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ドラゴンを斬り伏せる白鬼娘

 少し時間が経過します。



 ィィン――と。僅かな振動が空気を伝導する。

 虚空に描かれたのは、一筋の(ぎん)(せん)

 遅れること数秒――巨大な竜の頭が、重量のある音を立てて私の前に墜落した。

「……ふぅ」

 張り詰めた空気を吐き出し、私は振り抜いた刀を鞘に戻す。慣れたもので、最初の頃は指を切ってしまわないかビクビクしていた納刀も、鯉口の辺りを注視せずともスムーズに行えるようになっていた。

 雨のように降りかかる鮮血から逃れるために後退しながら、私はつい先ほど切り伏せた巨体を仰ぎ見る。

 炎竜の異名を持つ、第五階級(Aランク)の竜族。

 ――通称、ドラゴン。

 赤黒い鱗と強靱な皮膚を持ち、凶悪な牙が並ぶ口腔から超高温の火炎を吐き出す絶対強者。その爪も、尻尾も、全てが強力な武器であり、同時に希少な素材でもあるそいつは今、綺麗な首の切断面から(おびただ)しい量の血液を噴き出していた。

 ルシフェードの愛刀の切れ味は抜群で、鋼鉄よりなお固い(らしい)ドラゴンの体すら易々と斬り裂いてしまった。まぁ一応、私の力が上がったことも理由ではあるんだろうけど……ただの魔剣などとは比べものにならないほど高性能であることは明らかだ。

 ルシフェードと別れてから、十日ほど経った……と思う。時間を正確に測る(すべ)がないから、睡眠を取った回数で数えただけだけど。

 今後の方針を決めた私は、まずこの迷宮――ルシフェードの知識曰く深淵の塔――から脱出すべく、上り階段を探し始めた。普通、塔からの脱出を望むなら下へ下へ進んでいくものだけれど、どうやらこの深淵の塔は()()()()()塔のようで、地上への出口は上の階にあるらしい。これは全部ルシフェードの知識だから、たぶん間違いはないはず。

 で、ルシフェードと別れた階層から三回ほど階段を上り、その途中で遭遇した魔物を狩って進化した力の確認を行ったのだけれど……正直、『白』の力が強すぎて、どの程度が本来の自分の力なのか分からなかった。いや、『白』は正式に私が継いだわけだから私の力ってことで間違いはないんだけれど……いまいち馴染めてないというか、扱いきれないというか、まだ完全に私のモノにはなっていないんだよね。

 早く完璧に制御できるようにならないと……って思うけど、こればっかりは時間を掛けてゆっくりじっくり馴染ませていくしかないのかも。

 あと新発見だったのが、この服。ルシフェードの拘りで作られたこともあってか、刀と抜群に相性が良く、とても戦いやすい……のだけど、最初にオーガと戦った時のような技術も何もない戦い方には向いていないみたいで、完全に刀だけで戦うしかなかった。魔法はまだ『白』の力が制御できていないからあんまり実戦では使えないし。

 けど、それ以外の点は全然気にならなくて、何らかの魔法が掛かっているのか汚れてもすぐに綺麗になるし、ドラゴンの炎の息吹(ブレス)を喰らっても全然燃えないしと、もの凄く便利で強力な服だ。さすが魔王の武装、第五階級(Aランク)なんて敵じゃないね!

 ……、なんか感覚が麻痺しちゃうなぁ。

 ちなみに食料の問題は、ルシフェードの知識のおかげで料理することを覚えたから、なんとか不味いものも食べられるようになった。それでもまともな道具も素材もないから、狩った魔物の肉を焼く程度しかできなかったけど。

 また、水は、三日くらい水場が見つからなかった時に必死に水が欲しいと願ったら魔法が発動し、なぜだか水が出てきたので解決した。便利だなぁ、魔法。……でも、なんでいきなり使えるようになったんだろう? これも『白』の力なのかな。

「……、」

 今までを振り返る思考を一度止めて、私は頭を少し離れたところに転がしながら血海に沈むドラゴンの死体を眺める。

 うーん……大きいなぁ。私、よくこんなの斬れたね。

 制御できていなくても『白』の力があれば何とか倒せたとは思うけど、無傷な上で一刀のもとに斬り伏せられたのはルシフェードの武装のおかげだ。また私は、彼に恩ができてしまった。

 ダメだね。自立しようと思った矢先にこんな感じじゃ、いつまで経っても彼から離れられないよ。

 ……まぁ、それが分かっていても、この武器と服は使わせて貰うけど。

 …………。

 ……、何回かは、この武器や服に頼らないで戦ってみようかなぁ。

 うーん、また今度考えよう。

 とりあえず今は、目の前のドラゴンをどうするか考えなきゃね。

 ルシフェードの知識曰く、ドラゴンは全身が希少な素材になるらしいから、できるだけ沢山持って行きたいんだけど……鱗一つ取っても持ち運ぶには大きすぎるし、血液とかは入れておく容器もないから持って行けないし……いっそ放置で良いかな? あ、でもお肉は食べるために持って行こう。

 三日前に倒したドラゴニュートが使っていた背負い鞄から、これまた五日前に殺したリザードマンが持っていたナイフを取り出し、ドラゴンの肉を切り取る。この迷宮で出会う魔物達は様々な武装をしているけれど、この鞄を持っていた奴はなかなかにレアだったなぁ。……そういえば彼(?)、なんか話しかけてきた気がするけど、私、竜族語なんて知らないし、無視して斬りかかっちゃっても問題なかったよね? 

 …………。

 うん、過ぎたことだ。忘れよう。

 切り取ったドラゴン肉を鞄に入れて、ナイフも鞘に収めてから仕舞う。なんとなく勿体ないし、いくつか小さめの鱗も回収して……っと。で、最後に『霊魂捕食』でドラゴンの魂を喰らって……終了!

「よしっ」

 ドラゴンから目を離し、周囲を見渡す。

 迷宮内の通路ではなく、大部屋。出入り口は二つで、どちらも美しい深紅で彩られた大きな扉だ。まるでゴーレムと戦ったところみたいだ。

 もうこの部屋に用はないし、一歩を踏み出そうとして――けれど、足が止まる。

 ……あれ?

 私、どっちから入ってきたっけ……?

「むぅ……」

 目印なんかないし、地図なんて便利なものも持っているはずがない。

 んー……。

 どっちでもいいや。

 頭を捻ったところで答えが出てくるとは思えないし、そんな長々と考えているのも面倒くさいし、適当に選んでちゃっちゃと進もう!

「こっち!」

 選択理由は近かったから。まぁそんなに変わるものでもないけれど。

 扉の中央には、薔薇と、その周囲に散る水飛沫の意匠が施されていた。赤い色もあって、それは血液を模しているようにも思える。

 なんだか扉から魔力を感じるけれど……入ってきた時は特に感じなかったし、違う扉だったのかな? 別に良いけど。というか、それで正解だし。

 ぐっと力を入れ、押し開ける。すると、ゴゴゴ……と床を擦りながら開き始め――。


 轟ッ! と。

 鮮血にも似た深紅の魔力が、私を飲み込んだ。


「――っ!?」

 反射的に魔力を(おこ)し、体を守るように『白』で満たす。まだ制御が完璧ではないから自分の力で自分の体に痛みが走るけれど、今はそっちを気にしている場合じゃない……!

 襲い来る濃密な『赤』の魔力に抗いながら、私は思考する。

 前にもこんなことがあった、ような。

 そうだ。ルシフェードの肉体が封印されていた部屋を開けた時も、確か、彼の圧倒的なまでの『白』の魔力が襲ってきたんだ――。

 ってことは、この先には、何か強大な力を持った存在が封印されている……ってこと?

 ……、それは……不味いよね?

 あ、もしかして、さっき私が斬り伏せちゃったドラゴンは、ルシフェードの肉体を封印する部屋を守っていたゴーレムみたいに、この部屋を守る番人だったってこと!?

 やばい……やばいよ。それ、私が殺しちゃったよっ。

 ぐぬぬぬ……。

 し、仕方ない。本当に仕方ないから――。


 その封印されている危険な奴、私がねじ伏せちゃおう!


 だって、封印されるほどってことは、とっても強かったってことでしょ? そんな存在がいるって知ってしまったら、鬼族としては勝負を挑まないわけにはいかないよねっ!

「ふふっ……!」

 気付いたら、口の端が持ち上がっていた。

 圧倒的な強敵と戦うことで、この制御しきれない力を正確に操ることができるようになるかもしれないし、悪いことじゃないよ。うん。

 絶対に勝てないってほどに実力がかけ離れていたとしても、ルシフェードの武装があれば退路くらいは作れるだろうしね。

 ――けれど。

 そんなことを考えながら、深紅の魔力が充満する部屋の中央に進んだ私の目に映ったのは――棺桶だった。

 ……? 死体を保管しているのかな。

 でも、ただの死体が、こんな強大な魔力を放てるなんて考えられない。

 死体を曝くなんて最低な行いだけれど、確かな生命の気配を棺桶の中から感じた私は、紫の逆十字が描かれた棺の蓋を――ひと思いに開け放った。

 ――そして。

 その中に収められていた死体は――否、眠っていた存在は、果たして。


「――ん……わらわの眠りを妨げるのは、どこの勇者(バカ)かの?」


 まるでお人形のような――なんて陳腐な表現だけれど、()()にはその言葉がぴったりだった。

 ルシフェードの知識を借りて表現するなら、可憐なビスクドールのごとき少女。

 磁器のように真っ白な肌が、彼女のツインテールに()った(あか)い髪を素晴らしく映し出す。たっぷりと幼さを残しつつも完成された美はその小さな(かんばせ)に凝縮され、見る者全てを彼女の魅力に問答無用で引きずり込むだろう。

 その細身の肢体も、小ぶりな乳房も、全てが妖しい魅力で私を誘う。

 ああ――。

 まさに、神が創りたもうたと言える少女を見て、私は――。


「か――か、わ、い、いぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい――っ!!」


 抱きつかずには、いられないのだっ!


   ◆ ◆ ◆


◆ルシェ=ヴァイス

 年齢:0(生後十一日)

 性別:女

 階級:B

 種族:鬼族・霊鬼

 職業:白銀剣士

 恩恵:『■■■の祝福』

 称号:『白の継承者』『反逆者』『英雄』『魂喰い(ソウルイーター)』『竜殺し(ドラゴンスレイヤー)』New!

 技能:『光魔法・上級』『氷魔法・上級』『水魔法・下級』New!『???・下級』『因果の打倒』『英雄謳歌』『霊魂捕食』『怪力・並』『火炎の吐息(フレイムブレス)・真』New!『酩酊耐性・強』『豪腕』『刀術・二段』New!『剣術・初段』New!『槍術・初段』New!

 武装:〈()(チョウ)(ハク)(レン)〉……『(はく)(りん)の魔王』の愛刀。特殊技能【()(げん)(せっ)()】が使用可能。

    魔剣〈無銘〉……短剣の下位魔剣。切れ味上昇の効果がかかっている。

 特徴:背中まである白銀の髪。ぱっちりとした紅い瞳。額から二本の紅い角が生えている(任意で収納可能)。身長156センチ。



 美少女に反応するのは白き魔王の影響だったり……。

 あ、でもやっぱり本人の気質でもありますわ。


 なお、鬼族は戦闘狂なのがデフォです。仕方ないね。ルシェはその傾向がちょっと他より強めだけど、むやみやたらに戦闘ふっかけるほどじゃないよ。たぶん。


竜殺し(ドラゴンスレイヤー)』……竜を殺した者に与えられる。(竜族特攻Ⅲ 筋力上昇Ⅰ)


『水魔法・下級』……多少の水の魔法を扱える。初期のもの以外は自力で生み出せるが、あまり効果は期待できない。(【水球(ウォーター・ボール)】【水弾(ウォーター・バレット)】)


火炎の吐息(フレイムブレス)・真』……まこと竜の息吹(ドラゴンブレス)を口腔より放射する。


『刀術・二段』……刀の道をそれなりに進んだ。(【風林の構え】【柳一刀】【十二神羅】【流れ牡丹】)


『剣術・初段』……剣の道を歩み始めた。(【鬼神十字】【ラウンドスラッシュ】)


『槍術・初段』……槍の道を歩み始めた。(【双竜の構え】【雷光一閃】)

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