血液
惑星調査隊の唯一の生存者である彼は、その恐怖の体験を話し終えると
安堵したのか、ソファーに深く身を沈め長いため息をついた。
惑星調査隊は未知の惑星で、エイリアンの襲撃を受けたのだ。
面談室の室温は自動的に制御されていたが、その隊員は小刻みに震えていた。
私のデスクモニターには、彼の個人情報が映し出されていたが、わずか一年ばかりの間で
人はこれほどやつれるものなのだろうか?
モニターの画像と、延長線上にある彼の顔を見比べている私の視線に、彼は気づく様子もない。
空調ファンのかすかな音だけが、室内に響いていた。
室内にいる誰もが、重苦しい空気に、呼吸することもはばかられるように感じていた。
「エイリアンの血液ついて、わかっていたのに、早く気がつけばよかったんです」
そういうと彼は頭を抱え込んだ。
惑星調査隊の科学部門の責任者である彼は、自分を責めていた。
「その状況では、君に責任はないさ、そう悩むな」
「でも、小学生でもすぐに分かることですよ、血液の成分がわかれば」
「酸か」
「そうです、中和させれば済むことなんだ、なぜ最初に気がつかなかったのか」
そういうと、彼はまた頭を抱え込んだ。
「しかし土壇場で、強アルカリ弾を間に合わせた君の技術はすごいじゃないか」
「しかし、なんだね、血液が酸(3)ということは、骨は(4)かな?」
私は、重苦しい空気を追い払おうと、オヤジギャグを飛ばしたつもりであったが、さらに冷たい
空気まで追加したようだった。
かすかに彼のマユが動いたようであったが、それは軽蔑の意味でしかないように思われた。
以外だったのは、彼の後ろに控えめに座っていたエイリアンが、かすかに苦笑していることだ。
わずか一年の間に、ここまで地球の言語を理解するとは、たいした知能だ。
そのグロテスクなエイリアンは
頭を抱え込んでいる彼の肩ごしに両腕をまわして、やさしく彼を抱擁しはじめた。
かすかに頭部と思われる部分が赤らんでいるように見える。
室内にいる誰もがその不思議な光景に言葉もなかった。
「体質が中性になって、性別も中性になったということか」
そのエイリアンは、明らかに彼になついていた。