもいいですか?」

 「かしこまりました。ではその時お部屋にお呼びに参ります」

 「お願いします」

 会話を終え、私も部屋へと向かいます。


 こちらの都市でも家具は生きているようで、勝手に鍵が開けられ、扉が開きます。本当に便利ですね。

 部屋に入り、自然と開いたカーテンから外を見ると、湖が一望でき、右手に城が、左手のずっと遠くにネオンがピカピカ光ってる部分があるのが見えました。

 あの店ほんと目立ちますね。


 一度ログアウトしてリアルで用を済ませ戻ってきました。

 あまり長く留守にするのは怖かったので、トイレとスティック状の栄養食を食べ戻ってきました。


 『チェリー。ちょっといいかい?』

 そうサツキから個人チャットが送られてきました。

 『ごめん。一瞬リアルに戻ってた。なに?』

 『保護した子の話なんだが、ちょっと上って来てくれないか?』

 『ん? わかった』

 

 チャットを終え、言われた通り、上の階にへと登ります。

 先ほど鍵を分けた際、少女の部屋は最上階にしてあったので迷わず到着しました。

 コンコンコンと扉をノックします。

 「あぁ。今開ける」

 そう中からサツキの声がし、扉が開きました。

 「お邪魔するね」

 私は部屋の中へと入ります。

 ちらりと内装を見ると一番いい部屋というだけあって、湖側の壁は全てガラス張りになっており、どこからでも美しい湖を見ることができる部屋でした。

 「それで話って?」

 私はそうサツキに話しかけます。

 「あぁ。これを見てくれ」

 サツキは手に持っていたペンダントを渡してきます。それを受け取り、私はじっくり見ます。

 ペンダントというよりはロケットに近いようで、開けると一枚の写真が出てきました。

 その写真は家族で撮ったと思われる写真で、父親、母親、男の子、女の子が写っていました。

 女の子はこの子で間違いなさそうです。

 お母さんはあの城で女中をしているということでしょうか。

 「父と兄は『エレスティアナ』の中心都市に連れていかれたそうだ」

 「さっき言ってたね」

 「ここ最近、とても増えているそうだ」

 「なるほど……」

 「もどかしいね。ワタシたちじゃ何もできない」

 「そうだね。できることはこの子の保護者に話を聞くくらい、か……」

 「あぁ。そうなる」

 ロケットを女の子に返し、私は一度部屋に戻ろうと思ったのですが、宿屋の一階で待っている方がいいかなと思い、そのまま一階へと降りてきました。

 軽いバーのようなものがあったのでそこに座ります。

 少しならいいですかね。

 「軽めのお酒をお願いします」

 「かしこまりました」

 すぐにグラスが出されます。

 「これは?」

 「ワインを精霊水で割ったものに蜂蜜を加えています」

 「へぇ。ではいただきます」

 そう言って一口、二口と飲んでいきます。

 軽めのお酒というよりほぼジュースですが、果物の香りと蜂蜜の香りがマッチしていてなかなかおいしいです。

 すると隣の椅子が引かれ、見覚えのある人が座ってきます。

 「すとろんぐ、あるこーるをぷりーずね」

 「ねおんさん。こちらにお泊りなのですか?」

 「のーのー、よ。みーのほーむはここからすこしうぉーくしたとこね」

 出されたお酒をすぐに飲み、そう答えてくれます。

 「お店で寝泊まりはしないんですか?」

 「いえすいえす。もともとそこですりーぷしてたね。でもすたっふがふえて、すりーぷがのーね」

 なるほど。

 「最初はてっきり外国の人だと思ってました」

 「そのこたえはいえすよ。みーはにほんじんじゃのーね」

 「えっ?」

 めっちゃ流暢に日本語しべったじゃないですか!

 「みーのふぁざーが、おりんぴっくだいひょうだったね。それでにほんにかむしてどはまりよ」

 あー。東京オリンピックですか。当時6歳くらいでしたが少し記憶にあります。

 「当時6歳だったのであまり良くは覚えてないです」

 「おー。ならみーとせいむね。みーもしっくすだったよ」

 まさかの同い年だった。

 「ではそれから日本に?」

 「のーのー。それからはりゅうがくでしか、ごーしてのーよ」

 「それであのレベルの日本語が話せるのはすごいです」

 「みーのふぁざーがほーむでもにほんごね! いってからずっとにほんごだけになったよ」

 「なるほど」

 「普通のしゃべり方のほうがいい?」

 「急に戻さないでびっくりした」

 「そーりーそーりーね」

 「ロールプレイですから好きなようにすればいいんです」

 「ぐっどなかんがえね」

 「ところでどうしてこのバーに?」

 「えぶりでいよってるね。かえりみちつかれるからここでいっぷくよ」

 「なるほど。もうひとつ聞いても?」

 「うぇるかむよ」

 「どうしてこの『アクアンティア』はひとがすくないのでしょうか」

 「いーじぃいーじぃよ。せいじんするとつれてかれちゃうね」

 「『エレスティアナ』にですか」

 「いえすいえすよ。むこうはめいんだからね」

 「なるほど」

 「だからそうならないようにみーのすとーでわーくしてもらってるね」

 「やさしいんですね」

 「親と離れる辛さは分かっているから」

 そう日本語で、寂しそうに告げるねおんの横顔に私は何も言えなくなってしまいました。

 「どりんくふぃにっしゅだから、ごーするね。またみーとね」

 「ええ。また会いましょう」

 そう言って自分の分を支払い帰っていきました。

 あれだけの腕を持つ武器職人でありながら、とどまり続けている理由が少し分かった気がします。


 からんと音が鳴り、一人の女性が入ってきました。

 そしてカウンターの方へ歩いていき、話しかけます。

 「うちの娘がこちらにいると聞いてやってきたんですが」

 彼女の母親のようですね。では行きましょうか。

 バーカウンターにお代を置き、私は彼女の所へと歩いていきます。

                                      to be continued...

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