表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/17

吸血姫と出口を目指す白鬼娘



 ディアナちゃんの「わらわの拠点に行くためにも、まずはここを出るのじゃ!」という提案により、私達は出口がある上階を目指して進み始めた。

「そういえばディアナちゃんは、自分が何階に封印されていたのか知ってるの?」

 どのくらい上れば良いのか分からないと辛いものがあるから、一縷の望みを抱いて訊いてみたのだけれど……返答は「分からぬ」という残念なものだった。

「そもそもわらわの封印には、わらわの意識を深く沈める効果があり、封印中はほぼ睡眠と変わらぬ状態にあったのじゃから、外の様子など知りようがなかったのじゃ。まぁ、ここが深淵の塔だということはさすがに分かったが」

「それも第六感?」

「え、だって魔王が封印されるのって『塔』ぐらい……、おほん。そうじゃ! わらわは天才じゃからの。こう……ちょちょいっと感覚を研ぎ澄ませるだけで、ここが第三禁域だということが分かるのじゃ!」

「へえぇ、やっぱり魔王って凄いんだね!」

「と、当然じゃ。なにせ世界の一端を支配する最強種なのじゃからな!」

 えっへん、って感じに胸を張るディアナちゃんがとっても可愛い(プリティー)

 思わず抱きつきたくなるけれど……我慢しておこう。あんまりひっつくと怒られちゃうからね。実際、何回か怒られちゃったし。

 そんな調子で、私達は『塔』を上っていた。

 私の体の中にいたルシフェードとは違って、ディアナちゃんとは面と向かってお話ができる。それがとっても嬉しくて、彼女と色々話していると、一日がすぐに終わってしまう。もっとも、ディアナちゃんはちょっと疲れたような顔をしていたけれど。

 食事なんかはそこら辺の魔物で済ませられるし、水は私の魔法で補給できるから、特に問題は無かった。強いて不満な点を上げるとすれば、冷たい石の床の上で眠ると体が冷えるし堅くて寝づらいしで辛いことくらいかな。

「なぜ魔王たるわらわが、奴隷の如く汚い床の上で寝なければならないのじゃ。……あぁ、ふかふかのベッドが恋しい……」

 なんてディアナちゃんは遠い目をして呟いていたけれど、この危険な迷宮でそんな贅沢できるわけがない。持ち運ぶのが大変だし、そもそも素材も無ければ作り方も知らないしね。

 ルシフェードの知識にベッドがどのようなものなのか載っているけれど、それでどうにかできる問題でもない。彼の知識も万能じゃないってことかな? ……ううん、この場合は状況が悪いだけだ。

 そんなこんなで文句を口にしつつも『塔』の出口を目指して歩いて、五日。

 道中に遭遇する魔物を私は刀、ディアナちゃんは吸血鬼の能力だという血を操る魔法でバッタバッタ倒し、時に何か言いかけた竜族を先手必勝でぶち殺していたけれど、その途中でディアナちゃんがこんなことを言った。

「む……ルシェよ。妙な気配がする」

「美味しいご飯?」

「違うわっ!」

「じゃあ、強敵(美味しいご飯)?」

「違っ……わない、のか? ううむ、やっぱりニュアンスが違う気がするのじゃ……って、そんなことはどうでも良いのじゃ!」

 違うのか。残念。最近、遭遇する魔物にあんまり強いのがいなくて、つまらなくなってたんだよね。もし強敵だったら良い経験をたっぷり積めて、ついでに食料にもできたかもしれないのに。

 怒鳴っていたディアナちゃんは、その可愛らしい(かんばせ)を真剣なもの(でも可愛い!)に変えて、とある方向――その先にある大きな扉を()め付ける。

「これは……『黄』の魔力じゃな。階級的にはAの上位ってところかのう」

「それも第六感?」

「当然じゃ」

 その後に小さな声で続いた「まぁ『塔』で目立つ力なんて、ここで生まれてなんとか生き残ったAの上位くらいしかいないんじゃが」という言葉は聞き流した方が良いのかな?

 ともあれ、第五階級(Aランク)の上位……か。

 つまり、第五階級(Aランク)の中でもかなり強い部類、ってことだ。六段階に分けられているとはいっても、それは大まかなもので、それほど正確ではない。同じ階級でも天と地ほどの差がある場合も珍しくはないのだ。そこら辺は種族としての強さというより、個々人の資質の問題みたいだけれど。

 私がディアナちゃんの封印を(そんな気はしなかったのだけれど)解いた時に戦ったドラゴンも第五階級(Aランク)ではあったけれど、あれはたぶん第五階級(Aランク)の中でも下から数えた方が早いだろう。だって、まだ第四階級(Bランク)の私の一撃で首が落ちるような奴だったし。

「ま、行ってみれば分かるじゃろう」

「え? 食べに行くの?」

「違うわっ! いい加減、食事から離れるのじゃ!」

「でも、倒した後は食べるんだし、変わらないよね?」

「む、むむむ……っ!」

 悔しそうな顔で唸るディアナちゃん。

 なんだ、ディアナちゃんも食べる気だったんだ。でも、実体を持たないらしい(ゆう)族や妖精族、精霊族とかだったら食べるところがないし、そういうところを考えてディアナちゃんは食事を第一にしなかったのかもしれない。さすが魔王だね!

「ディアナちゃんは凄いなぁ」

「い、いきなりどうしたんじゃ? いや、わらわが天才的に素晴らしいのは全世界が認めることじゃが……いや全世界はないか。大陸? それくらいならまだあり得る……」

「ディアナちゃんは可愛いなぁ」

「む、むぅ!? なぜだか馬鹿にされた気分なのじゃ……」

 ……? おかしいな、褒めたのにディアナちゃんががっくりと肩を落としてしまった。

「……と、とにかく! 強そうな奴じゃったらわらわが適当に()してやるから、よく見ておくのじゃよ、ルシェ! 吸血姫と呼ばれた、このわらわの力をな!」

「えー、強そうな奴だったら私が戦いたいなぁ」

「ええい、うるさい! わらわがやると言ったらわらわがやるんじゃ!」

 ムキになるディアナちゃんが可愛い!

 でもこれだけ言われると、さすがに私が戦うわけにはいかないよね。すごく……すっごく戦いたいけれど、ディアナちゃんが戦いたがってるし。

 ……あ、でも。意地悪されて()ねるディアナちゃんも可愛いかも。

 そう思うと、ディアナちゃんに先んじて、彼女の言う『強敵』とやらを倒してしまいたくなる。すっごく意地悪な考えだけれど、ディアナちゃんの可愛いところを見たいっていう純粋な思いからだし、なにも問題はないよね!

「ふふふっ」

「……? なんだか寒気がするのじゃ……ルシェ、妙なことを考えてはおらぬよな?」

「えー? 虐められて拗ねるディアナちゃんの姿が見たいだなんて考えてないよー?」

「こ、こやつ……なんてサドっ気溢れる娘なのじゃ……! というかわらわ、魔王なのに虐められるって……」

 ブツブツ呟きながら、ディアナちゃんはその場にしゃがみ込んで床にぐるぐると○を書いている。……完全にいじけちゃったかな?

 でも、そんなディアナちゃんもとっても可愛い。胸の奥がきゅっとなるくらい、ディアナちゃんが愛らしく感じてしまう。

 この姿が見られただけで大満足だけれど、どうせなら『強敵』とやらとも戦っておきたい。ディアナちゃんほどの強さを持つ存在が『強敵』と評価する相手なら、未だに制御し切れていない『白』の力をぶつけても簡単には壊れないだろうしね。

「ほらディアナちゃん、そんなところに座ってないで、早く行くよ?」

「うう……わらわの魔王としての威厳が……吸血姫としての威光が……」

 未だにブツブツと呟き続けるディアナちゃんを連れて、私は黄色で塗られた大きな扉の前に立つ。

 ルシフェードやディアナちゃんの時と同じ、他よりも色鮮やかで荘厳な扉は、内側で待つ者の強大な力を抑えきれずに溢れさせている。その漏れ出す僅かな魔力さえ、全身が震えるほどに力強くて、私の闘争心にさらなる熱を加えた。

「……あれ? てっきり『塔』を徘徊する魔物じゃと思ったんじゃが……門番だったのかのう?」

 そんなことをディアナちゃんが呟いた時――。

 私はある予感――或いは気配を感じ、腰に差す白銀の刀、〈()(チヨウ)(ハク)(レン)〉を引き抜いた。

「ん?」

 そして、ディアナちゃんが首を傾げると同時。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


「うぎゃあ!?」

 私は咄嗟に通路の端に寄って避けたけれど、なにやら考え事していたディアナちゃんは飛んできた扉を回避できずに衝突し、吹き飛んでいく。

「ディアナちゃんっ!」

 私が名前を呼ぶと、ディアナちゃんは一緒になって飛ぶ扉を()()()()()()()()()()()、その反動で強引に自身の体を床につけると、ガリガリと床を削りながら勢いを殺す。吸血鬼の強靱な体により傷は負っていないだろうけど、なんて強引な着地だ。

「番人は決して守護領域の外に出ない……まさか、封印が解けた――!?」

 彼女の驚愕は、突如廊下に響いた声によって掻き消された。

 それは、吹き飛んでしまった扉が封じていた部屋の中より、まるで獣の咆哮の如く放たれる。


「我の眠りを邪魔する奴は、誰だ――ッ!!」


   ◆ ◆ ◆


◆ルシェ=ヴァイス

 年齢:0(生後十数日)

 性別:女

 階級:B

 種族:鬼族・霊鬼

 職業:白銀剣士

 恩恵:『■■■の祝福』

 称号:『白の継承者』『反逆者』『英雄』『魂喰い(ソウルイーター)』『竜殺し(ドラゴンスレイヤー)

 技能:『光魔法・上級』『氷魔法・上級』『水魔法・下級』『???・下級』『因果の打倒』『英雄謳歌』『霊魂捕食』『怪力・並』『火炎の吐息(フレイムブレス)・真』『豪腕』『白色耐性・並』New!『青色耐性・弱』New!『酩酊耐性・強』『刀術・二段』『剣術・初段』『槍術・初段』

 武装:〈()(チョウ)(ハク)(レン)〉……『(はく)(りん)の魔王』の愛刀。特殊技能【()(げん)(せっ)()】が使用可能。

    魔剣〈無銘〉……短剣の下位魔剣。切れ味上昇の効果がかかっている。

 特徴:背中まである白銀の髪。ぱっちりとした紅い瞳。額から二本の紅い角が生えている(任意で収納可能)。身長156センチ。



「私がディアナちゃんの封印を解いた時に戦ったドラゴンも第五階級(Aランク)ではあったけれど、あれはたぶん第五階級(Aランク)の中でも下から数えた方が早いだろう」

 ↑そんなわけない。


「わらわの魔王としての威厳が……」

 ↑最初から無い。


 申し訳ありませんが、私生活が忙しいため、更新速度を落とさせていただきます。週一更新が限界……といった感じです。

 なるべくこれ以上ペースを落とさないようにはしますが、もし投稿が無ければ、「あぁ書く時間が無かったんだな……」と思って頂ければ幸いです。


『白色耐性・並』……光耐性Ⅱ、氷耐性Ⅱの補正をかけ、その他『白』に類する(マイナス)方向の効果を0.87倍にする。


『青色耐性・弱』……水耐性Ⅰ、氷耐性Ⅰの補正をかけ、その他『青』に類する負方向の効果を0.95倍にする。


 実は、氷は『白』にも『青』にも当てはまる属性です。

 色によって効果が変わる、とかはほとんどありませんが……強いて言うなら、『白』の氷には若干の(プラス)属性が付与され、『青』の氷の方が若干凍結スピードが速い……といった感じでしょうか。まぁ本当に微細な差ですが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ