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特別篇 <新元号>

特別編です。

個人的な解釈を含みます。

 「君は覚えているかい?」


 そう彼女は向かいの女性に告げた。


 「なにが?」


 もちろん問われた彼女は、何のことだかさっぱりわからない、といった様子で返事をする。


 「元号が変わった時のことさ」


 問われた彼女は、合点がいった、という様子で頷いた。


 「覚えてるよ。初めて元号をまたいだんだもん」

 「無論ワタシもそうなんだけどね。ふとそのころを思い出したよ」

 「どうして?」

 「今日が、新元号として令和が発表されてからちょうど十七年経つからだよ」

 「そう言えば、今年でもう令和十七年か。そう考えると早かった」


 二〇十九年、四月一日、その新元号は発表となった。当時物心が付いていない子供でも知らない人はいないだろう。


 「君は何年生まれだったけ?」

 「私は二〇十四年生まれだよ。二〇十四年の一月二十三日」

 「あぁ。そうだったね。ワタシより二つ年下なんだった」

 「忘れてたの?」

 「忘れてないさ。でも君と話していると、どうも年下って気がしなくてね」

 「ひどい」

 「気にすることじゃないさ。落ち着いてみられるのはいいことだよ」


 うまく丸めこまれたようにも見える彼女は、再び質問する。


 「どうして急にそんな話を?」

 「難しいことはないよ。ただ今日はエイプリルフールだからね。当時、小学二年生になったばかりのワタシは、親に騙されてね。別の元号を教えられ、漢字を練習させられたものさ。君はそういう経験はないかい?」

 「うーん。あまりエイプリルフールで騙されたことはないかな」

 「そうか。君の周りはみんないい人だったようだ」


 乾いた笑みを浮かべ、彼女はそう告げた。


 「ところで元号が初めて日本の古典から選ばれたのは知っているかい?」

 「もちろん。毎年のように勉強させられたよ」

 「そこはみんな同じようだね。では質問しよう。今までの二百四十七個の元号は何故、中国の、それも古典から取られたのかわかるかい?」


 笑みを不敵な物へ変え、彼女は問う。

 少し、考える、というより、思い出す仕草をした彼女は答えを噤む。


 「たしか……。日本の漢字は読みから派生したもので言葉自体の意味が薄いからってきいたことがあるかも」


 少し不安そうな声で彼女は答える。


 「ふふ。それも一説としてあるね。ではワタシが習った物を教えよう」


 もったいぶる様子でなかなか離し始めない彼女は何処からか聞こえてくる、ごくり、という音を聞き届けてから話し始めた。


 「当時、あぁ、元号というものが世界に生まれた時という意味だけれど、中国が世界の最先端で世界の共通語は漢字だ、と我が国は認識していたね。無論、その時の世界に今でいう英語圏等は含まれていなかったわけだけれど」

 「うん」

 「明治維新の時、我が国が欧米の国家システムを模倣したのと同じことだよ。その当時、我が国も最先端であると見せるために中国のシステムを借り受けたわけさ。無論これも一説なんだけれどね」

 「こういうものは諸説あってなんぼだから」

 「君は、良くも悪くも、リアリストだね」

 「ほめてる?」

 「そう言うことにしておいてくれ。っと。ワタシが言いたいのはその先だよ」

 「その先?」

 

 そう問いかける彼女は首を少し左に傾け、疑問を持っていることを強く主張した。


 「この『令和』という元号の一字一字を読み解いていこう」

 「あっ。この年になって学生みたいなことは……」

 「なに。固くなることはないさ。持っている知識をひけらかしたい、ワタシの自己満足だ。軽く聞いてくれたまえ」

 「わかった」

 「やけに素直だね。ではまず『令』という漢字だ」

 「うん」

 「この漢字には大きく分けて、五つの意味がある。まず一つ目だね。命じる。これは命令という言葉でとても分かりやすいね。二つ目は、おきて、だね。法令が一番わかりやすいだろう」

 「わかりやすい」

 「そのメモを取る姿勢、ワタシはとても評価するよ。実際取っているかは画面越しだからわからないけれどね。三つ目。おさ。中国古典だと、よく県令さんとか言うだろう。それと考えてくれていい」

 「あぁ。そう意味だったのか」

 「一つ、覚えたね。四つ目。りっぱ。令色。これもわかりやすい。そして最後の五つ目だ。他人の親族等に対する敬称。令嬢が一番しっくりくるかな」

 「あー。悪役令嬢!」

 「そうだね。その令嬢だ」

 「なるほど」

 「では改めて聞こう。元号の『令』はどれだとおもう?」

 「んー。やっはり四番目かな? 他はマイナスの意味に捉えちゃって」

 「ふむ。国民皆そう考えるだろうね」

 「じゃぁあなたは?」

 「ワタシかい? 無論私も四つ目だ。でもね」


 そう言って言葉を切った彼女は少し伏し目がちで続きを吐き出した。


 「五つ目もあながち間違っていないと思うんだ」

 「どうして?」

 「それは我が国の象徴足る、天皇様がワタシ達皆を親族だと思ってくれていると考えられないかい?」

 「あぁ。なるほど」

 「こちらからも親族だしね。そして約二百年ぶりの生前退位を決断したことに対する最大限の敬意も含まれているんじゃないかなって思うんだ」

 「あなたは見方がちがうね。作家だからかな?」

 「いや。それは関係ないさ。ただ私がそうであってほしいと考えただけだよ。ワタシはそこまでできる人間じゃない」


 多少照れ臭いのか早口で言い終えると、少しの間が開き、続きを語り始めた。


 「じゃぁ二文字目の『和』についてた。とても短期間での再登場になったわけだけれど。こちらには七つ……いや六つほど意味があるね」

 「そんなにあるんだ!」

 「少し考えたらわかるさ。わかりやすい所だと日本という意味があるね。まず一つ目だ」

 「そうだね。のどかって意味もあるよね」

 「無論だ。それを二つ目としよう。ではあとの四個はわかるかい?」


 頭の中を整理するためか、問われた彼女は指を顎に当て、少し考える。


 「なかよくする?」

 「すばらしい。平和の『和』だね」

 「あとは……あっ! 調和!」

 「うん。それもあるね」

 「……。まぜる?」

 「中和の『和』がそれにあたるね最後の一つは出てくるかい?」

 「んー。ちょっとわからない」

 「簡単だよ。総和。二つ以上の数を加えたものさ」

 「あぁ!」

 「つまりだ。この『令』と『和』から読み取れる意味は、『皆が手を取り合い、美しく心寄せ合う中で、文化は生まれ育つ』と言われているし、解釈できるね」

 「そうだね」

 「平和であり、四季に恵まれた現代だからこそ選ばれた元号であるとも言えるね。じゃぁここで少しアプローチを変えてみようか」

 「えっ?」

 「この令和というのは万葉集から引用された言葉らしい」

 「授業で習った」

 「そうだろうとも。万葉集巻五、梅花の歌三十二首の序文からの引用だね」

 「詳しい」

 「これでも作家の端くれだからね。『初春の令月にして気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫らす』序文だけでも美しいのだけれど、またこの三十二首は四季折々の日本が歌われていてね。まさに日本の美しさを体現しているとっても過言ではない。ということだよ。令月には、何をするにもよい月という意味があるし、」

 「うん」

 「長くなってしまって申し訳ないんだけれど最後に一ついいかい?」

 「いいよ」

 「『令和』を無理やり漢文として読んでみると、『わをせしむ』と読めるんだ」

 「漢文とかちんぷんかんぷん」

 「漢字に込められた意味を考えればさほど難しくないよ」

 「そっか」

 「ワタシ達は、そう生きてこれたかな?」

 「んー。生きてこれたと思う。それは断言できるよ」

 「どうしてそう言えるんだい?」

 「だって……」


 その返事を聞いた彼女は、驚いた顔をして、すぐに笑みを浮かべた。


 <特別編新元号完>

個人的な解釈で申し訳ございませんでした。

色々考えられるなぁと一人で頭をひねっておりました。


問題があれば削除いたします。


余談。

令和を『R』と記載するのであれば、、R1生まれだと明治になってしまいますね。

R18生まれの人は18禁の暖簾とかくぐれないですよね。

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