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打倒オーガの鬼娘

 主人公の名前はまだ出ません。

 たぶん、きっと、五話以内には出るはず……(ガクブル)。



「ん、ぅ……」

 ひんやりとした石材の感触を肌に感じて、私は呻き声を漏らした。

 寒い。しかもジメジメとした空気も合わせて、不快感はいっそう私を苦しめる。

「けほっ、うぅ……倒れたままじゃ、ダメだ」

 ここは迷宮だ。いや、ダンジョン? ともあれ、私が親もなく(魔力から生まれたので、ある意味この迷宮に蔓延する魔力の持ち主が親になるのかな?)生を受けたここは、数多の魔物が巣くう危険地帯。そこらに寝そべっていては、体の大きな魔物に頭からボリボリ食べられてしまう。

 ……って、あれ?

 倦怠感に苦しむ体をなんとか動かして立ち上がり、溜息を零してから、ふと私は気付いた。

「あー、あー…………あれ、私、きちんと喋れてる!?」

 さっきまでの汚いガラガラの声ではない、透き通った声色。比べものにならないほどの急成長だ。いや、成長と言うより進化?

 まぁ何であれ、口頭による意思疎通が可能になったのは僥倖だ。

 ……いや、待って欲しい。声よりも気になることがある。

 私は通路を吹き抜ける湿気の強い風によって側頭部から靡く銀の髪を極力意識の外に追いやりながら、自分自身に問いかける。

「……白き魔王とやらは、どこに行ったの?」

 待って。待って欲しい。

 まさか、自分の体の中にまだ残っていたりはしないよね?

 いや……私の自我が残っているのなら、私が支配権争奪戦において勝利を収めたという認識で良い……はず。

「おーい、おーい……クソ魔王やーい。白髪(しらが)の魔王ー、返事してー」

 呼びかけてみるけれど、返事はない。

 ……これは、完全勝利という認識で良いのだろうか。

 うん。いいや。きっと大丈夫。だって悪口にも反応できないくらいなのだから、万が一彼の魂が多少残っていたとしても、(じき)に自然消滅してしまうだろう。希望的観測かもしれないけれど、私には魂を目視する力などないから確認できないので、そう信じ込むしかないのだ。

「……いっか。うん、あいむうぃなーっ!」

 ぐっと拳を握り締め、ガッツポーズ。

 私の勝利を讃えてくれる存在はいないけど、高まった気分が抑えきれなかったからしかたないよね。人生初勝利だし。

 ……というか、天井に向かって突き上げた手が、ゴブリンの標準カラーである深緑(茶緑、の方が近いかな?)とはほど遠い乳白色だったのだけれど、これ、どういうこと?

 ……。

 …………。

 まぁ、いっか。気にしても仕方ないよね。

 私は私だけの未来を勝ち取った。理不尽な侵略者を撃退して、飲み込んで、失われるはずだった『これから』を守った。

 なら、それを謳歌するのが、私の『するべきこと』だ。

 自分を守るために他人の最期の足掻きを叩き潰したということは、彼の未来を奪ったことになる。生まれつき弱肉強食の感性を宿している魔物として、そのことを否定はできない。自分の未来が奪われることは許容できないけれど、自分の未来を守るために他人が障害になるのなら、全力で排除するのが魔物の――鬼族の習性だ。

 だから、いつまでも気にしていられない。

 立ち止まってはいられない。

 ここは迷宮。魑魅魍魎が濃密な魔力から生み出される、魔窟なのだ。

 力をつけなければ、奪われる。先ほどのように。

 だから――。

「強くなる。誰よりも。自分の未来を、失わないために」


   ◆ ◆ ◆


 ……さて。生きていく上で一番必要なものは何か。

「答え。水と食料」

 呟き、私は周囲を見渡す。

 ところどころ苔の生えた石材の壁と床。空を仰いでも灰色の天井。水源はおろか、碌な植物すら見受けられない。

 生まれ落ちた場所から大分時間を掛けて歩いたけれど、代わり映えのない風景に辟易する。迷宮だからそういう構造なのは分かるけれど、他の魔物はどうやって生きているのだろう。

 いや、そもそも食事を必要としない魔物しか生まれないから関係ないとか? 

 ……それだと私がゴブリンとして生まれた理由が分からないから違うかも。

 などと思考を巡らせつつ、私はひたすら灰色の迷宮をさまよい歩く。

 魔物の基礎知識として、ここが迷宮なのは分かるけど、そういえばこの迷宮ってなんなのだろう。

 ……そんな、一介のゴブリンには答えの出せない問題をぐるぐると延々考え続けているのも、一言で言って暇だからだろう。

 碌な武装もしておらず、考え事をしながら歩いているゴブリン(雑魚)など、他の魔物から見れば良い餌でしかないというのに。


 唐突だった。

 堅くて大きい()()が、私の矮躯を薙ぎ払った。


「が、ふ――っ!?」

 ぐるぐると視界が回る。世界がチカチカ光る。

 一秒にも満たない浮遊感の次に感じたのは、背中への強烈な痛み。次いで、岩を粉砕するような衝撃音が頭を直接揺さぶった。

 殴られたのだ。魔物に。

 頭の中に浮かんだ推測は、無理矢理押し開いた目から伝わる光景が肯定する。

 筋肉質で、赤茶色の体躯。並みのゴブリン五体分はあるだろう高い背丈は、ゴブリンにしては高身長(といっても、たぶんエルフや人間の少女とそう変わらないだろうけど)の私にとっても酷く威圧的に感じる。そして何より恐ろしいのは、口から突き出した杭のような牙。

 牙鬼(オーガ)

 階級(ランク)としては、小鬼(ゴブリン)の一つ上。けれどそこには、絶望的なまでの差がある。

 勝てない。

 ……本当に? 試してもいないのに?

 先入観だけで、敗北と決めつけるの?

「鬼族として、それはちょっと許容できない……かな?」

 ――鬼族は、血と戦闘を尊ぶ。そして勝者を崇める。

 ゆえに、戦ってもいないのに逃げるのは、認めがたい屈辱なのだ。

 ……まぁ、最下級のゴブリンは良く逃げるけど。

 同族の軟弱具合を意識の外に追いやりながら、私は壁に手を当てながら立ち上がる。

 オーガは、その自慢の筋肉を震わせながら、のっしのっしとこちらへ歩いてきている。

 余裕なのか。きっとそうだ。ゴブリンは十体集まろうがオーガ一体に敵わないのだし、一対一(タイマン)ならなおのこと余裕があるのだろう。むしろ、私で遊ぶ気なのかもしれない。

 ……認められない。

「そんな死に方は、認められないっ!」

 ――ゆえに、私は戦う。

 武器はない。いや、拳が武器だ。相手も同じく徒手だけど、さすがに練度も強度も桁違いだから、まともにやり合う気はない。

 素早く立ち回って、首を折る。

 それが私の勝利条件。

「グゴォォオオオッ!」

 オーガが吠えた。体の芯まで震わせる咆哮。きっと――白き魔王との戦いがなければ、私はここで萎縮してしまっていただろう。

 でも。

 私の体はスムーズに動く。恐怖はある。けれど、動けなくなるほどではない。

 あの魔王は、もっと恐ろしかった。

「あぁぁあああああっ!」

 私も、腹の底から吠える。恐怖を吹き飛ばす。私の声量では相手に恐怖感を植え付けることはできないけれど、それでも闘志をみなぎらせることはできる。

 オーガが腕を引き絞った。――来る。筋肉がギチギチと鳴る音が私の耳にも届いた。きっとあの拳は、石材の床すらぶち破るだろう。

「ぐっ」

 ブオンッ! と空気を押しのけて拳が飛んだ。私は初動を読んでいたそれを、斜め前に跳ぶことで躱す。そして着地と同時に、腕を引き戻そうとして隙を晒すオーガの懐へ、強く踏み込んだ。

「殺す」

 身長差は三倍近く。けれど私の脚力なら届くと、なぜだか感じた。

 その直感を信じて、跳ぶ。

「グオ!?」

 きっとオーガの目には、私がいきなり目の前に現れたように感じただろう。そうなるように動いた。鬼族としての戦闘勘(バトルセンス)が、それを可能にした。

 目を見開くオーガの首に足を絡ませて、勢いよく引き倒す。

 突然で対応できなかったオーガは、ぐらりと重量のある体躯を揺らす。私はより足に力を込めて、首に力を入れる。

 ミシミシと、軋む音がする。

 それが私の足が鳴らす音なのか、オーガの首から立つ音なのかは分からない。

「グガ、ガガガアッ」

 苦しそうな呻きを零すオーガは、首に張り付く私を引き剥がそうと爪を立てる。

 手入れなどしていないだろうから鋭いとは言いがたいが、堅い爪は私の柔肌を簡単に抉ってしまうだろう。……と思ったけれど、予想したよりも私の体は丈夫なのか、爪が刺さった場所で多少出血はするけれど、骨まで抉り出されるようなことはない。

 でも、これがずっと続けば、いずれ私は血達磨(だるま)になるだろう。そうすれば私は死んでしまう。

「いや、だ……っ!」

 抵抗するオーガに対抗して、私はより一層足に力を込めた。

「ゴ、ガァ」

 対するオーガも激しく爪を立てる。

 痛い。痛いけれど、耐えられないほどではない。

 もっと。もっと。もっと強く締め付けて――。


 ゴキリ、と。

 不意に、はっきりと音が鳴った。


「ギャ……」

 断末魔の叫びは、それだけだった。

 ドスン、と重い音を立ててオーガが頽れる。オーガの上にいた私も、それに引き摺られて床の上に投げ出された。

「きゃうっ」

 小さく悲鳴を零し、それと同時に多少の血が口から飛び出たのを感じる。

 仰向けになる私。相変わらず石の天井は灰色で、どんよりとした空気を漂わせている。

 けれど、今はそんなことは気にならなかった。

「はは」

 痛む手足を大の字に投げ出して、私は喉を震わせる。

「あはは、あははははっ」

 じんじんと体中が痛みを発している。

 けれど――確かに生きている。

「勝った! オーガに、勝ったんだ!」

 私は生まれてから二度目の勝利に、また天井に向かって拳を突き立てたのだった。


   ◆ ◆ ◆


◆鬼人(固有名未設定)

 年齢:0(生後数時間)

 性別:女

 階級:E → C

 種族:鬼族・小鬼 → 鬼族・鬼人

 職業:ゴブリン・ノーマン → ファイター

 恩恵:『???の祝福』……※情報開示権限レベルが不足しています。

    『白き魔王の怨嗟』……白き魔王を喰らった際に魂に付着した呪い。(白属性適性Ⅲ 青属性適性Ⅲ / 狂気Ⅰ)New!

 称号:『反逆者』……運命に抗う者に与えられる。(幸運Ⅱ 特殊技能『因果の打倒』獲得)

    『英雄』……魔王を討伐した者に与えられる。(魔力上昇Ⅱ 筋力上昇Ⅰ 幸運Ⅰ 特殊技能『英雄謳歌』獲得)New!

    『魂喰い(ソウルイーター)』……魂を喰らった者に与えられる。(特殊技能『霊魂捕食』獲得)New!

 技能:『???・下級』……※情報開示権限レベルが不足しています。

    『???・下級』……※情報開示権限レベルが不足しています。New!

    『???・下級』……※情報開示権限レベルが不足しています。New!

    『???・下級』……※情報開示権限レベルが不足しています。New!

    『因果の打倒』……不運操作の影響を受けない。不利な運命操作の影響を受けない。

    『英雄謳歌』……(強者特攻Ⅱ 悪性特攻Ⅱ)New!

    『霊魂捕食』……倒した敵の魂を喰らえる。New!

 武装:

 特徴:背中まである銀髪。ぱっちりとした紅い瞳。額から二本の紅い角が生えている。身長148センチ。



 ちなみにこのダンジョンだとオーガは雑魚だよ。ゴブリンは塵芥だよ。鬼人は普通だよ。

 つまり、まだチートにはなれないってことですね。ガンバレ鬼娘。


 あと、微妙に地の文が変わってきているのは仕様です。生まれた瞬間から自我が芽生えていたとはいえ、馴染んで固有の形を確立するまでは時間が掛かりますし(私の書き方がヘタだからっていう理由じゃないよ本当だよ)。

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