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黄金の竜と吸血姫

 途中から文章が三人称になります。三人称が苦手な方はご注意ください。

 飛ばしても……まぁさほど問題はないと思います。



「……とも、だち?」

 呆けたような声で訊いてくる竜に、私はその通りだと頷く。勿論、にっこり笑顔を添えて。

「え。その、手下とか、眷族とか、そういうのじゃなくて……?」

「違うよ。そんな関係、楽しくないもん。対等じゃないし」

 友達は対等な関係でありたい……って、私は思う。だって、遠慮無しになんでも言い合える関係が友達なのに、上下関係があったら遠慮無しにとはいかなくなってしまう。そんなの嫌だ。

 けれど、竜は困惑したままだ。竜族の表情は鬼族の私には分からないけれど、なんとなく雰囲気でそう感じる。

 うーん、どうしたら納得してくれるのかな。

『河川敷で殴り合って、互いの力を認めたならもう二人は友達』ってルシフェードの知識にあったし。……うん? 河川敷じゃないからダメだったとか? でもこの辺りに河川敷……というかまともな水場すらないし……。

「なるほど」

 と、考えを巡らせていた私と困惑する竜を見かねて口を出してきたのは、ディアナちゃん。

 吸血姫で魔王な少女は、その愛らしい(かんばせ)にニヤニヤとした笑みを浮かべて、

「ルシェは、この羽蜥蜴(とかげ)と友人関係になりたいのじゃな?」

「うん」

 肯定すると、ディアナちゃんは「なるほどなるほど」と呟いて、それからこう言ってくる。

「ならばルシェ、少し離れてくれぬか? この羽蜥蜴と話があるのでな」

「内緒話なの?」

 ……なんだか、ちょっとだけ面白くない。……何でだろう?

「隠すような話でもないのじゃが……その方が話が早く進むのじゃ」

「……、そっか。うん、分かった」

 言って、私はディアナちゃん達に背を向ける。

 胸の辺りがモヤモヤする。

 この感情を、ルシフェードの知識を借りて言葉にするなら……寂しさ?

 それだけじゃない気がするけれど……でも、分からないや。

 そんなことを考えている間に、だいぶ二人(一人と一体?)と距離を離せていたようで、私の耳には彼女達の話し声の欠片すらも届かなくなっていた。

 ……ディアナちゃん達の話が終わるまで、魔力操作の練習でもしておこうかな。

 私は目を閉じて、身の内に眠る膨大な『白』を感じながら、魔力を操作する。

 けれど……どうにも集中が続かない。操作に失敗して、幾度も痛みが襲ってくる。

 ……こんな調子なら、刀を振っていた方がタメになるかも。

 そう考えて、腰に差す刀――ルシフェードの愛刀〈()(チョウ)(ハク)(レン)〉を抜く。その穢れのない白銀の刀身は、何度見ても見惚れるほどに美しい。

 刀術については、ルシフェードの知識にある。刀の握り方から足運び、重心移動の方法まで、細かく。ただ、全てルシフェードに合わせたものなので、試しながら私に合うように調整していかなければならない。

 エルフの男性だったルシフェードと、鬼族で女性の私では、体に合った刀の振り方はかなり変わってくる。けれど基礎の基礎は同じだから、アレンジを少々弄るだけだ。そんなに難しいことじゃない。

 そうやって刀を振り続けていると、時間を忘れられるような気がした。


   ◆ ◆ ◆


「……さて」

 ある程度ルシェが離れたところで、もう声は聞こえないだろうと判断したディアナは、身を縮めて身体の回復に意識を向けている竜を見下ろす。

 竜の肉(ドラゴンミート)。それは、かつてこの大陸において最大の帝国と唄われたモルディーテ大帝国にて、大陸中から取り寄せられる数多の食材を食した舌の肥えた貴族達が幾度もの舌戦を重ねた末に選び抜かれたと言われる世界五大美食――その中の一つに数えられる、超高級食材だ。

 ただの竜族ではいけない。上位階級、それも第五階級(Aランク)以上でなければ味は格段に落ちてしまう。

 Aランクの竜を狩れる存在など一握りだし、数もそう多いわけではない。ゆえに、状態の良さによっては天文学的な金額で取引されることもある。

(って、いかんいかん。今はそれを考えている場合ではないのじゃ)

 こほん、と空咳一つで気を取り直し、

「羽蜥蜴。貴様――ルシェの配下にならぬか?」

「……、は?」

 返ってくるのは、疑問の声。

 しかしそれは、高潔な高位竜たる自身が、Bランクの鬼娘如きの配下に成り下がることに対しての疑問ではない。

「あの娘……ルシェ、だったかしら。彼女の言い分では、友人になりたいのではなかったかしら?」

 ルシェとディアナの間にどんな契約があったのか、或いはディアナの言葉通りの経緯で出会って同行しているのか、竜はまだ理解していないのだろう。けれどディアナがルシェの意思を尊重していることはなんとなく察しているはず。だからこその質問か。

 けれどディアナは、鼻で笑う。

「ふん。貴様も分かっておろう。魔物として、圧倒的な力を示した相手と対等な関係でいられるなぞありえんとな」

「それは……そうだけれど」

 魔物は、人間以上に力を重んじる。簡単に言えば弱肉強食、強者至上主義、力こそ正義、といったところか。

 ゆえに、隔絶した力関係にある二者間に、対等な関係が生まれることはまずありえない。

 ルシェは、竜の雷撃の悉くを弾いて見せた。最後の一発こそ自らの力で打ち破ったわけではないが、竜から見ればそんなことは関係ない。彼女の持ち物は彼女の力と考えられる。つまり、竜はルシェに対し損傷を加えることはできず、反対にルシェは魔力を放出するだけでも竜を気絶まで追い込める――それが、先ほどの攻防(ほぼ一方的だが)で示された事実だ。

 これほどの差があって、対等な関係など築けるはずがない。

 それが魔物の常識だった。

「だからこその上下関係じゃ」

 ディアナの結論は、やはり変わらない。

 楽な体勢だからと床に伏せていた竜は、その顔を僅かに上げて、

「でもそれは、あの娘の望む結果ではないわ」

「じゃろうな。ま、そこはわらわがなんとかするから良いのじゃ」

 けろりと言ってのけるディアナ。そんな彼女に、やはり竜は怪訝な表情を見せる。……竜の表情など、魔王歴三百年(うち百年は封印されていたが)のディアナにも理解できるわけではないのだが、なんとなくそんな気がした。

「……どうして貴女は、あの娘のためにそこまでするの?」

 第六階級(Sランク)に到達した魔王が、第四階級(Bランク)の小娘如きのために手を煩わす。なまじ個人主義が過ぎる竜族に生まれただけに、この黄金の竜には不可解なことだったのだろう。

 同族だからといって、庇護する義務はない。

 むしろ同じ鬼族でも、正道の(れい)()()()()吸血鬼とでは、仲間意識など湧くはずがない。

 ……分かっている。

 分かっているのだ。この状況が普通でないことくらい、ディアナも理解している。

 けれど――。

「……友達になりたいと、言ってくれたから」

「……?」

 ぽつりと呟いた言葉は、竜には届かなかったようだ。

 ディアナは「なんでもない!」と顔に上ってきた熱を飛ばすように叫ぶ。

 まだ認めていない。きっちりと友人関係が築かれたわけではない!

 半ばムキになって否定の言葉を並べ終えると、ディアナは魔王業を続けているうちに癖になってしまった空咳を打ち、意識を切り替えた。

「ともかく。貴様はルシェの配下となり、その上で友人関係を築く。決まりじゃ!」

「は、はあ? 配下と主君がどうやって友達になるのよ」

「んなもん貴様が考えろ、羽蜥蜴。そのでかい頭は飾りか? それとも中身はスカスカか?」

「し、失礼ね! 私は竜にしては小顔よ! というかいい加減その羽蜥蜴呼ばわりやめてくれないかしら!?」

「おーいルシェー! 話、終わったから戻ってきて良いぞぉー!」

「話を聞きなさいよ吸血姫っ!」

 実力主義の魔物の世界で、弱者に発言権など無いのだ。



白き魔王「喧嘩は対等でなければ起こりえないと言うからな。やはり、友人関係は対等でなければなるまい」

とある友「でもそれだと、貴方は同じ七星継承者じゃなきゃ友達になれないけれど?」

白き魔王「……河川敷で殴り合いの末に友情が芽生えるのが常識だろう。男の友情とはそういうものなのだからな」

とある友「どこの常識なの? というか貴方、そんなんだから友達少ないんでしょ?」

白き魔王「ぼぼぼぼっちじゃねーしっ!? 僕には二人も素晴らしき友がいるし! 自室に引き籠もって現実逃避してたあの頃とは違うから!!」


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