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ゴーレムを壊す鬼娘



『封印されている時に耳に挟んだのだが、制作者の「天智の賢者」曰く、我の系譜が我を助けに来た時のために、決められたパターンによって最高出力を解放するように作ってあるらしい』

 ……。

『普段から全力だと魔力も体も持たんからな、打倒だろう。で、さきほど貴様が撃ち込んだ魔法がパスワードだ。氷、光、氷の順で魔法を放つ。白属性を得意とする我らをピンポイントで狙ったものだな。当たり前だが』

 …………。

 視界が明滅する。全身が砕けてしまったと錯覚するほど痛みが酷い。

 魔王の語る声のおかげで、なんとか意識を保てた。

 ううん、実際には一瞬だけ意識が飛んでいたのかもしれない。ゴーレムが斧を振り下ろした光景と、斧を構えたゴーレムがまるで地面すれすれを飛翔するかのように超速で襲いかかってくる光景とでは、状況が連続していないから。

 って、そんなことを悠長に分析している場合じゃないっ!

 魔剣で防御を……って、魔剣が折れてるっ!?

「ああもうっ!」

 自棄気味に叫びながら、私は刃が中程から折れた魔剣を飛びかかってくるゴーレムに投げつけ、同時に凶刃から逃れるべく右へ跳んだ。

 直後、私が寄りかかっていた壁を、ゴーレムの(こく)(びゃく)の斧がまるで水面を割るかのように全く抵抗を感じさせず斬り裂く。

 ゴーレムの力も異常だけれど、あれだけの切断力を生み出したのはあの斧の能力だろう。石の壁すら無抵抗に斬り裂くなんて、一体どんな力が宿っているのやら。

 ……って、石材すら斬り裂くなら、一度目に吹き飛ばされた時、私はどうやって攻撃を防いだんだろう?

 あ、魔剣を盾にしたのか。なら、魔剣が折れていたのも納得だ。というか、被害がそれだけで済んだことの方が驚きなんだけど。

 そんな、私が苦し紛れに投げた魔剣の半分は、何の効果も及ぼさなかったみたい。咄嗟に魔剣に付属する炎を発生させる能力を魔力の過剰供給で暴走させてみたのだけど、ゴーレムは空いている左手で適当に弾いてしまったようで、さらに(ひしゃ)げた魔剣の残骸……いや、鉄くずがそこらに転がっている。

 あれを回収したところで、もう意味はないかな。炎を生み出す能力も、あれだけボロボロだと壊れているだろうし。

「っ」

 なんて考えていたら、ゴーレムが斧を横薙ぎに振るってくる。

 すかさず私はバックステップを踏むけれど、リーチの長い斧は僅かに私の鼻先を掠め、赤い線を引いた。視界が一気に朱色に塗り潰されて見えづらい。目元をすぐに拭ったけれど、少し目に血が入ってしまったようだ。

 突破口を見つけられていないのに、思考の時間がないのは辛い。戦闘とはそういうものだってことは理解しているし、そんなギリギリの状態を乗り越えることに意義があるって考えも分かるけれど、それでも辛いものは辛いのだ。

 追撃の気配を感じて、私は背後へ跳び退く。

 直後、ゴーレムの斧が空中にバツを描いた。

 その蓮撃で生み出された風圧に逆らわず、私はさらに後方へ跳ぶ。逃げているだけじゃダメってことは分かっているけれど、近づいたところで魔剣を失った状態ではまともな損害を与えられないだろうから、これしかないのだ。

 かといって、魔法はもう一発も撃てない。

 魔王に言われるがままに使ったのが原因だ。

「なんてことするの、白髪(しらが)魔王っ! このハゲ!」

『恐ろしく矛盾していると気付け、小娘。それよりも、目の前の敵に集中しろ。死ぬぞ』

「魔王のせいじゃん!」

 魂だけの魔王に悪態を吐いたって状況が好転しないのは分かっているけど……うう、でもやっぱりむかつく!

 魔王の言葉なんて信じなければ良かったんだ。というか、私はなんで彼の言葉を無条件に信頼してしまったんだろう? ……そういう魔法でも使われてた、とか?

『…………』

 いくら推測しても、答えを知る魔王はずっと(だんま)りだ。

「もうっ!」

 イライラを吐き出しながら、私はひたすらゴーレムの攻撃を躱し続ける。

 ゴーレムの攻撃は、変なモードに切り替えられる前より速く、鋭く、そして的確に私の逃げ道を塞いでくる。本気で殺しに来ているんだってことが一挙手一投足から伝わってくるようだ。

 なんて言えば良いのかな……敢えて言葉にするなら、『機械らしさがなくなった』って感じ。

 今までは設定された行動を淡々と取っていただけだったけれど、今は私の行動を予測し、それに対する回答を何パターンも用意して、その中から最適解を選んでいるって感じかな。……魔道人形の詳しい原理なんて知らないけれど、たぶんこれ、非常識なことだと思う。

 何にしても、躱すだけでも精一杯なのに、そこから反撃する手段を見つけなきゃならないのは精神的に辛い。それに、ずっと躱し続けられるわけでもないんだから……早く打開策を見つけないと。

 魔法は……無理。魔力がもうない。

 直接攻撃は……スキルで底上げしても、武器がなければまともな損害は与えられなさそう。

 ……、あれ、手詰まりじゃない?

 ううん、落ち着け。まだ何かあるはずだ。

 魔法以外に……そうだ。

 ――スキル。

「『火炎の吐息(フレイムブレス)・並』!」

 その名を呼んだ瞬間――私の体がガクッと傾いた。

 なにが……起きたの?

 ――考える暇もなく、ゴーレムの斧が迫る。

 四肢に力が入らない。無理に入れようとすると、内側から引き裂かれるような強烈な痛みが迸る。

 でも、避けなきゃ真っ二つだ。

「ぐ、あァあッ!」

 血を吐くように吠えて、私は体を左へ投げる。刹那、ズガンッ!! と斧が一瞬前の私を斬り裂いた。

 また、躱せた。回避だけに限定すれば、私って最強なんじゃないかな。

 なんて、おかしな考えが浮かぶほどに危なかった。もう何度も死ぬと思ったけれど、今回ばかりは本当にやばかった……なんて、まだ危機が去っていないのに考えるべきじゃないね。

 さっき力が抜けたのと、全身に走った痛みは、たぶん魔力切れのせいだ。スキルを使うにも魔力を消費する感じがしたから、さっきのは必要な魔力が足りなくて体が悲鳴を上げたんだと思う。

 これで、スキルにも頼れないことが分かった。

 ……仕方ない。

 ダメで元々、接近されたのを機会に、私はゴーレムから遠ざかるのではなく斧を掻い潜って懐に飛び込むと、金属の腹へ全力の蹴りを放った。

 ガィィィン――と、鈍い音。

「いっっったぁーいッ!」

 あぁあああ! ヤバイ、死ぬほど痛いッ! 骨が折れるかと思った! というか折れたかもしれないっ!

 目尻に浮かんだ涙を雑に拭いながら、超接近した私を斬り殺そうと振るわれるゴーレムの斜め斬りの斧を、左へ跳んで躱す。着地と同時、追撃を恐れて素早くバックステップを踏んだ。

 回避時の踏み込みで特に違和感はなかったから、たぶん骨には異常はない……はず。

 でも、痛かったのは事実だ。

 私の被害に対して、ゴーレムの被害は……ない。ちょっとだけ金属がへこんだくらいかな。有効打とはとてもじゃないけど呼べないくらいだけど。

七彩神鉱(アダマンタイト)(ボディ)に、魔剣も技能(スキル)能力増大(ブースト)も無しに凹みを作れたのなら上出来だ』

 そんなことを魔王は呟くけれど、この程度じゃいつまで経っても倒せやしない。

 ……というか、七彩神鉱(アダマンタイト)って何?

『世界一堅く、かつ全ての色の魔力に適応すると言われる神話上の鉱物だ。基本的に神器などにしか使われないのだが、「天智の賢者」め、人形なぞに使いおって』

 なにその最強金属、そんなものでゴーレム作って賢者様は何をしたかったのやら。

 ……あ、魔王を封印したかったのか。

 というか、そんなものを用意しなきゃ封印しても安心できないって……『白き魔王』ってどれだけ恐れられていたんだろう。

 ……って、そんなこと考えている場合じゃないや。

 魔法はダメ。スキルもダメ。直接攻撃だってほぼ無意味。

 これ、もう詰みだよね?

 …………、逃げる?

 なんて考えが()ぎるほどに、絶望的な状況だ。

「ううぅ……」

 地面を、床を、何の抵抗もなく斬り裂いていく斧を躱しながら、私は唸ることしかできない。

 くそう。私にもゴーレムみたいな、何でも切り裂ける強力な武器があれば良いのに。

 ……。

 …………。

 ………………、ん?

 待って。

「――斧だ」

 閃いてからは、早かった。

「よ、こ、せぇぇぇぇええええええええええええええええええええ――ッ!!」

 魔力がなくなっているのは分かっている。でも、これに賭けるしかないんだ。

 だから――生命力でも魂の力でも、何でも良い。魔力に代わって、スキルを起こす!

「『豪腕』、起動!」

 ――ドクン、と。

 私の中で、何かがごっそり減るような感覚がしたけれど、気にしている余裕はない。

 突然の行動の切り替えに一瞬だけ反応が遅れたゴーレムに一足で接近し、私は振り絞った拳を放つ。

 狙いは――右手。

 斧を持つ手を、強化された拳で打ち砕く――!

「せぃっ……ぁぁぁぁあああああああああああああああああああ――ッ!!」

 ドゴォッ!! と。

 明らかにただのパンチで出せるような音じゃない豪快な破砕音が、びりびりと部屋を震わせる。

 たった一撃。それだけで倒れてしまいそうだけれど、まだダメ。踏ん張って、もう一度だけ、やらないと。

「どりゃぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ――ッ!!」

 担い手の手が失われ、空中に放り出された(こく)(びゃく)の斧。それを瞬時に掴んだ私は、裂帛の気合いを叫びながら、斧をゴーレムの体へと振り下ろす。

 堅く作られている石材の床や壁をザクザク切り裂けるなら、七彩神鉱(アダマンタイト)だって切り裂けるはず!

 刃と体が衝突する、大音量の衝撃を予測して――しかし。

 あっさりと。まるで草でも切るような軽さで、七彩神鉱(アダマンタイト)の体へ切り込んだ斧の刃は、僅かばかりの抵抗のみを私の腕に伝え、およそ世界最強硬度を誇るであろうゴーレムを――断ち切った。

「うわっ、ととと」

 勢い余って床に食い込んだ斧は、それでも勢いを失わずに進み続けるので、完全に埋まってしまう前に力を込めて引っ張り上げる。すると斧の動きは止り、無事に取り出すことができた。

 と、私が斧を床から引き上げたのと同時に、部屋に高低混ざった衝撃音が響き渡る。

 ――ゴーレムが、その七彩神鉱(アダマンタイト)でできた巨体を、石材の床に打ち付けた音だ。

 …………。

 しばしの沈黙の後。

『喜べ、小娘。貴様は試練を突破した』

 魔王の尊大な賞賛と――。

「あっ……」

 大活躍した(こく)(びゃく)の斧の消失は、同時だった。

 淡い白と黒の光となって空気に溶けていく斧。これは元々ゴーレムが生み出したものだから、本来の担い手の撃破と同時に消えてしまうのは当然のことだ。強力な武器だっただけに少し惜しいけれど――でも。

 強大な敵を倒せたのだから――その喜びの前には、そんなこと、些細な問題だ。


『……Co()ngr()atu()lat()ion(). And(そして) nicely(よく) done(やった)!』


 最後に魔王が呟いた言葉は、私には理解できない言語だったけれど……。

 でも、なんだか悪い気はしなかった。


  ◆ ◆ ◆


◆鬼人(固有名未設定)

 年齢:0(生後数十時間)

 性別:女

 階級:C

 種族:鬼族・鬼人

 職業:魔法剣士

 恩恵:『???の祝福』『白き魔王の怨嗟』

 称号:『反逆者』『英雄』『魂喰い(ソウルイーター)

 技能:『光魔法・下級』『氷魔法・下級』『???・下級』『???・下級』『因果の打倒』『英雄謳歌』『霊魂捕食』『怪力・並』『火炎の吐息(フレイムブレス)・並』『酩酊耐性・強』『豪腕』

 武装:

 特徴:背中まである銀髪。ぱっちりとした紅い瞳。額から二本の紅い角が生えている。身長148センチ。



※最初に斧で切られて吹っ飛ばされ、被害が魔剣一本だけだった理由。

 →下級とはいえ、魔剣は丈夫な素材で作られておりその上で特殊な魔法効果がかかっているから……っていうものと、ヒットの瞬間に主人公が後方へ跳んで威力を殺し、さらに衝撃を逃がすために剣を逸らして斧の攻撃を受けた、という二つの理由があります。バトルセンスは超一流だからね、あの娘。


七彩神鉱(アダマンタイト)のボディを、奪った斧で易々と斬り裂けた理由。

 →斧に掛かっていた魔法効果が『次元切断』とかいう頭のおかしい効果だったため、ゴーレムに付与されていた魔法効果も纏めて斬り裂いてしまったのです。そんな頭のおかしい武具で攻めてくるなんて、賢者様は想定していなかったんだね☆(でもそれだと、上記の理由だけじゃ防げなくね? ってなりますが、『次元切断』の効果が発揮されるのは刃の触れた場所……つまり魔剣だけなので、主人公は衝突の衝撃で吹き飛ばされるだけでした)


※魔王はなぜ英語? というか英語の使い方大丈夫?

 →厨二bげふんげふん。そのうち明かされます。たぶん。きっと。英語の使い方がおかしくても気にしないことにしておこうぜ(殴)

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