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第4章11幕 会合<assembly>

 謎の逃走からステイシーが戻ってきました。

 「ステイシー、別に逃げなくてもいいんじゃない?」

 「なんていうか、癖ー?」

 「そっか」

 「諸君! おまたせ! おや。始めましてのお嬢さんがいるようだね」

 そう言って<窓際の紫陽花>のルームへログインしてきたサツキが、一本のバラを手品のように取り出し、愛猫姫に渡します。

 「ふふ。ありがと」

 「その笑顔の虜になってしまいそうだ。っとステイシーもいるみたいだね」

 「いるよー。サツキー。おひさー」

 「あぁ。久しぶりだね。向こうに比べて少し男っぽいようだ。とはいってもVR化前の記憶だからね。美しい少年として記憶に刻まれているよ」

 「んー。相変わらずだねー」

 「そうかい? ところでみんなお揃いでどうしたのかな?」

 「もうすぐ、第二陣のログインだからねー。打ち合わせがてらにTACで顔合わせ」

 そのエルマの言葉に納得したサツキは手帳のようなものを取り出しスケジュールを確認するしぐさをします。

 メニュー板を操作するだけで見れるのに。

 まぁ、サツキですし。

 「おっ。日付変更と同時にアクセス解禁なのか。その1時間前からアバターの作り直しができると。なるほどね。ならその前に、仕事片づけておかないといけないね」

 「なんの、仕事?」

 「しがない小説家さ。お世辞にも売れているとは、言えないけれどね」

 「すごい、わ」

 「実際、サツキの作品は結構売れてる」

 そうボソっっと言ったエルマの言葉に愛猫姫は目を輝かせています。

 「あぁ。そうだね。自己紹介がてらこれを進呈するよ」

 サツキのデビュー作、『君は私に傅くのよ』を取り出し、愛猫姫に渡します。

 「後で受け取りの申請をしておいてくれるかな? ご自宅にお届けさせていただくよ」

 TACではこのように物を送ることもできます。ほんと便利ですね。もう外出る必要ないですよね。


 さっそく読み始める愛猫姫をソファーまで案内し、サツキを交えて<Imperial Of Egg>の話をします。

 「つまり、『エレスティア』にワタシの魔銃とチェリーの精霊駆動式二輪車を探しにいく、ということかな」

 「そんな感じ。後はエルマの魔法剣の素材集めとか、契約精霊の捕獲とかかな? ステイシーも杖の芯必要かな?」

 「いやー? 僕はいい武器があるからねー。そこまで考えてないかなー。でも【召喚士】の【称号】を取って雷精霊を使役したいから契約は取りに行きたいかもー」

 という感じでみな『エレスティアナ』に行くのは反対じゃなさそうですね。

 「行きはレディンに送ってもらおうかなって思ってる」

 「VR化前の金銭は残っているのかい?」

 そう聞くサツキに返事をします。

 「もちろん」

 「ならみんなで割り勘と行こうか。美人3人には払わせたくないんだけれどね」

 「と言っても一番お金持ってるのチェリーなんだよねー」

 いや。絶対エルマがため込んでますよ。

 「そんなことないと思うよ」

 私は軽めの反論をしておきます。


 その後本を読み続けたいと駄々をこねる愛猫姫を連れてみんなで食事にやってきました。

 「もう少し、読んでたい、わ」

 「そう言ってもらえると作家冥利に尽きるよ。あんな駄作でも楽しんでもらえてるならそれほどうれしいことはない」

 「とても、面白いわ。佳苗ちゃん、かわいい」

 「ワタシとしても愛着がある娘だから、自分のことのように喜ばしいね。ではその新しい読者様の誕生を祝って今夜はワタシが持とう」

 都内で大人気の創作うどん店へやってきました。

 「5人です」

 「かしこまりました。奥のテーブル席へどうぞ」

 店員に案内された席へ着きました。

 「さぁ好きなものを頼むといい、と言っても現実の胃袋は満たされないんだけれどね。純粋に食事を楽しもう」

 私はぱっと目について、腹の虫に逆らわず、明太クリームうどんを注文します。

 ステイシーはかつカレーのうどんを注文しています。結構ワイルドですね。

 エルマは悩みに悩んだ末、天ざるうどんを注文することにしたようです。

 愛猫姫は現実で何度も来たことがあるお店だったようでメニューを見ずに天山かけのうどんを注文しました。

 サツキも愛猫姫と同様で、メニューを見ずに鴨汁のうどんを注文していました。


 十数分してみんなの注文した料理が出そろい、食べ始めます。

 「「「「「いただきます」」」」」

 お箸を手に取り、うどんを掬い、口に運びます。

 おいしです。

 博多直送の明太子を使っているようで、出汁に負けない強烈な個性が感じられます。

 それでいてクリームのおかげで辛くはなく、辛い物が苦手な人でも食べれる絶品といった感じです。

 なるほど。現実で人気が爆発している理由がわかりますね。

 開店当初は創作メニューがSNSに拡散することにより、超人気店となったそうですが、そこから何年もたっているのに衰えない人気の秘密が垣間見えました。


 時を忘れて食べ続け、ステイシーの次に食べ終わってしまいます。

 女性で一番最初に食べ終わってしまいましたね。エルマは意識していたのかいないのか、すこしゆっくり目に食べ、こちらを見てニヤッとしていました。

 私はエルマから視線を外し、笑顔を浮かべ食べ続ける愛猫姫とステイシーの空になったグラスへ水を持ってくるように店員に話しているサツキを見ます。

 正直、意外なんですよね。

 この5人て共通点があまりないんですよ。

 ニートの私と資産家の娘のエルマ、リアル全て謎のステイシー、小説家のサツキ、退職したという愛猫姫。

 それもオンラインゲームだからでしょうか。現実では出会うはずもなかった人と、こうして食事をできるというのは。

 そのうち、何時かはリアルでもあってみたいですね……。


 「サツキありがとう。ごちそうさま」

 私がそう伝えると、他の3人も各々感謝を述べています。

 「そこまで感謝されると少し照れ臭いね。そのうち現実でちゃんとごちそうするよ」

 「これはリピート確定」

 エルマのつぶやきが聞こえます。

 「さて今日はもう遅いし、お開きにするー?」

 ステイシーのその声を聞いて時間を見ます。

 食べに来た時間がそもそも遅かったですが、すでに10時を回っています。

 ゲーマーとしてはこれからという感じですが、疲労故か少し眠くなってきたのでその意見に賛同します。

 「あたしはもうちょっとお買い物してから落ちるよー」

 「マオ、は読み終わったら、寝るわ」

 「ワタシも落ちようかな。日付変更の少し前からログインできるならあと24時間程度だからね。早めに寝て、時間までには仕事終わらせないといけないからね」

 「じゃぁー、解散ー」

 「またね」

 「またね!」

 「また、ね」

 「また会おう。今度はもう一つの現実で」

 そう言って今日はお開きになったので私は<窓辺の紫陽花>のホームへと帰り、ログアウトしました。


 現実に戻ってきた私は、VRゲームで食事をとったあとすぐに現実に戻ってくるとよく感じることがある、お腹いっぱいなのに食べたいという謎の感覚に見舞われ、自動調理機を操作し、食事を用意しました。

 そして、大型のテレビに動画サイトを映し、好きな配信者の動画を見つつ、もぐもぐと食べます。ついでにお風呂にも入ろうと思い、音声操作でお湯を溜めます。

 慣れてしまった自動調理機の食事を食べきるころには、風呂のお湯がたまり、すぐに入れるようになります。

 パジャマというう装甲をパージし、全裸になった私はお風呂に入り、精神的な疲労を風呂のお湯に溶かします。

 明日の夜にはみんなで遊べますね。

 今日はワクワクでなかなか寝付けないかもしれません。

 お風呂から上がり、髪を乾かし、洗濯機に放り込んで乾燥まで済ませたパジャマを再び着て火照った身体をベッドに寝ころびながら冷まします。

 ワクワクで寝付けないだろうと頭のどこかで思ってはいても、抗えない睡魔がやって来て私はすぐに夢の中へと落ちていきました。

                                      to be continued...

本日で投稿100話目になりました。ここまで長かったようで短かったです。

それもこれも読んでくれている皆様のおかげでございます。

これからも『VRゲームでも身体は動かしたくない。』をよろしくお願いいたします。

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