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ゴーレムと戦う鬼娘

 五話以内に主人公の名前が出せませんでした。なんてこったい。



「――ちょ、わきゃあっ!?」

 ゴーレムが金属の拳を引き絞った瞬間、私は己の脳内に奔った予感に従い、右へ全力で跳んだ。

 一秒の間隙の後、さっきまで私の体が在った場所を、ゴーレムの拳が穿つ。その衝撃が、五歩分も離れた私の足まで伝わってきた。

 あの拳に当たったら一溜まりもないだろう。掠っただけでも大怪我は免れない。接近戦は避けるべきだ。

「なら――【光熱弾(シャイン・バレット)】!」

 右手には剣を持っているので、左手だけゴーレムへ突き出して魔法を唱える。集束した魔力が魔法陣を通して光の弾丸へ変換され、超速で射出。ゴーレムの体表に穴を穿つ――。

 そんな予想をしたけれど。

 ビィン、と。空気が震える奇妙な音とともに、光弾は金属の肌を()()()

「魔法が効かない!?」

 弾かれた……って感じじゃないから、強力な耐性を保有していることはなさそう。

 体表をつるりと滑ったように見えたから……何かで逸らされたか、誘導された?

 うーん……ゴーレムだから、制作者が色々な能力を付与していると思うし、魔道人形に詳しくない私じゃ答えは出なそう。

 なら、知っている奴に訊けば良いよね。

『答えは貴様自身で導き出せ。試練とは、そういうものだ』

 ……心を読まれて先手を打たれた。

「って、試練ってどういうこと!? 私の命より大切なの!?」

『当然だ。それより口を動かす前に体を動かせ。死ぬぞ』

「っ!!」

 あぁもう、何なのこの魔王はっ!

 いや、理不尽なのは人の体を乗っ取ろうとした時点で分かってたけど……自分が誘導した結果、他人が死にそうになっているのに、何の助言もないとかふざけてるの!?

 なんて、怒っていても状況は変わらない。むしろ時間が食われるほどに不利になる。

「ぅぅうううう……うがーッ!」

『白き魔王』への怒りを込めた叫びを上げて、一旦魔王のことを意識の外に追いやる。

 直後に放たれたゴーレムの拳を、横っ飛びに回避。側面に【光熱弾(シャイン・バレット)】を浴びせるけれど、やっぱり金属の肌には傷一つつけられず、全て滑るように外されてしまった。

 光の魔法じゃダメ。何か他に、攻撃手段は……。

「っ」

 考えている間にも、ゴーレムは私を殺すために拳を放ってくる。

 それを大きなステップを踏んで躱し続けながら、私は【光熱弾(シャイン・バレット)】でゴーレムの体の様々なところを撃ってみるけれど、どこも同じように全く効果がない。

 単純に、威力が足りない……とか?

 ……他に方法は見つからないし、試してみよう。

「『英雄謳歌』、起動」

 技能(スキル)の発動は、自身の存在の奥深く……魂に在るスイッチを押すような感覚だ。でも、必ずしも意識を深層へ沈める必要がないことは、今までの経験からなんとなく理解している。

 要は、私がそのスキルを使いたいって強く思えば良いんだ。

 なら、口頭で宣言するだけでも十分でしょ。

 魔法だって、魔法名を唱えるだけで発動するんだ。その前に魔力を汲み上げる作業はあるけれど、引き金は言葉。それと同じように、スキルだって起動できるんじゃないかな?

 結果的に、私の予想は正しかった。

 体の奥底から力が湧いてくる。ワイバーンを倒した時の魔力と同じくらい……いや、もっと多い。たぶん、『英雄謳歌』の効果が、単純な能力増強じゃないからだろう。

 これなら()れる。

 確信を持って、私は汲み上げた膨大な魔力を元に、【光熱弾(シャイン・バレット)】を撃ち放った。

 それはもはや弾丸(バレット)というより――本物の弾丸なんて見たことないし、弾丸が何かも知らないけれど――、光の槍だ。鋼鉄を穿ち、金剛をも焼き潰す、超高温の一撃。硬質な金属の体を持つゴーレムといえど、これの前にはそこらの石材と変わらぬ末路を辿るはず。

 ――けれど、私は忘れていた。

 魔王の体を見張るために、賢者が作り上げた魔道人形(ゴーレム)

 魔王が『最低でもAランク以上』と評したものが、その程度で壊れるはずがないのだ。

 そもそも、ゴーレムを光弾から守るものの正体すら掴めていなかったのに、単純に出力を上げて突破するなど、甘いにもほどがある。

 それを私が理解したのは、網膜を灼かんばかりに輝く光が収まり、ゴーレムが傷一つない姿を現した時だった。

「うそ……」

 全くもって、被害のないゴーレム。

 金属光沢で煌びやかにも見える体表は、相変わらず一つの傷もない。

『――「七色障壁プロテクト・レインボー」の消耗率……十三パーセント。推定脅威度をD+よりCに上方修正。これより、「黒白断斧(モノクローム)」の第一解放までの使用を許可します――』

 力が認められたってことはなんとなく分かるけれど……何でだろう、あんまり嬉しくない。

 人型の生物で言うところの目に当たる部分を赤く明滅させたゴーレムが、前に右手を突き出す。

 拳が飛んでくると警戒したけれど、そんなことはなかった。

 代わりに、もっと危険なものが、地面を割って出現する。

 いや――正確には、地面に浮かび上がった魔法陣の中から、だ。

「……、」

 気付けば、足を一歩分、後ろに動かしていた。

 額から流れる汗の感触にも、ようやっと気付く。

 肌がヒリヒリする感覚。空気中を漂う魔力が、指向性を持って暴れているのが分かる。それほど強力な何かが、この場に現れるのだ。

 疑いようもなく、ゴーレムが生み出した()()が原因。

 黒と白の相反する光を放つ魔法陣から現れたのは、一振りの斧だ。一目見ただけで、武器としての格が己の握るそこらの魔物から奪った魔剣とは違うのだと理解させられるそれは、ゴーレムの大きな手に握られると、さらに強い(こく)(びゃく)の光を放った。

 その神々しさと禍々しさを両立させる光に思わず目を閉じようとするのを必死で耐えながら、私は右手に握る魔剣を強く握り締める。

 ……この魔剣で斬るのは無理だ。魔法以上に勝機が薄い。

 けれど、魔法がダメだった以上、残る手札はこれだけだ。

 金属製のゴーレムが物理攻撃に弱いとは思えないけれど……私の全力の魔法をものともしない相手に、これ以上魔法をぶつけても無駄撃ちでしかない。それに、魔力もほとんど使ってしまったから、通常威力で撃てて二、三発ほどなのだ。

 なら、試していない方法を試すしかない。

 幸い、勝率がゼロでないことも、なんとなく感じている。

 魔剣を使って戦うのにぴったりのスキルを手にしている。そんな予感だ。

 ……まるで誰かが教えてくれているみたいに都合の良い予感だけれど……今は気にしないことにしよう。

 魔王曰く、これは試練なのだ。

 私には試練を受ける意味も理由も分からないのだけれど、始まってしまった以上、アレを倒すしかない。

 逃亡は、鬼族としてのプライドが許さない。

 敗北は、私の生への執着心が認めない。

 なれば――。

 全ての力を出し切って、目の前の障害を屠るのみだ。

『――弱敵排除(ノービス・)用省エネ運用(モード・アベレージ)にて処理を開始します――』

「『怪力・並』『豪腕』、起動」

 私が長剣を前方に構えるのと、ゴーレムが斧を振り上げたのは同時だった。

 けれど、地を蹴るのは小柄な私の方が速い。

「ああああッ!」

『――――』

 叫ぶ私と、音もなく斧を振り下ろすゴーレム。

 頭上からやや傾き加減に迫る斧の凶刃は恐ろしいけれど、避けられない速度ではないし、何より狙いが読みやすい。一歩左にずれるだけで、斧の刃は私を斬り裂くことなく地面のみを砕いた。

 そうして生まれる隙に、私はゴーレムの腕を掻い潜り、懐へ踏み込む。

 そして――一閃。

「っりゃあッ!」

 裂帛の気合いと共に横に薙がれた魔剣は、赤い尾を引いて一文字を描く。

 手に返る感触は堅い。耳に入る音も、とてもではないが切り裂けたようには思えない。

 けれど――()()()

 金属のゴーレムの体に、確かな傷を刻んだのだ!

「もう一度っ」

 斜めに斬り裂き、返す刃でバツを描く。刃が金属と衝突する度に甲高い音が上がるけれど、その大げさな音に反して魔剣に傷はない。どうやらこの魔剣はかなり優秀なものだったようだ。前の持ち主に感謝感謝。

 と、余裕があったのもそこまでだ。今までの連撃の間に斧を引き戻していたゴーレムの反撃が、猛烈な速度で迫ってくる。

 でも――見えないほどじゃない。

 金属のゴーレムは、全体的に速度が遅いのだ。力もあるし、とっても堅いけれど、重い素材ゆえに素早い行動には向いていない。

 だから、見切って躱すのはそれほど難しいことではない。

 けれど、当たったら即死なことに間違いはないから、油断なんてできないけどね。

 今度は横に振るわれる斧を、高く跳ぶことで回避した私は、そのまま落下の勢いを利用してゴーレムの頭部に魔剣を叩き付けた。ガギィッ! と今までよりもずっと大きな音を立てながら、魔剣との衝突点から罅が奔る。けれどそれだけで満足せずに、私は衝突の反動で僅かに浮き上がった隙に体をぐるりと縦に回転させると、ゴーレムの背後へ着地した。

 そして、振り向きざまに十字切りを放つ。

 背中の方が前より柔らかいのか、正面から斬り付けた時よりも深い傷跡が金属の体に刻まれた。これは切り傷と言って良いんじゃないかな? って思うほどにくっきりとした斬撃痕。

 いける――。

 そう、確信した時だった。

『……ダメだ。人形に本気になって貰わねば、試練にならん』

「……?」

 何を言っているんだろう、この魔王は?

 でも、私が疑問を口にするより早く、魔王はこんなことを言ってきたのだ。

『氷の魔法を使え』

「え、なんで?」

『それが貴様のためになるからだ』

 ……助言はしないって、言ってなかったっけ?

 でも、正直アドバイスはありがたい。斧に一発でも当たったら死ぬっていう状況は、結構苦しいものがあったからね。

 私は一度バックステップでゴーレムから離れると、体内から魔力を汲み上げる。

「って、そもそも私、氷の魔法なんて使えるの?」

『問題ない。すでに「白」の片鱗に触れた貴様は、白系に属する魔法に強い適性を持っているはずだ』

 良く分からない理屈だけれど、魔王が言うのならそうなのだろう。

『白き魔王』は意地悪だけど、嘘はつかないし。

『……、余計なことなど考えていないで、とっとと【氷の矢(フリーズ・アロー)】を唱えろ。あと、続けて【光熱弾(シャイン・バレット)】も放ち、最後にもう一度【氷の矢(フリーズ・アロー)】だ』

「うん。――【氷の矢(フリーズ・アロー)】、【光熱弾(シャイン・バレット)】、トドメの【氷の矢(フリーズ・アロー)】!」

 若干の青い光を孕んだ白い魔法陣より、氷でできた矢が三本、ゴーレム目がけて撃ち放たれる。そして残りの魔力を掻き集め、光の弾丸と、再度氷の矢を順番に一秒と開けず放った。

 もう魔力がすっからかんだ。気を抜いたら倒れちゃいそう。

 でも、これで倒せるはずだ。だって、魔王が言うくらいだから、今の魔法は絶大な効果を及ぼすのだろうし。

 ――なんて、わくわくしながら見守っていられたのは、ほんの数秒にも満たない短い間だけだった。


 氷の矢も光の弾丸も、ゴーレムの体表を易々と滑った。


 なにも、変化はない。魔剣で刻んだ傷の他に、損傷は一つも見られない。

 いや――違う。

 ()()はあった。それも、劇的なものが。


『――パターンFと合致。対象を「白」の系譜と仮定。これより、対白燐光用(ホワイトキング・)極限解放運用モード・オーバードライブにて処理を開始します――』


 ……明らかにおかしい。

 …………、もしかして、嵌められた?

 そう気付いた時には、すでに遅くて。

 金属の体表にぬらりとした黒い魔力を纏わせたゴーレムが、私目がけて斧を振り下ろしていた。


  ◆ ◆ ◆


◆鬼人(固有名未設定)

 年齢:0(生後数十時間)

 性別:女

 階級:C

 種族:鬼族・鬼人

 職業:魔道士 → 魔法剣士

 恩恵:『???の祝福』『白き魔王の怨嗟』

 称号:『反逆者』『英雄』『魂喰い(ソウルイーター)

 技能:『光魔法・下級』『氷魔法・下級』『???・下級』『???・下級』『因果の打倒』『英雄謳歌』『霊魂捕食』『怪力・並』『火炎の吐息(フレイムブレス)・並』『酩酊耐性・強』『豪腕』

 武装:魔剣〈無銘〉……赤属性の下位魔剣。刀身に火を纏わせられる。

 特徴:背中まである銀髪。ぱっちりとした紅い瞳。額から二本の紅い角が生えている。身長148センチ。



 実際、一般的な金属系ゴーレムには魔法の方が効きやすいのですが、今回のゴーレムは特別製なのと、主人公が『怪力・並』と『豪腕』のスキルを発動させていたため、魔剣で殴った方が強くなってしまったのです。


『氷魔法・下級』……多少の氷の魔法を扱える。初期のもの以外は自力で生み出せるが、あまり効果は期待できない。(【凍結(フローズン)】【氷の矢(フリーズ・アロー)】)

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